第22話 未来へ──
オレたちは無事に救助され、病院へと運ばれた。
淳は軽症。オレは片足が折れていた。しかし淳が無事で良かった。
あのワゴンの連中は、淳の元いた事務所に雇われた連中だったらしい。
だが、見つけて欲しいという依頼を受けたのにも関わらず悪心をおこし、淳にイタズラした上で、事務所に身代金を要求しようとしたのだそうだ。当然、全員懲役刑を食らうことになった。
久保田や冴子。久保田グループの面々は毎日のようにお見舞いに来てくれた。
もっとも吉井の目的は淳だったようだけど。
その日も久保田は冴子を連れてお見舞いに来てくれた。
「おう。照場。オマエかっこよかったぞ?」
「いやぁ。久保田には及びもつかないよ」
「そうか?」
「そう。久保田ぐらいカッコいいヤツはこの世にいないよ。久保田はオレのヒーローだよ」
久保田は呵々大笑する。そして冴子の方を見て得意げに胸を張った。
「だってよ冴子」
「何言ってんの。危険運転ばかりして。それに吉井クンの新しいバイクまで壊しちゃって。全部自分がバイトして返すなんてさ」
「バーカ。オレが無事だったことを喜べよ」
「アンタはいいの。超合金なんだから。なんの心配もしてないわよ」
どうやら久保田は、オレが飛んだ衝撃に耐えきれず、猛スピードのオートバイを倒してしまったらしい。オートバイは壊れたが、自分は全くの無傷。オレなんて片足折れてるのに。どうなってるの?
「久保田。オレ、貯金あるから、オレが弁償するよ」
「バーカ。オレの操作ミスだっつーの」
「いいから」
「よくねー! 怒るぞ!?」
怒られたらたまらない。そこに冴子が体を挟ませて来た。
「はいはい。じゃぁ、半分半分。それでいいわよね。照場クン」
「う、うん」
「いいや、オレが全額払うね」
「何言ってんの。アンタのお金は将来の私のお金でもあるでしょ。私が吉井クンに払います。だから照場クン。私のところにお金持って来てね。請求するから」
「うん!」
「チ。冴子にはかなわねーわ」
冴子の将来の私のお金という言葉をさすがの久保田も理解できたらしく、変な笑顔を浮かべていた。
その二人が病室を出て行く。そこに入れ替わって淳が入って来た。
同じ病院だけど病室は別。女子だから当たり前か。頭には包帯を巻いているが、もう怪我はないらしい。
オレはベッドに寝転んで足を吊られたまま。
「椎太クン」
「おーう。淳」
実は淳はもう知っている。
オレが心を読めたエスパーだったことを。
正直に話した。そしたら納得してくれたんだ。
だけど、もうオレたちはエスパーじゃない。
過去形だ。
淳は予知夢を見なくなったし、オレはいくら淳の手に触れてもなんの声も聞こえなくなってしまった。
おそらく、あの能力は、「淳を救え」と神様から少しの時間貸してもらった能力だったのかもしれない。
たしかにオレにはあの能力以外はなんの取り柄もない。
だけど全然惜しくはない。
淳とオレのこれからの未来には、まったく不要なもの。
オレの心の読める能力なんて、淳の顔を見てれば分かる。
それに未来が分かる能力だって、分かってしまったらなんの面白味もないだろ?
だから、これでいいんだ!
それからの未来──。
実は我らがヒーロー久保田と冴子の結婚は遅かった。互いに25歳になってようやく。
というのも、久保田が警官になりたいという夢がなかなか叶わず、ようやく叶ったあとも、親に専門学校の学費を返すということで、結婚資金が貯められなかったということだ。
冴子は保母さんになって久保田と同棲しようと持ちかけたが、定職がない自分が女に食わせて貰えねぇと、まぁそんな意地で必死に勉強して公務員試験に合格。今では立派な白バイ隊員だ。
淳はあの予知の後はなにも考えていなかった。彼女にとってはそこが人生の終着駅だったからだ。
オレと恋人になり、青春を楽しんだ後で死ぬという人生。だけどそれが変わってしまった。
彼女に聞いてみた。
「将来何かしたいことは?」
「うーん……」
「夢とか何かなかったの?」
「うーん……」
「進路は先生になんていってた?」
「入れそうな大学と、入れそうな専門学校、紙に書いて提出した」
「そ、それ、なんて書いたの?」
「うーん。憶えてない」
「なんだそりゃー」
「でも、将来の夢は決まったよ」
「ずいぶん急だな。どんなの?」
「えへへ、椎太クンのお嫁さん」
「それは──。きっと叶うよ」
予知なんかない。
でも、オレの希望と一致してるんだもの。
そりゃ絶対叶うでしょ。
事実、久保田の結婚式には赤ちゃんを抱いて三人で出席。オレの勤めている製造工場の給料は高くはないけど、毎日楽しく暮らしてる。
もうエスパーじゃない二人。それでいい。
ある日の夜、夢を見た。
それは、さらに増えて三人の子供が庭で遊んでいる。オレと淳は小さいながらも一戸建てに住み、二人で洗濯物を干しているところに、軽自動車に乗った久保田と赤ちゃんを抱いてる冴子が大量に肉を持ってきた。
「うっす。やっぱりいいところの家を買ったなぁ。バーベキューしようぜ。肉買ってきた」
「マジ~? 早速やろう。淳、コンロだそう」
「うん」
そんな、ありそうなこれからの未来を。
朝、朝食をとっていると、淳から何気ない言葉が。
「私もパートにでようかな」
「どうして?」
「少し、お金貯めないと」
「いいけど、どうして急に」
「お嫁さんの夢は叶ったでしょ。次の夢は一戸建て!」
「ああ。いいな。そこに久保田が肉持って来たりして」
「うそ」
「ん?」
口に手を当てて驚く淳。
オレもあの夢の意味が分かった。
つまりあれは──。
だが淳はまた微笑む。
「なーんでもない」
「ふふ。じゃ会社行ってきます!」
「いってらっしゃーい」
オレたちはエスパーじゃない。
あれが予知夢でまた互いに見たのかも知れない。
だけど、あんな夢なら、叶うことは大歓迎!
指し示されたネタバレの未来にただただ進むだけだ。




