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僕は黒竜見守り隊  作者: 五山 蓮太
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10.最後の晩餐


僕は今、燃え尽きかけている。


僕が求めていたモノよりも美しい最終回を見た後、言葉に出来ない僕の想いを代弁するようにコクシュさんがクロードについて語り、ルーンルシュレイさんは流れてくるEDの違いに素晴らしい考察を話してくれ、二人の話を涙と鼻水を流しながらうんうんと頷く事しかできなかった。

喋ろうとすると更に崩壊しそうで頷くのが精いっぱいだったし、何より二人の語る言葉が僕の言いたい事をほぼ代弁してくれていた。

言葉が出たのは一瞬だけ映った石板の文字の説明だけ。後は只ひたすら他の意見聞きながら溢れて止まらない涙を必死にティッシュでふき取っていた。


「なるほど、通常のモノは子守歌がモチーフ、幻の方は鎮魂歌という事なのだな?」

「えぇ、私はお話が終わる度に流れるこの子守歌は戦士たちに休息を…と言う願いが込められていると思いましたの、けれどあの最後、本来ならばここでこそ皆が迎えた安息の為歌われる…と思っていましたが、6人が歌ったのはまるで永久の別れをした友に送る鎮魂歌…あぁ、素晴らしいですわ…同じメロディですのに言の葉の違いでこうも胸を締め付けられるとは…そして流れる映像…これこそ私達に足らなかったものなのです!今すぐにでもこの気持ちを形にしたいですわ!」

「幻の方はみんなの安息よりも友への鎮魂歌…って事は、全員アテナとクロードの為に歌ったって事かぁ…わぁ…凄いなぁ、なんでこれを許さなかったんだろう…」


「そんなの、あんな別れ方したクロードよりも最後まで戦い抜いた戦士達を優先したかったからじゃない。」

没になったEDに疑問を持つデューネ君に対して冷静に返すのは何処か辛そうな顔をしているディアーナちゃんだ。


「この物語…この世界を守り抜いたのはレッド達よ、彼らをまず称えるのが正しい評価なのよ。」


正に正論。

物語の軸はあくまでも正義のヒーローである。

ブロックドラゴンナイトはあくまで敵役の一人でしかない。



「けど、その評価を変えてまでこの最後にしようとしたのは何故…?そこまでこれからを生きる者よりも“愛”の為に生きた者の結末を見ようとしたの…?」

「ディアーナ…」

「ねぇ…デューネ…姉様達も幸せだったのかなぁ…。」

「そうだと…いいな…。」


そういいながら静かに涙を流す少女に何かを感じ取ったルーンルシュレイさんが静かに後ろから抱きしめる。

デューネ君も彼女に静かに抱きしめる。


「もっと…笑って見送ってあげればよかった…もっと話を聞けばよかった…姉上様ぁ…」



後悔するように泣いている姿を見て僕はこの場に居ていいのだろうかと焦りを抱き始める。


そういえば彼女は最初はみんなと同じように興奮しながら楽しんでいたが、後半、主人公たちの恋愛感情がそれぞれ動き始めた所で口数も少なくなり真剣度を増して集中していた。

見終わった後も僕がだしたグッツの中からファジレンファンブックの『幻想録・ファジレンジャー辞典』を真剣に見ていた。



もしかして、彼女は身近な…“あねうえたち”と似た様な別れをしたのだろうか…。

そうだとしたら過去の辛い事を思い出させてしまったのか…僕は。


「あの…すいません…なんか、その…。」


「そなたが謝る事ではない。むしろ良いモノを見せてくれた事に感謝しかない。」

「でも…」

「あの二人が…姉上達の幸せを再度願える様になるとは…我々にすらできなかった事だ。」

「えっと…?」


ラードゥルラルドさんもどこか辛そうだ、コクシュさんも僕と同じく事情が良く分からないのか彼の腕の中で心配そうに彼女たちを見ている。




「これはこれは…君たちまで居るとは予想外ですね。」


ふと聞こえてきた声に顔を上げるとそこにグラディアドさんがいた。


「グラディアド…さん?何か小さくないですか?」

「ふふ、ちょっと予想外に力を使ってしまったのでね。さて、こちらの準備が出来たのですが、そちらの心残りはもう大丈夫ですかね。」

「あの…ええっと…。」


いきなり再登場したグラディアドさんの姿は最後に見た姿よりも明らかに小さく、50cm位しかないだろう姿で宙に浮いてまるでそこに道があるかの様に歩いてくる。


小さくなったグラディアドさんに驚きつつも、この空間ともお別れの時なのだという事を理解する。

念願だったBlu-rayを見れ、尚且つ今まで体験した事の無い同志との作品トーク…僕の心残りはほぼない状態なのだが…。


先ほどまで泣いていたディアーナちゃん達を見ると申し訳なさそうに座っている。

短い時間とは言え、楽しい時間をくれたこの人たちとこの重い空気の中お別れしなければいけないのか…と思うと他人との別れに寂しさなのか心残りなのか初めての感情に胸が苦しくなってきた。


