第20話 未来を変えられる?
朝。淳がアパートを出た姿が見える。
手には荷物が少ない。今日は親戚の家に行って、話をしてくるとかそんな感じなのかも?
ダメだ淳。そしたらまたここに戻ってこなくちゃならないだろ?
アパートの階段をおり、足早に駅へと曲がったその時。
淳の前に黒い影が二つ。
あれは──前に見た奴らだ。
淳は逃げようとするがすぐに押さえられてしまった。早朝なので回りに人がいない。
彼女は口をふさがれワゴン車に押し込まれ、荒々しくドアを閉められる。
「やめろォォォオオーーーッ!!!」
ベッドから起き上がる。
夢だ。今のは夢。朝の5時だ。
5時? カーテンを開けると空が白み始めている。
さっき夢で見たのと同じような時間。
まさか!
あわてて、スマホをタップし、淳へと電話をかける。
でない。
でない。
でない。
でない──。
「クソッ!」
今日だ。今だ。運命の日!
だったらどうすればいい。
淳のいく場所は分かっている。
しかし相手は車だぞ!?
オレには自転車しかない。
でもいけるのか?
マンションをエレベータで下がり、駐輪場から自転車を出して、公道へと向かう。
ふと目の前を夢で見たワゴン車が通り過ぎた。
あのワゴン車が。
そうか!
あの夢、そして淳の家からワゴン車がちょうど今通り過ぎた!
オレの目の前を!
あれに淳が乗ってる!
これは心が読める能力が強力に作用したんだ。淳はオレに危険信号を飛ばした。それが夢となってキャッチされた。
あの夢は過去のじゃない。現在のビジョンそのままだったんだ!
自転車で追いかければ信号でなんとかなるのか!?
猛スピードでワゴン車がだんだんと小さくなる。
肉眼では追えないほど。
体力の限界。なんてこと言ってられない。
このままでは淳は死んでしまうんだ!
オレは全力で自転車をこいだ。こぎ続けた。
だが見えなくなってゆくワゴン車。
パパッ!
軽快なクラクション音。
オレの横にオートバイが並走している。
のんびりとオレの自転車の速度に合わせて。
まてよ? このスカジャン見覚えあるぞ?
フルフェイスのメットの奥の顔。
久保田だ──ッ!
「よ。照場。なに必死こいて走ってんだ?」
「久保田! ちょうどよかった! 淳が悪い男にさらわれたんだ! オートバイに乗せてくれ!」
「なんだと!? サッサと乗れ!」
久保田は血相を変えてオレを焦らせる。
オレは自転車を道に捨てて久保田のオートバイに跨がる。久保田から手渡されるもう一つの赤紫色のヘルメット。
「冴子のだ。使えるだろ」
「ああ。ありがとう」
「しっかり掴まってろ!」
久保田のオートバイが走り出す。早い早い。
あっという間にワゴン車の背中が見えて来た。
「あれか!?」
「うん!」
オートバイのスピード音が街を抜けて行く。
そしてピッタリとワゴン車の背中に貼り付いたかと思うと、運転席側に頭を向けてそのまま並走した。
「オイ! テメーラ、車を止めろ!」
運転手の驚いた顔。
そして、後部座席から淳の声が聞こえた。
「椎太クン! 久保田クン!」
ワゴン車はますますスピードを上げる。
そしてえげつない運転。
左右にブレながら峠を目指して行く。
この早朝だ。他に車両は少ない。
当然、警察車両なんてものは見当たらない。
だが久保田はピッタリとワゴン車に貼り付いたまま。
なんというドライブテクニック!
峠に入ると、ますます車幅は少なくなった。
そしてこれからの未来。
このワゴン車はスピードを出し過ぎて、対向車線にはみ出す。
そこで淳はドアを開けて海へと飛び降りるんだ。
それが夢の終わり。
──だけど待てよ?
あの時、オートバイの音は聞こえていたか?
いや、そんなものはなかった。
と い う こ と は!
夢の内容が変わったんだ!
未来を変えられるんだ!
「オイ。照場」
「ん? ど、どうしたの?」
「……悪ィ。ガス欠だ。もう少ししかもたねぇ」
「え!!?」
久保田のオートバイのスピードが落ちる。
みるみるワゴン車が峠のカーブに隠れて見えなくなってしまった。
未来が。
運命が。
オートバイの音が聞こえなかった夢。
淳が行ってしまう。
予知通りになってしまう。




