9.初めてのオフ会
久しぶりの更新
母は僕が物心つく前に居なかった。
父も仕事で忙しく、あまり家に居なかった。
一人っ子だった僕は忙しい父の為、出来る範囲の家事手伝いをしていて外に遊びに行くよりも静かな室内で空いた時間にTVを見るのが好きになった。
偶に同じ団地に住んでいた同級生の“ゆう君”が僕を無理やり外に連れ出してサッカーとかで遊んだが、運動音痴な僕は外で遊ぶよりも家にいる方が楽しい事なんだと思うようになり、彼が遊びに来るたび居留守を使ったり、忙しいからと誘いを断っていた。
6年生のある雨の日、外で遊べない彼がいつも何して遊んでいるのかと僕の家に上がり込んできた。
丁度僕はその時放送していた戦隊ではなく、一番大好きだったファジレンジャーのビデオを見ていた。
そして彼はそれを見て「古い・ダサい・子供だまし」と笑い、「こっちの方が面白から」と、TVのチャンネルをサッカーの試合へと変えてしまった。
同級生の中でも人気者だったゆう君は他の同級生たちに面白おかしく僕の趣味を伝え、同級生たちもそれに笑い、当時周りで特撮を見ている人が少なかった所為か僕の性格の所為か僕は気持ち悪いオタクとして笑い者にされた。
その後も何故か彼は中学に上がっても笑い話にして、周りもそれに便乗し、僕は高校に入るまで弄られキャラになっていった。
今思えば些細な出来事だったけど、幼心に僕は「誰かと自分の好きなモノを見て否定される」という辛さを知り、以降誰かと趣味を共有することを拒み続けた。
今度も否定されるかもしれないという不安はあり、ましてや異世界の人だ…きっと奇異の目で見られるかもしれない…と、思っていたが…
今、もの凄く楽しい。
「では、クロード様は敢えて敵側に組みした振りをして彼らを後方援護していたのか…それなのに最後までそれを彼らに伝えないとは…」
「そうなんですよ、もう一度5話の必殺技の流れを見ると分かるんですが、あの時の行動はそうなると分かっていたからの行動としか思えないんです。」
「なるほど…それではあの時対峙した時も…」
「そうなんですそうなんです…!!」
「あぁ…なんと…」
「それから23話なんですけど…」
コクシュさんと向き合いクロードことブラックドラゴンナイトについて熱く語り合う。
あぁ…誰かと推しについてこんなに楽しく語れる日が来るなんて!
あれから僕は気まずい雰囲気の中、ファジレン鑑賞の準備をし始め、いつ迎えが来るか分からないから特典映像ディスクから見ようディスクを取り出そうとしたところで好奇心で僕の部屋に来た双子(仮)に挟まれ、これから何が始まるのかと言う質問に「子供向け作品を楽しむ大人」というモノを説明していいモノだろうか…と怯えながらも、今後彼らと会う事はもうないだろうしいいやとファジレン、特撮というモノだとざっくり説明し、それをこれから見る事を伝えた。
子供向けである事、作られた物語であり僕の人生の支えになった僕の大好きな作品という事。
そんな僕の話を「面白そう」とそのまま僕の両サイドに陣取り座る二人。
引かれるかと思いきやワクワクしている様子に2人に安堵し、ならばと本編ディスクを再生させたところで、先ほどまで泣きながら再会の喜びをかみしめ合っていた3人もなぜかTV画面を真剣に見始めたていた。
最新映像ではない30年前の映像のクオリティ、古くとも僕にとっては輝かしい思い出なのだが、古い映像、他人から見たら…鼻で笑われるんじゃないかと内心ハラハラしたが、5人はそんな事気にせず、あれは何だこれは何だと視聴の邪魔にならない様に各々疑問や質問を僕にぶつけてくる。僕もネタバレにならない様説明をしていくと「なるほど…」と呟きまた画面に集中し、時には笑い、時には怒り、悲しみここに居る全員が一体となって作品を楽しんでいた。
OPEDの間で各話の考察や良かったところを話し、本編が始まるとまたみんなで真剣に鑑賞した。
ラードゥルラルドさんは戦闘シーンや必殺技などに関心を持ち、ルーンルシュレイさんは効果音やBGMなどの演出に対して興味を持ち、ディアーナちゃんは登場人物の変わっていく感情や人間関係に興味を持ち、デューネ君は変形武器や合体ロボの沼にハマっていた。
そして、コクシュさんはなんと僕と同じくブラックナイトドラゴンがカッコいいと、彼にハマってくれたのだ。
本編を見終わった後もここに居る全員で更に盛り上がった。
物語の内容は勿論、特撮の良さについて盛り上がり、その盛り上がりついでに僕のコレクションの変身アイテムや武器などを押し入れから出すと更に盛り上がり、見始める前の不安は一切消え、初めて他人と交わす趣味交流を心から楽しんだ。