「さて、君たちが全員そろってこの場に居る事は後で詳しく聞くとして、移魂の準備は整いました、さぁ…っと、どうかしましたか?」

こんなにお世話になったのだから早く次の段階へ行かないと…でも…


「あ…そうだ…。」

「どうかしましたか?」

「あのっ!さ、最後に一つだけやり残したことがあるのですがまだお時間大丈夫でしょうか!?」

「おや、そうですねぇ…まぁもう少しなら大丈夫ですよ。」


優しい言葉に安堵しながらもう一つ尋ねる。


「それと…ここに居る皆さんに是非食べてもらいたいモノがあるのですが、皆さんにこの空間の食事を食べさせても大丈夫でしょうか?」

「えぇ、大丈夫ですよ。」

「あぁ、よかった…。」

「いいのか?貴重なモノなのだろう?」

「はい、えっと…その粗末なモノですが…皆さんとならいい思い出になりそうだと思いまして…。ちょっと失礼します。」



急いで僕は台所に向かい、この日の為に準備していたモノを取り出し最終調整をする。


◆◆◆


「お待たせしました!」

「おぉ…これは!」

「まぁ!」

「「幻想の里のスペシャルプリンだ!」」


涼しげなガラスの器に色とりどりのプリン。

デコレーションに生クリームと昔懐かしいカラースプレーチョコに赤や緑の宝石の様なドレインチェリー。

そして特別に作ったクッキーを添えたファジレン作中に出てきた幻想の里のマスターが特別な回で出すデザート。


僕は特撮にハマり、作中の出来事を色々調べていくうちに出来たもう一つ趣味。

それは作中に出てきた食べ物の再現だ。


美味しそうな食事シーン、リアルには存在しない不気味な食べ物、撮影で使われたなら再現可能だろうと、再現した食事を食べながらその登場回を見るという、まるで作品の中に入りこめた様な作業に僕は没頭した。

ファジレンは喫茶店が拠点でイエローがパティシエを目指していた事から甘いデザートが多く、今回はその中でも幻想の里のマスターが作ったデザートを再現し、Blu-rayを見ようと思っていたが、皆さんとの時間は楽しく、その存在をすっかり忘れてしまっていたのだ。

最後のお礼と悲しんだままでお別れと言う心残りを無くすために僕の力作を彼らに振舞う事にした。

僕が作ったからマスターの様にはいかないかもしれないが、きっとこのプリンにも彼らを笑顔にしてくれる力があると信じて。


小さな一人用のテーブルギリギリにプリンを並べていく。

本当は各主人公回の度に食べようと思って僕は“すべての種類”のスペシャルプリンを用意していた。


「あら、この3つは見たことないですね?」

「それ!この本にあったプリンじゃない!」


スペシャルプリンは作中マスターが皆を元気づける為に作られたモノで、基本の飾りは一緒だが、各々をモチーフにしたクッキーと色合いの6種のプリン味があり、それに加えて10周年記念に発売された本の中で作られたセレーヌ、アテナ、クロード仕様も追加して計9種のプリンアラモードと、お店で最初に出てきたノーマル使用の普通のプリンの合計10個のプリン。

骨董市で見つけた同じ型のガラスの器に入ったプリンはまさしく作中に出てきたモノと瓜二つ。10個セットだったから思う存分作れると、各メンバーの主人公回に食べようと思って作って正解だった。


「そうですこの3種は雑誌の企画で作られたやつで本編には登場していないやつなんですよ。そしてそれからこれは作品とは関係ないのですが…。」

飲み物としてオレンジジュースと一升瓶を取り出す。

オレンジジュースは良く作中に登場していたが、一升瓶の方は違う。

「ほう?酒だな?これは。」

「はい、日本酒で銘柄に惹かれて買ったんです。」


『黒竜の涙』


そう書かれたラベルにはカッコいい金色の目をした黒い龍が描かれている。

黒い竜推しの僕には素晴らしいデザインだと一目惚れし、お酒は余り得意ではないが開封の儀にぴったりだと購入したのだ。


「黒竜の涙といって、期間限定で売り出されていたモノなんです。この機会にぴったりだなぁと」

「ほぉ、なるほどそれは興味があるな。黒竜の涙…さぞ甘美なモノなのだろうなぁ。」

「いえ…か、辛口でして…。」

「あら、コクシュにぴったりじゃない。」

「…お前達…」



そういいながら嬉しそうにコクシュさんの頭を撫でるラードゥルラルドさんと頬を突くルーンルシュレイさん、嫌そうな顔をしているがどこか嬉しそうなコクシュさんの姿になんとも微笑ましく思う。

