表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

109/126

対峙

「こんなところで、一人だけのんびりしているなんて余裕じゃないか」

「っ!? ……ルドルフ……ッ!」


 とうとう僕達は、ヴィルヘルムを発見した。


「どうやってここに……」

「簡単だよ。貴様なら知ってるんじゃないか? このヴァンダにある、脱出用の地下通路を」

「っ!?」


 意外だったらしく、ヴィルヘルムがさらに狼狽(うろた)える。

 へえ……そっちの姿のほうが、よく似合うよ。


「いつも余裕ぶっているくせに、珍しいな」

「…………………………」


 ヴィルヘルムが、琥珀(こはく)色の瞳で僕を睨みつけた。


「ところで……どうして貴様しかいないんだ? 貴様のことだから、万が一に備えて護衛を潜ませていても、おかしくないと思ったんだけど」


 そう言って、僕は周囲を見回す。

 どうやら、本当に誰もいないみたいだ。


 まあ、五千の兵で正面から攻め込まれては、たった千人しかいないスヴァリエ軍では、護衛に回すほどの余裕もないということか。


 だけど。


 前世の記憶を取り戻してからの僕が知った、ヴィルヘルムという男。

 それは、『ヴィルヘルム戦記』にあるような、誰もが憧れた……初恋の女性(ひと)が憧れた英雄(・・)とは程遠い、卑怯で、卑劣で、狡猾な奴だ。


 そんな男が、果たしてなんの備えもなしに一人でいたりするのだろうか……って。


「殿下!」

「っ!?」


 マーヤに強引に引っ張られ、僕は体勢を崩してよろめく。


 そこへ。


 ――トッ、トッ。


 二本の投げナイフが、床に突き刺さった。


「外しましたか」

「「「っ!?」」」


 一人の女性が、姿を現す。

 輝く白銀の髪と、虚無を(たた)える灰色の瞳。


 彼女が、ナイフを投げた張本人のようだ。


「はは、やっぱりね。決して正々堂々と戦おうとはしない、貴様らしいな」

「フン」


 僕の皮肉を、ヴィルヘルムはふてぶてしくも鼻を鳴らして受け流す。

 この態度だけは、英雄と同じかもしれない。


「それで? 見たところ、その彼女はルージア人みたいだけど」

「ああ、そうだ。それも、ルージア皇国屈指の暗殺者。貴様等を(ほふ)るには、おつりがくる」


 なるほど、ね。

 だからコイツは、余裕でいられるということか。


 自分の実力は、僕にすら及ばないくせに。


 でも、それ以上に。


「……今の言葉、本気なのか?」

「本気とは?」

「貴様の言った、『貴様等を(ほふ)るには、おつりがくる』がだ!」


 怒りに任せ、僕は叫んだ。

 何故こんなに怒っているかって? 当然だ!


 僕に対しての言葉ならいい。所詮僕とヴィルヘルムが、相容れることはないのだから。

 だけど! コイツの放った『貴様等』には、リズが含まれているじゃないか!


「やはり貴様は、リズをファールクランツ家の軍事力を手に入れるための道具としか見ていなくて! それで、僕とリズの思い出を利用して! (だま)して! リズを……リズを、ただ(もてあそ)んだのか!」

「……だから、どうした」


 ヴィルヘルムが目を逸らし、そう吐き捨てる。

 やっぱり、この男にとってリズは……って。


「ルディ様……あなた様が気に病む必要はございません」

「リズ……?」


 リズが、僕の手をそっと握りしめた。

 僕に、微笑みを向けながら。


「この男が本当に私に懸想しているのだとしたら、それこそ迷惑というものです」

「ですが……それでは、君があまりにも……」

「私は、あなた様の想いだけが欲しいのです。なら、むしろ私にとってそのほうが助かります。この男が本気で私のことが好きだと言われても、困ってしまいます」


 どうやらリズは、本気でそう思っているようだ。

 君が傷ついていないのであれば、僕は構わないですが……って。


「……っ」


 ヴィルヘルムが、血を流すほど強く唇を噛んでいる。

 そうか……コイツ、実は……。


 でも。


「……もういいだろう。そこの彼女が加わったところで、貴様はもう終わりだ。それに……聞こえるだろう?」


 そう言うと、僕は耳を澄ます。

 聞こえてくるのは。


『城門が開いた! 全軍、突き進めえええええええッッッ!』

『『『『『おおおおおおおおおおおおおおッッッ!』』』』』


 ファールクランツ侯爵の張り裂けんばかりの声と、それに応える五千の兵士の気勢。

 これで、勝負ありだ。


 なのに。


「ク……クハハ……」

「……ヴィルヘルム?」

「クハハハハハハハハハ……ハア。そうだな、今回は(・・・)貴様の勝ちだ」


 大声で笑いだしたかと思うと、ヴィルヘルムは大きく息を吐き、肩を(すく)めた。

 しかも、まさかこの男が負けを認めるなんて……。


「なので、ここで貴様等を始末し、俺は()に備えることにしよう。だから……死ね」

「っ!?」


 ヴィルヘルムの合図と同時に、ルージアの女がキンジャールと呼ばれる短剣を両手に握りしめ、僕目がけて襲いかかってきた。


 それを。


「…………………………」

「見くびらないでください。この私が、好きにさせるとでもお思いですか」

「リズベット様、ここは私が」


 ルージアの女のキンジャールを、リズの槍とマーヤのマチェットが受け止めた。


「ルディ様。この女は、私達が仕留めます。あなた様は、ヴィルヘルムを」

「リズ……マーヤ……」


 リズとマーヤが、僕を見て頷く。

 そうだね……僕を守り、自分も守り抜くと誓ってくれた君達だ。


 なら、僕は君達を信じ、そして。


「二人共、頼んだよ。僕は……ヴィルヘルムとケリをつけるッッッ!」


 (さや)からゆっくりとネイリングを抜き、構えた。


 切っ先を、同じく剣を抜く、ヴィルヘルムへ向けて。

お読みいただき、ありがとうございました!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、

『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!


評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 暗殺者はマーヤよりも強いのかな?
[一言] ヴィルヘルムが敵役として小物にしか見えないから、これでなんだかんだで仕留めきれずに逃がしたら 主人公達が小物に翻弄される無能にしか見えなくなる
[一言] 自分のことしか考えられないヴィルヘルムには王の器は備わっていない。仮に王国を掌握したところでまっているのは民衆の一揆しかのこっていない。力づくで国が栄えた試しなどないのにな。 後顧の憂いを断…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