禁断の果実
「アンネのこと、ですが……彼女が、禁制の薬物に手を染めていることが分かりました」
「「っ!?」」
テレサ夫人の告げたとんでもない結果に、僕とリズは息を呑んだ。
「そ、それは本当ですか!?」
「間違いありません。瞳孔が開き、僅かに独特の臭いもありましたので……」
「そんな……」
だけど……そうすると、アンネがヴィルヘルムに寝返った理由って……。
「で、では、アンネはヴィルヘルムに無理やり薬物依存にされてしまったということですか?」
「それは分かりませんが、少なくとも一年以上は常用していると思われます。殿下が学園に入学されてから、まだそれほど日にちが経っておりませんので、可能性としてはどうでしょうか」
となると、アンネがヴィルヘルムと接点を持っていたのは、一年以上も前…………………………あ。
「まさか……」
「……ルディ様も、そうお考えになりましたか」
どうやらリズも、思い至ってしまったか。
一年以上も前にヴィルヘルムがアンネと接点を持つ機会があるとすれば、それはリズが僕の婚約者になる前……つまり、あの男があの日の思い出を偽ってリズに近づいていた時だ。
リズを騙す裏側で、アイツはそんなことまでしていたっていうのか……っ!
「お母様、マーヤの報告を待つ必要がありますが、アンネはスヴァリエ公爵家子息、ヴィルヘルムと繋がっておりました」
「ヴィルヘルム子息……って」
ここで、テレサ夫人はハッとなった。
婚約する一年前から、リズに言い寄っていたことを思い出したのだろう。
「ウフフフフ……私の子供に手を出すなんて、面白い真似をしてくれたじゃない」
テレサ夫人が、これ以上ないほど口の端を吊り上げる。
だけど、その瞳には明確に殺意と怒りが入り混じっていた。
「ルドルフ殿下、リズベット。こうなったら、ファールクランツ家としてただで済ませるつもりはありません。手を出したこと、必ず後悔させて差し上げましょう」
うわあ……やっぱり、リズとテレサ夫人は親子だなあ……。
リズが怒った時の氷のような冷たさは、母親譲りだということを理解したよ。
「ではお母様、このことをお父様にも……」
「もちろん伝えるわ。ただし、この落とし前は私がつけるわよ。表ではなく、裏の話ですもの」
なるほど……諜報員の元締めをテレサ夫人が担っているのだから、彼女がファールクランツ家の裏の顔なのも当然か。
「いずれにしても、マーヤの報告を聞いてからね。動くにしても、確かな情報が欲しいもの」
「はい」
テレサ夫人の言葉に、僕は頷いた。
スヴァリエ公爵家がファールクランツ侯爵家に敵うとは思わないけど、こちらを危険に晒さないためにも、相手の情報を正確につかんでおくことは大切だからね。
「さて……それでは、せっかくルドルフ殿下にお越しいただいたのですから、おもてなしをいたしませんと」
「い、いえ。お気遣いなく……」
「そういうわけにはいきませんわ。それに……二人が皇宮で仲睦まじく過ごしているか、母親として知りたいですもの」
「お、お母様!」
「あ、あははー……」
結局、僕とリズは、テレサ夫人にこのあと二時間も拘束され、リズとの生活について赤裸々に話す羽目になってしまった……。
◇
「ただいま戻りました……って、お二人とも、どうしたんですか?」
「「…………………………」」
ヴィルヘルムの調査から戻ってきたマーヤが、テーブルに突っ伏している僕とリズを不思議そうに見つめている。
どうしたかって問われると、テレサ夫人の質問攻めに遭い、僕達の体力と精神力は残されていないんだよ……。
「あうあうあうあう……あ、あんなことまで聞いてくるなんて、ルディ様に合わせる顔がありません……」
「あー……なるほど、理解しました」
真っ赤になった顔を両手で覆い隠して身悶えるリズを見て、マーヤは察したみたいだ。
ということは、あれがあの人の正しい姿なのだろう。かなり迷惑かも。
「そ、それで、マーヤのほうはどうだった?」
「はい……少々、よろしくないことが……」
マーヤが、調査結果について詳細に報告してくれた。
なんと、帝都にあるスヴァリエ公爵家のタウンハウスは、もぬけの殻だったらしい。
スヴァリエ家の領地は公爵家らしく、帝国の東の国境を含め、かなり広大な土地を所有している。
おそらく、当主であるスヴァリエ公爵は、その領地にいるのだろう。
だけど……そうだとしても、普通はタウンハウスにも使用人達を置いているはずなのに、誰もいないっていうのはどういうことなんだ?
「それで、無人の邸宅内をひと通り調査したのですが、こんなものが……」
マーヤが、ゆっくりと液体の入った小瓶を見せる。
「これは?」
「……禁制の薬物、“アピウム”です」
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