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第21話 久保っチャンス!

久保田のバイクは完全に停止。

絶望だ。オレは一人で走ろうと、オートバイから降りたときだった。


パパッ!


それは、後ろからのクラクション。

路肩に寄せた久保田のオートバイの横に新しいオートバイ。久保田のオートバイよりも一回り大きい。排気量が違うのであろう。そのライダーがフルフェイスのヘルメットを取り去る。


「よーお。久保っちゃんのバイク見かけたから追いかけて来た。これが前言ってた新車。コレのためにバイト増やしてさぁ。今、居酒屋バイトの帰り……」


のんきな顔の吉井。

だけど涙が出そうなくらい嬉しかった。

久保田は眉を吊り上げて吉井に凄む。


「吉井! んなこたどうでもいい! オマエのバイク貸せ!」

「え? ああ──、まぁいいけど?」


吉井は何がなんだか分からない。だが新車だから本当は貸したくないけど、久保田が怒るかもしれないから仕方ないといった様子で、久保田のために席を譲る。


「照場! グズグズすんな!」

「おう!」


久保田に煽られるまでもなく、食い気味で吉井のオートバイの後部座席に跨がった。

またもや再スタート!

久保田の動きは早かった。

落ちないようにオレは久保田にしがみつくのに必死だ。


二つ、三つ、四つ。


山のカーブを何度も曲がる。

久保田に合わせて体の重心移しの真似をする。

遠くにワゴン車が見えた。

アレだ!


だけど、もうすぐ海の見えるカーブに到達する。

そして、ワゴン車の後部座席のドアが開いたのが見えた。


「久保田! もっと急いで!」

「もっとだな。わかった!」


久保田がアクセルを全開にする。

オートバイから限界の爆音がするがもう少し!

ワゴン車も、海の見えるカーブも!


「あっ! 音倉だ! 何やってんだ!」


淳はワゴン車の開けられた後部座席のドアから半身を乗り出している。

オレは久保田の背中に掴まったまま、後部座席に中腰となる。


「照場! なにしてる! あぶねぇ!」

「久保田! すごく揺れるから、倒れないように運転して!」


「はぁ!?」


海の見えるカーブ!

淳は、ワゴン車から大きくジャンプする。

ワゴン車が通り過ぎ、次にオレたちのオートバイが淳の身を投げ出した軌道上へと差し掛かる。

オレはオートバイから、後部座席を大きく蹴って、淳を目がけてジャンプ!


それは予知夢にはなかった映像。

淳の少なかった踏み込みを、オレが空中でキャッチして補い、そのまま海を目指す。


キャッチは無事に成功。

そして、海への距離にバッチリだった。

だけど、二人の重さは落下スピードを上げる。


抱き合ってつま先から落ちる水の音は一つ。

そして、高く上がる水柱。

沈む距離は数メートル。長く落ちていく。重い水圧。


淳は暴れてもがいている。まずい!

ワゴン車の連中からは逃げられたけど、このまま二人とも溺死してしまう!

暴れないで、体を寝かせ、空を見れば浮くって何かで見たことがあったぞ?

しかし、暴れてる淳に水中でどうやって伝えたらいいんだ?


『苦しい! 息が! 椎太クン!』

『淳! 暴れちゃダメだ!』


『え? これなに? 椎太クンの声?』


え──っ?

嘘だろ?

淳にオレの心の声が届いている。


『うん……。聞こえるよ』

『はは……。マジか。淳。いい? よく聞いて。暴れないで、体を寝かせて空を見るんだ。そうすれば体が浮いて、水中から出られる』


『うん。言うとおりにする』


オレたちの体は水中で横になる。

ゆっくりだが、オレたちの体が水面に向かっていく。

息が苦しい。だけど暴れちゃいけない。


そのうちにオレたちの体は完全に浮上し、海の上で手を繋ぎながら漂っていた。


予知夢とは違った未来。

オレは震えている淳に今までで一番であろう嬉しい笑顔を向けた。


「変わったな。未来」

「──ッ! うん!」


オレたちは海の上で抱き合い熱い熱いキスを交わした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 『オレたちは海の上で抱き合い熱い熱いキスを交わした。』 やったぁぁぁあーーーー! 助かった! 男を見せたな! 素晴らしい!
[一言] 「うーん、素晴らしい飛込ですねぇ」 「しかし高い水柱が上がったのは減点ですねぇ」 「けど普通は頭から落ちるだろう場面で爪先から……これは高得点だ」 「さて審査員のみなさん! 判定を!」 …
[一言] ヤッターあああ!!!!(マシ・オカ)
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