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第5話 黒の暴漢

淳の好きって気持ち。

オレの好きって気持ち。


オレの気持ちは淳から生まれた。

だけど淳の気持ちはどこからだろう。


ただ久保田に連れてこられただけ。

それだけで引っ付いた二人。

それがさっぱり分からない。


淳の心の中に眠る『ゴメン』ってなんだろう。

分からない。

聞くわけにもいかない。

だってそれは淳の心の中にある言葉。

それは本来は知ってちゃいけない言葉なんだから。


手をつないで帰るいつもの道。

今まで見て来た道なのに、全然違う。

オレの横には淳がいる。


ブカブカのサイズの合っていない制服に、マスクとメガネで覆われた顔。

長身の彼女と、それよりも大分背が低いオレ。

ヒョロガリチビのオレの冴えない見てくれの彼女。

誰の目にも留まらない。

モブなカップル。

それでいい。別に目立ちたいなんて思わないし。

だから淳とこのまま人生が歩めればって最近は毎日思う。


淳はなんでオレなんて好きになったんだろう。

どうしてなんだろう。


ふと──。


握った淳の手から『怖い』という感情が伝わる。

『怖い、怖い、助けて』。

なんでそんなことを思うんだろう。とオレの心にも緊張が走った時、目の前が暗くなる。

顔を上げると、長身の男が二人。

黒服とサングラス。どう見たってあやしい。

近くには、大きなワゴンが停車している。そこから下りて来たんだろう。

運転手はマスクをつけて帽子を深く被って人相が分からないようになっている。


その二人がオレたちを囲む。

オレたちはたちまち路地に追いやられ、壁に追いつめられてしまった。


ヤバい。怖い。

でも淳を守らなきゃ。

淳からも怖い思いが伝わってくる。

オレは背中に淳を隠した。


「淳。心配なんていらないよ」

「う、うん」


とはいえ、どうすればいい。

こいつらの目的が分からない。

金だろうか?

それとも誘拐?


「おいオマエ。オマエは関係ねぇからウチに帰れ」


淳──。


淳が目的か?

どういうことなんだ?


「坊主。ケガしたくねぇだろう」


怖い。足が震える。

だけど、淳はもっと怖がってる。

どうくるんだこいつら。

少しでも体に触れられれば考えてることが分かるけど、そんなこと出来るわけない。


「淳はオレが守る!」

「へぇ色男。カッコいいじゃねぇか。オイ。見張ってろ」

「オウよ」


路地の入り口までもう一人が走る。

その間、オレの前の男から鋭い拳が放たれ、オレの頬をえぐる。

殴られた瞬間。黒い男の声が聞こえた。


『このクソが。金づるをよこしやがれ!』


金づる──?

淳が?


「キャ! ダメェ!」

「チ。うっせぇな。騒ぎになっちまう。彼氏を殴られたくなけりゃ、さっさと車に乗れ!」


くそっ! 淳の体が目的なのか?

どこかに売るつもり? フーゾクとか?

あんな大きなワゴンに乗せて連れ去るつもりなのかな。

淳を守りたい。でも、足に力が入らない。


オレは、淳を守るように彼女の方を向いて体を倒す。

これなら殴られたって淳を守ることができると思ったんだ。


「なんだテメェは!?」


激しい怒号。

それは路地の入り口から。

足音が増える。

くそ。なんだ。新手なのかな。後ろ向きだから何も見えない。


「おいおい。ウチの仲間によくも手を出してくれたな」

「おーい。照場。しっかりしろよ〜!」


こ、これは久保田と吉井の声?

ああ──、助かったぁ〜。


オレはそのまま気を失った。


目を覚ますと、久保田グループの面々と淳の顔。

オレは淳に膝枕されていた。


「照場。それでこそ男だ。よく音倉を守ったな。奴らどっかに行っちまったぜ」

「どこか? 車のナンバーとか見てくれてた?」


「なんだアイツら車に乗ってたのか? 知らなかったから逃げるままにしちまったよ」


そうか。そうだよな。

そんなに機転が回るわけない。オレのことも心配だったろうし。

吉井が心配そうにオレの頬の傷に触る。


『あいつら、こんな女の何が良いんだか──』


やっぱり。そのセリフ、吉井はそう感じていたのか。

でも誰に淳のことをそう思われても良いんだ。

オレが淳のことを好きなのは間違いないんだから。

でもアイツら、そんな淳を金づるだと言った。

それの意味が分からない。

でも助けて貰った礼を言わなくちゃな。


「助かったよ。みんなありがとう」

「別にいいってこと。仲間じゃねぇか。音倉をちゃんと送ってやれよ」


「うん」


ヤンキー連中。いや仲間たちは、オレたちに手を振って路地を出て行った。

さて。淳を送らなくちゃ。


「いてて」

「大丈夫? 椎太クン」


「大丈夫。大丈夫。ゴメンな、格好悪くて。久保田たちがこなかったらと思うと──」

「そんな! ……カッコ良かった。カッコ良かったよ」


「へへ」


オレは立ち上がる。淳に支えられながら。

それから淳のアパートの部屋で傷の手当をしてもらい、ついでにキスもした。


でもあの男たちはなんだろう。

今頃怖くなって来た。

目的は淳の誘拐か。これからも注意してやらなくちゃ。


でもなんで淳なんだろう。

ただ誰でも良かったのかなぁ。せめてもっと体に触れられればなぁ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これは! ワクワクが止まりませんね! 一体どんな秘密が!
[一言] うーむ。ドラマチックになってきましたな。
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