本当にあの寂しい空間から出れてよかった…。


「甘いモノとお酒って…合わないですが、皆さんどうぞ…!」


重い空気が一気に華やいだ気がした。

「食べてみたいと思ってたけど…こ、これ本当に私達が食べていいの…?」

「凄い…マスターが作ったのとそっくり…くっきーとやらもちゃんと再現されてる…魔法でも使ったのか?」


さっきまで暗い顔をしていた二人の顔もキラキラと輝いている。


今まで誰にも見せた事も無く、SNSで投稿する事も無く一人で楽しんでいたけれど、こうやって反応を貰えるのは照れ臭いけど嬉しいモノなんだ…もう少し生前で頑張ればよかったな…。


「これは僕が趣味で作ったもので、本当は本編を見ながら食べようと思っていたのですが…すっかり忘れていまして…。端から王道のカスタードプリン。そしてレッドのイチゴ味、ブルーのミント味、イエローのレモン味、ピンクは桃味でグリーンの抹茶味。ゴールドはバナナ味でこっちの二つは作中に出てこないで10周年の企画で出てきたセレーヌモチーフのチョコ味、アテナモチーフのミルク味とクロードモチーフの黒ゴマ味になります。」

「貴方が作ったの?!」

「凄い魔法の様だ…。」

「おぉ…壮観だな…。」

「皆さん、お好きなモノをどうぞ食べてください。」

「あなたが作った物ならばあなたから選ぶべきじゃないかしら?」

少し高揚した感じのルーンルシュレイさんが申し訳なさそうに聞いてくる。

「僕は味見で散々食べているので…それに、皆さんのお陰でとても楽しい時間を過ごすことが出来ました。そのお礼も兼ねています。お口に合えばいいのですが…。」

「お礼だなんて…私達こそ最愛の友と再会させていただいた上に最高の作品と出会わせてもらっていますのに…。」

「いいえ、僕は皆さんと出会わなければきっと生前と同じまま、コクシュさんがいるとは言え一人でこの鑑賞会をいつもの通りするところでした。けど、皆さんのお陰でファジレンの新しい魅力や誰かと“好き”を共有できる楽しさを知る事が出来ました。本当に…本当に楽しかったんです。」


「彼もこう言っているんですし、有難く頂きなさい。」

笑顔のグラディアドさんの言葉に後押しされ、お互いの顔を見合う5人。

「そうか、では遠慮なくいただこう。俺は最後でいい。ディアーナ、デューネ、お前達から選べ。」

「え?!いいの?!」

「数が多いので食べれる人は二つどうぞ」

「なんと…いいのか?」

「ハイ。」


ラードゥルラルドさんの言葉を皮切りにみんな真剣にプリンを選び始める。

さっきまでの重い雰囲気から穏やかな雰囲気に変わる。

ファジレンでも同じようなことがあったなぁ…なんて思っているうちに選び終わった様だ。



結果、ディアーナちゃんはピンクとグリーンモチーフ、デューネ君はブルーとイエローモチーフ、ルーンルシュレイさんはレッドとセレーヌモチーフを選んだ。

そのカップルカラーの選び方に僕も思わず笑顔になってしまう。

そしてラードゥルラルドさんがノーマルを、コクシュさんがクロードモチーフを選んだ。

残ったミルクをグラディアドさんが選び僕は最後に残ったゴールドモチーフを手に取る。


「うふふ…この色合い…とても良いです…ふふ。」

イチゴ味とチョコレート味のプリンとなぜかラードゥルラルドさんとコクシュさんを見比べてるルーンルシュレイさん。

(あぁ、そうか、二人の色合いでもあるんだなぁ)

「た、食べてもいいかしら?」

「はい、粗末なものですが…。」


コンビニで総菜を買うたびに断れずに貰って来たプラスチックのスプーンがこんなところで役に立つとは…と、彼女たちの手にある安物のスプーンを見ながら思う。

どうせならスプーンも同じものが欲しかったが見つける事は出来なかったのだ。



「…!これが…確かに幸せになる味ね!」

「うん、あ、その味僕も食べてみたい。」

「いいわよ、じゃぁそっちも一口頂戴。」

「ハイどうぞ。」

「コクシュ、お前のも食べてみたい。」

「ん、ならお前のも一口。」



「あぁ、目で見て楽しみ味で楽しむ…なんと素晴らしい…。」



双子(仮)が楽しそうにお互いのプリンの交換をしているのを見て同じく自分たちのプリンを食べさせ合うラードゥルラルドさんとコクシュさん。

そしてその二人を眺めながら嬉しそうにプリンを食べるルーンルシュレイさんの姿…

なんだか一人だけ楽しんでいる姿が少し違う気がするが、みんなが嬉しそうに僕の作った『幻想の里のスペシャルプリン』を食べている姿にどんどん胸が暖かくなってくる。


それからプリンとお酒を皆で楽しみながらあれこれまた話楽しんだ。

皆の語る姿に優しく耳を傾け頷くグラディアドさん。

重い空気がなくなり穏やかな空間になった事、僕は一人安堵した。


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