ラードゥルラルドさんとデューネ君は僕が出したおもちゃを真剣な眼差しで変形させながら色々「やはり選ばれし者が持つには…」とか「やはり精霊を組み込めば…」とか不思議な会話をしている。
ルーンルシュレイさんも時折「やはり盛り上がり場面には“びーじーえむ”や“効果音”も必要ですわね」と言いながらどういった曲や音がいいかを考えているようだ。
ディアーナちゃんは僕が渡したファジレンジャー図鑑の人物紹介ページを真剣に読んでいる。
文字分かるのかな?と思ったけど、自動翻訳されているらしく読めるらしい。
誰もが造り物という事を理解した上で作品を楽しんでくれた。
そして僕はコクシュさんと二人ブラックドラゴンナイトのカッコよさについて語り合っていた。
「しかし、本当に残念です。誰よりも平和のために力を尽くした彼の最後があのような形で終わるとは…私の様に彼を救える者がいてもよかったのに…。」
30周年記念Blu-rayboxの特典の一つ、アテナのオルゴールを手にしながら憂いの表情、幼いながらにも美形な顔のお陰で悲しさが一層に引き立つ。
「彼自身が己の罪から救われることを望まなかった…と言う設定でしたから…悪役に設定された彼の悲しい現実です…。でも、脚本家の郷豪さんは違う最終回を…あ、そうだ。」
本編を見て感想を言い合って満足していたが、最初に見ようとしていた特典映像ディスクの事を思い出した。
それにはノンクレジットOPED映像の他に当時の秘蔵映像、キャスト同窓会トークに脚本家と監督の振り返りトーク等が収録されているのだ。
予約開始時の宣伝に“幻のEDとは!?”という文字があったことを思い出す。
「ちょっと失礼しますね。」
「はい…おや?まだお話の続きがあったのですか?」
「いえ、これはオマケ映像で、作品の裏側とか役者さん達の当時のお話とかが収録されていて…そこに幻のEDもあるそうなんですよ。」
「幻…?ですか。」
「噂では最終回間際に脚本を変えられたというモノがあったので、もしかしたらその変えられる前の脚本で作られてモノが収録されてるのかも…」
ディスクを挿入したところで他の話で盛り上がっていた4人も何事かとこちらに視線を送る。
映し出されたメニュー画面の“幻のEDを語る?!脚本家郷豪と監督宮本の今だから言える本音激レアトーク”
の文字を選択し、映像を流す。
◆◆◆
「本当に違う筋書きで話が進むはずだったんですね。」
「クロード様が中盤で死ぬ役だったとは…しかし、ミヤモト様のお陰であそこまで…。」
「どこの世界も変に口出してくる馬鹿なやつっていうのはいるもんだな。あー…昔の神官の爺の事、思い出しちまった…。」
「そうですわね…定められた事を気に食わないからと…あぁ、あの教えが今も残っていなければよいのですが。」
トーク内容はファジレンの制作の秘話で特に人間関係、恋愛関係に対して力を入れ制作した事、そして実は極悪キャラとして書かれるはずだったブラックドラゴンナイトの事、更には上層部からの圧力で変更された結末があったという内容に僕はワクワクした。
ファンとして薄っすら耳にしていたが本当に改変があったなんて。
郷豪さんの作ったブラックドラゴンナイト像に惚れ込んだ監督が本来の指示であったキャラクター原案に更に修正を入れ、上層部に見つからない様に映像に伏線を入れ、最終回に臨んだ。
しかし、最終回チェックの所で上層部見つかってしまい「悪役に花を持たせるなど正義の話としてあってはならない事だ。」と、最後の最後で彼らのしたかった演出はカットされてしまったそうだ。
当時はまだ一人前に毛が生えた程度だったので逆らえず、無理の無い様に再編集したそうだ。
そして、その時の映像がまだ残っていたのでいい機会だからと最終回の特殊EDを元の形に再編集した映像を作ったと言う。
本編で流れた最終回特殊EDは追加戦士含む6人の戦士が歌う通常エンディングテーマが流れる中、戦いから数か月後の文字の後ファジレンブルー青井うみとファジレンイエロー黄田島ハヤトの結婚式の映像から始まる。
かつての仲間がそこに集う中、リーダーであるファジレンレッド赤城リュウジの姿はなかった。
シーンは最終戦直後に戻り、ラスボスのハーダシュを倒した後異世界へと通じる歪みが消え始めるのを全員で見ている。
最終戦で力を使い果たしたアテナは消え、ブラックドラゴンナイトこと、クロードの形見である剣と盾、そして揃いのネックレスだけがその場に残った。
