第6話 二人の空間
あの連中に狙われたのはその時の一度だけ。
本当に気まぐれだったのかも知れない。
毎日、淳を守りながら彼女を家に送った。
淳の心を読んでも、あの男たちの情報は無い。
しかしオレに読めるのは心の表面だけ。奥の方に隠れていれば読むことはできない。
彼女の手を握りながら質問をしてみる。
「あいつらあれから現れないけど、一体なんだったんだろうな」
「うん……」
小さい声。なにかを考えているのかも知れない。
彼女の心の中は騒がしい。
『怖い、怖い、怖い、椎太クン助けて──』
そればかり。オレは彼女を抱き寄せる。
「ゴメンな。怖い思いさせて」
「……ううん」
次第に落ち着く彼女の心。
騒がしい怖いと言う声が、オレのことを好きに変わって行く。
『好き、好き、好き、椎太クン』
でもなんでだろう。なぜなんだろう。
彼女の好きと言う気持ち。
出会ってからすぐに彼氏にしてくれた真相。
そういえば聞いてなかったな……。
「なぁ淳」
「うん」
「なんでオレのこと好きなの?」
「それは──」
『運命の人だから』
「運命の人だからだよ」
運命の人?
それってなんだ?
心と、言葉の一致。
淳は本当にそう思ってる。
でも、会ったその日に彼氏になった男を運命だって思うだろうか?
それを聞いたら気持ちわりぃかな?
「どんな運命なの?」
「それは──」
『椎太クンは青春の恋人だから──』
「赤い糸で結ばれてるってことだよ」
??????
心と、言葉の不一致。
言葉の方がそれらしいぞ。
なんだ青春の恋人って。
「そっかぁ。赤い糸かぁ」
「そうだよ」
「オレもそう思うよ」
彼女に抱きつく。
ゆったりとしたこの時間。
青春の恋人──。
その言葉の意味って、ちょっぴり大人。
今だけってことじゃないよなぁ。
未来も一緒にいたいよな。
未来の夫になりたいよ。
今日はおしまい。心を読むのは。
淳がキッチンでお菓子を作っている。
その背中を見ながら思った。
そして将来の想像。
お菓子造りの上手なお嫁さん。やんちゃな子どもたち。
オレはそれを楽し気に見ている。
未来の妻の姿を──。
「椎太クン、なに笑ってるの?」
「なー……なんだろ」
「んふんふんふ」
彼女の作ったプリン。
冷やすのを待つ一時間。
オレたちは抱き合ってキスして過ごした。
その晩、夢を見た。
夢の中のオレは淳よりも長身で、ガタイもいい勇者さま。
つかコイツ、久保田の体にオレの顔を乗せただけやん。
まぁいいか。無双だ。黒服グラサンの装いをした悪いモンスターをやっつけて、さらわれたお姫様の淳を助けに行くストーリー。
白馬に跨がって、幅広い剣を振り回し、バッタバッタと敵を薙ぎ倒す。
花畑で震えている淳。顔を伏せてしまっている。
「姫様。助けに来ました。勇者シータです」
「おお、助かりました、シータ!」
って──。淳の顔が違うじゃん。メガネもマスクもねぇ。
コイツはえーと……。
そうだ失踪したグラドルの雛川陽。
そっか。身長は同じくらいだもんな。
ま、いっか。夢だもん。うぇーい。
「姫様。さっそく褒美のキスを」
「ええ。さぁどうぞ」
オレたちは激しくキスをする。
ドレスは胸を強調する形だ。あのグラビアみたいに。
これもご褒美だろ。オレの手は姫の胸に伸びる──。
「これ姫様のお胸? やっぱり大きいっすね」
「商売ものですから」
ブッ。それってグラビアアイドルの言葉かよ。
夢と現実が入り混じってる。
「私の彼女の胸はどのくらいかなぁ」
「まぁ勇者さまには彼女がいて?」
「ええ。可愛い彼女です」
「彼女がいるのにキスを?」
「いやぁどうか内緒にしていて下さい」
「その必要は──」
目が覚めた。全身汗びっしょり。
いくら夢でも、他の女性とキスしちゃダメだろ。
自己嫌悪だなぁ。しかも雛川陽。久々に顔思い出したわ。
はぁ。何やってんだ。オレ。