村人の僕が、歴史上の暴君に転生するなんて
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例えば、ふと目を覚ますと白い天井が視界に入るのと同時に、前世の記憶を思い出したりすることはないだろうか。
いや、ないよ。というかそんなこと、一万歩譲ってもないに決まっている。
じゃあ、僕がたった今経験しているこれは、どう説明すればいいのだろう。
――いきなり前世の記憶が、僕の頭の中に一気に流れ込んでくるなんて。
しかも、まさかこの僕が、皇族どころか貴族ですらない、ただの村人だったなんてね。
とはいえ、それでも今の僕よりかは幸せかもしれない。
だって……こうやって、毒を盛られて生死を彷徨う危険もないのだから。
「っ!? “ルドルフ”殿下が目をお覚ましになられました!」
「早く! 早くお医者様を!」
ああもう、うるさいなあ。
毒の影響で、まともに身体を起こすことも、声を出すことだってままならないっていうのに。
僕は再び目を閉じ、今の状況などについて考える。
そうだ……僕は皇宮主催のパーティーで侍女から受け取った果実水を飲んだ瞬間、血を吐いてそのまま意識を失った。
犯人を特定したいところだけど、心当たりが多すぎて、とてもじゃないけどそれは無理だ。
とはいえ、どうせ僕を排除したい兄上達……第一皇子の“フレドリク”、第二皇子の“オスカル”、そして第三皇子の“ロビン”の手の者だろうけど。
まあ、ここで僕が死ぬなんてことはあり得ないし、最低でもあと十年は生きられることも間違いない。
どうしてそう言い切れるかって?
そんなの簡単だよ。
――ここは、三百年以上も前の過去の世界なのだから。
前世の僕は、毎日の生活を送るだけで精一杯だった、片田舎のしがない村人だ。
貧乏でつまらない男だったけど、そんな僕にも愛読していた本があった。
それが、この時代のことを物語として綴った叙事詩、『ヴィルヘルム戦記』というタイトルの本だ。
内容は、西方諸国にある列強国の一つである“バルディック帝国”を打ち滅ぼし、前世の僕が住んでいた国……“スヴァリエ王国”を建国した英雄、“ヴィルヘルム=フォン=スヴァリエ”の生涯についての物語。
皇帝一族との確執による理不尽に耐えながら力を蓄える幼少期、決して心を開かない“氷の令嬢”と呼ばれた侯爵令嬢との恋愛模様を描いた青年期、そしてバルディック帝国の滅亡とスヴァリエ王国の誕生を記した繁栄期の三部構成となっている。
それで、どうしてただの村人の僕がその本を愛読していたのかと問われると、初恋の女性がそのヴィルヘルムが恋をした“氷の令嬢”との恋愛話が好きだったからという、何とも不純な動機だったりする。
要は、その初恋の女性の気を引きたかったのだ。
教会の神父様に頼み込んで文字を教わって本を読めるようになり、『ヴィルヘルム戦記』の内容の隅々……それこそ一言一句覚えたため、初恋の女性との会話はすごく弾んだ。
……結局僕は振られ、その女性は隣街の商人と結婚してしまったけど。
ま、まあ、前世の僕の話はどうだっていい。
それで、この物語の中で英雄ヴィルヘルムが愛するその“氷の令嬢”を無理やり奪って妃にし、悪政を敷いて『残酷帝』と名を轟かせた挙句、最後はその令嬢によって暗殺されて生涯を終える、稀代の暴君が登場する。
それこそが今の僕、バルディック帝国第四皇子である“ルドルフ=フェルスト=バルディック”なのだ。
まあ、この僕がどれだけ酷い男なのかというと、皇位継承争いにおいて十八歳の時に三人の兄を暗殺するばかりか、父であり皇帝の“カール=フェルスト=バルディック”までも謀殺して帝位を簒奪。
ルドルフが帝位に就いていた間は『赤い冬の時代』と呼ばれ、国民は貧困に喘ぐ中、自分は贅沢の限りを尽くしていた。
大勢の人がどれだけもがき苦しんで死のうが何とも思わず、むしろ笑顔さえ見せるほど、『ヴィルヘルム戦記』のルドルフは壊れていた。
だけど、今の僕の現状を考えれば、それも仕方ないと思えてしまう、
ルドルフの母親は身分も低く、ただ若さと美貌だけで皇帝の寵愛を受けるただの愛人だ。
おそらくは、今もその身体を使って必死に皇帝の機嫌を取っていることだろう。
毒で死にかけの僕なんて、そっちのけで。
一方、母親が他国の王族で由緒正しい血筋を持つ三人の兄からすれば、私生児の僕なんて目障りで邪魔な存在でしかない。
何せ、こんな僕でも皇子として認められている以上、皇位継承権があるのだから。
その結果として、今回のような毒殺未遂事件が起こったわけだし。
だから前世の記憶を取り戻すまでの僕は誰からも愛されることはなく、周りには命すら狙う敵しかいない状況に置かれれば、猜疑心の塊となって自暴自棄になり、傍若無人な振る舞いをしてしまうのも当然だ。
でも……これからはそうはいかない。
このままでは僕は今から十年後、無理やり妃にした侯爵令嬢の手によって殺されてしまう。
……いや、仮に侯爵令嬢を遠ざけたとしても、第二、第三の刺客が現れる可能性は否定できないし、それ以外にも三人の兄達が生きている以上、常に殺される危険を考えないといけない。
なら、僕がこれからすべきことは、こんな皇宮から一刻も早く逃れ、自由を得ることだ。
すると。
「ルドルフ殿下、具合はいかがでしょうか……?」
「あ……う……」
僕は、脈を取りながら訪ねる医者に返事をしようとするが、上手く声が出ない。
毒のせいでろれつが回らないということもあるし、喉が渇き切っているのも原因だろう。
「……回復には程遠いですね。まだ予断は許しませんので、このまま安静になさってください」
「…………………………」
かぶりを振る医者に、仕方ないので僕は目で合図した。
そんな医者の後ろでは、まるで観察でもするかのように見つめている使用人達。この後、本来の主である皇妃や兄達に報告をしに行くんだろう。
医者と使用人は退室し、再び誰もいなくなった。
僕としては、そのほうがありがたい。
「あ……うう……」
大丈夫。僕は、僕の歴史を知っている。
同じ歴史を繰り返すなんて馬鹿な真似は、絶対にしない。
さあ……始めるとしよう。
――このどろどろとした最低最悪の腐り切った皇宮で、僕が生き残るための戦いを。
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