中盤で仲間になった敵幹部であったセイレーン怪人のセレーヌも罪滅ぼしの為、アテナ・クロードの形見を持ちかえる為、 エルドレイドへ行くと決めたがそれに待ったを掛けるレッド。
「セレーヌは慣れない人には勘違いされやすいしな。俺が隣で誤解を解いていかないと。」と笑顔で彼女の隣に立つ。
彼女と共にエルドレイドへ行く意思を言葉に出したレッドにその場にいた全員が驚き、セレーヌも来るなと強気に叱るがレッドの背中をブルーが押す。
「セレーヌは私の大事な優しい友達よ、ちゃんと周りにそれを伝えないと許さないんだからね!レッド」
「セレーヌちゃんがもう一人で泣かない様に傍にいてあげてね!レッド!」
ピンクもレッドの背中を叩く。
2人ともレッドの事が好きだった、だが話の後半で仲間になったセレーヌと各々の気持ちをぶつけ合い親友になった女性陣、今にも泣きそうな2人だが笑顔でレッドの背中を押してセレーヌに寄り添わせる。
「おじさんには遺跡巡りの旅に出たって言っておこう。」
「ブルー…うみの事は俺に任せておけ。お前の代わりにサンドバックになってやるさ。」
グリーンとイエローもそれぞれ言葉を掛ける。
「リュウジさんの代わりに僕が幻想の里を守りますね!」
涙目だが元気に言葉を掛ける追加戦士として途中参戦していた異世界のゆがみから落ちてきたエルドレイドの少年・テオ。
共に異世界に還ると思いきや、元々孤児でこちらに来てからレッドやレッドの伯父に可愛がられ姪ともいい感じになっていた彼はレッドの代わりにみんなを守ると名乗りを上げる。
「みんな!後は頼んだぜ!」
そう言って歪みの向こうへ笑顔で消えるレッドとセレーヌ。
場面は結婚式に戻りうみが花束のブーケを投げた所で子供たちの笑顔溢れる平和な地球の姿が映し出され、最後に晴天の空を映し出し、その空がエルドレイドの空へと変わり大樹が復活し、復興したエルドレイドが映し出され笑顔のレッドが現地の人々と仲良くしている所でENDの文字。
中々いいEDだったのだが僕的にはアテナとクロードのいない最終回にハッピーエンドの筈なのにずっと悲しくて落ち込んでいた。
最終回の次の日には熱が出て学校を休むほど。
ブラックドラゴンナイト推しだった監督が作った本当の最終回…僕ははやる気持ちを抑えながら画面に集中する。
そしてその映像が流れ始めた。
映し出された映像の一つ目の違いは歌だった。それに気づいたのは僕とルーンルシュレイさんだけだった。
それはEDテーマ曲「輝く空で…」の2番の歌だった。
結婚式からエルドレイドの空まではほぼ一緒の映像。
レッドがエルドレイドの民と仲良くしているシーンの後から見た事の無いシーンが始まる。
レッドがセレーヌを連れ大聖樹の根元にある神殿入口の前でエルドレイドの世界を笑顔で見下ろしお互いを見つめ合っている。するとカメラが神殿入口に入りそこでアテナの足元だけが映る。
足は神殿内へと入り最深部で立ち止まるとカメラは漸くアテナの全身を映す。
その顔はとても穏やかに微笑み何かを見つめている。
カメラはアテナの視線の先を映す。
そして映し出された映像に僕とコクシュさんは声にならない悲鳴を上げる。
アテナの視線の先に居たのはブラックドラゴンナイトになる前、聖騎士クロードの姿。
差し出したアテナの手を優しく握ると作中一度も見た事の無い穏やかな表情でアテナを見返し、二人穏やかな表情で光に包まれ静かに消えていく。
消えた所には壁にブラックドラゴンナイトの剣と盾、そして二人のネックレスと石板が飾ってあり。
復活したユグドレイシルを映した後、場面は結婚式場へ戻り、ブルーが青空に花嫁のブーケを空に投げた所ENDの文字。
映像はメニュー画面に戻り、メインテーマが流れている中、僕は石板の文字の解析をしなけらば…と思いながらも涙の止まらない。
長年…長年忘れ去られていたと思っていたブラックドラゴンナイトの最後があんなに美しいモノだったなんて…!
「なんと…素晴らしい…あの方は救われていたのですね…。」
「確かに、世界を救った一人でもあるクロード殿の扱いが随分軽いと思ったが…うむ…これならば俺も納得がいくな。」
僕とは違い静かに涙を流しているコクシュさんの涙をローブで優しく拭うラードゥルラルドさん、僕もテーブルに置いておいたティッシュで涙と鼻水を拭きながら彼らの言葉に何度もうなずく。
僕も何か言葉にしたかったが口に出したいことが同時に在りすぎてどうにもできなかった。




