皇帝の本性
第二部完結まで残り4話
「ドグラス=ファールクランツ、ただ今帰還いたしました」
黄道宮の謁見の間。ファールクランツ侯爵と僕、それにリズは、皇帝の前で傅き、首を垂れる。
帝都に到着するなり、僕達は真っ先に皇宮へと向かった。もちろん、全てを報告するために。
なお、リズは僕を支えるために付き添ってくれた。
残念ながらこの怪我では、まともに振舞うことはできないから。
……いや、違うか。
リズは、僕が悲しまないように、寄り添ってくれているんだ。
「うむ、ご苦労だった」
「ファールクランツ卿、それにルドルフ殿下、リズベット……本当に、お疲れ様でした」
皇帝と隣に座るアリシア皇妃が、労いの言葉をかけてくれた。
だけど、二人の表情はまるで違うけどね。
心から労ってくれていることが分かるアリシア皇妃に比べ、皇帝は、僕を睨みつけていた。
この男にとって、僕が生きていることがこの上なく気に入らないのだろう。
今なら、スヴァリエ公爵の反乱について報告した時に見せた、皇帝のあの表情の意味がよく分かる。
だって僕は、皇帝の愛人が他の男との間に作った、郭公だったのだから。
ちなみに、もう一人の皇妃であるオスカルの母のカタリナ皇妃は、興味なさそうにあくびをしていた。
かなりの大事だというのに、この態度……ある意味、大物なのかもしれない。
「では、反逆者ヨーラン=フォン=スヴァリエがどうなったか、報告せよ」
「はっ」
ファールクランツ侯爵は、事の顛末について全て報告した。
もちろん、僕がスヴァリエ公爵の子供であることも。
「……以上となります」
「そんな……」
報告を聞き終え、アリシア皇妃が絶句する。
当然だ。まさか僕が、皇帝と血が繋がっていないとは、思ってもみなかったのだろうから。
僕だって、この話をヴィルヘルムから聞かされた時は、かなり驚いたし。
ただ、僕の場合は誰が僕の父親なのかなんて、興味がなかったから。
僕が父親のように慕っているのは、ファールクランツ侯爵だけなのだから。
「……では、ヨーランに加担していたベアトリスは極刑。その息子であるルドルフも、連座して同じく極刑だ」
「っ!?」
アリシア皇妃が、皇帝の言葉にさらに声を失った。
……皇帝がこんなことを言い出すことは、僕、リズ、ファールクランツ侯爵は予想していた。
だから。
「お待ちください。此度のスヴァリエ公爵の反乱鎮圧において、最も功績を上げたのはルドルフ殿下にございます。そのような処分をされては、全てを見ている五千の兵達が黙っていないでしょう」
ファールクランツ侯爵は、『もちろん、この私も』という一言を付け加え、皇帝を牽制する。
つまり、ここで僕を処分しようものなら、明確に皇帝の敵になると告げたのだ。
帝国軍のトップが敵に回る……即ち、帝国の崩壊を意味することになる。
いくら皇帝でも、そのことくらいは理解できるだろう。
「ぬう……っ! “黒曜の戦鬼”ともあろう者が、このような屑に情が移ったか!」
皇帝は怒りに任せ、立ち上がって僕を指差しながら責め立てた。
だけど……はは、今の台詞ではっきりした。
やっぱり皇帝は、この僕がスヴァリエ公爵の子供であることを、最初から知っていたんだ。
そう考えれば、これまでのことが全て理解できる。
どうして、僕がロビンに酷い目に遭わされていても、使用人達から蔑まれていても、見逃され続けていたのかを。
最初は、僕が私生児で、ベアトリスが無理やり皇位継承権なんかをねだったせいで、皇宮内に溜まった不平不満を解消するため……そう思っていた、
皇帝という立場だから、それも仕方ないのだと。
だけど、分かってしまったらなんてことはない。
要はこの皇帝が、スヴァリエ公爵に嫉妬していただけなんだ。
愛人が実は下に見ていた男に懸想していて、皇帝である自分がスヴァリエ公爵に男として負けたことに。
ファールクランツ侯爵やリズも、そのことに気づいたようで。
「……ほう? では陛下は、屑と罵るような者を、私の愛娘の婚約者としてあてがったということでしょうか」
「ぐ……」
反論できず、皇帝が唇を噛む。
おそらく、僕をリズの婚約者として打診したのにも理由があったのだろう。
普通なら、軍事力トップの貴族家を皇族に引き入れるのだから、もっともらしい理由になるのだろうけど、こうなると絶対に別の理由からだ。
「ひょっとして……ファールクランツ閣下とスヴァリエ公爵を、衝突させたかった……?」
僕は、わざと呟いてみた。
あるいはスヴァリエ公爵との関係を持たせることで、帝国内で力を持つファールクランツ侯爵を連座して断罪し、排除したかったという思惑もあったのかもしれない。
さらに深読みをすれば、婚約の時点で既にリズと恋仲だと思われていたヴィルヘルムに横槍を入れることで、ファールクランツ家の軍事力が欲しかったスヴァリエ公爵を牽制していたということも……。
いずれにせよ、この男はそこまで考えていたのか。
本当に、嫉妬というのは怖いものだなあ……。
すると。
「……どちらにしても、スヴァリエ公爵に加担し、皇室に混乱を招いたベアトリスは死刑。ルドルフ殿下……いえ、ルドルフ公子と言ったほうがいいかしら。彼は、身分の剥奪と皇宮からの追放が適当かと」
今までつまらなそうにしていたはずのカタリナ皇妃が、にこやかな表情でそう告げた。
お読みいただき、ありがとうございました
「暴君皇子」につきまして、本日で第二部が完結!
残り3話です!
次回以降は19時、20時、21時に更新予定!
どうぞお楽しみに!
ついては、読者の第二部ラストに向けて皆様の応援をよろしくお願いします!
応援にあたっては、ぜひとも
『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!
このまま大団円を迎えるため、どうか最後までよろしくお願いします!!!




