第2話 彼女ができました。か?
不安的中……っ!
久保田の彼女の冴子が丁度、転校生に学校内を説明見学させているところだったらしい。
連れてこられたのは、背はオレより高い。だけどダボダボの制服。サイズが合ってない。ちゃんと朝梳かしたのかと思うようにまとまっていない髪。前髪はかけているメガネの中程まで垂れている。そのメガネの度もかなり分厚い。顔全体を隠すような大きなマスク。鼻の盛り上がりは大してない。目は伏し目がちで一言でいえば暗い。いわゆる陰キャ。
冴子は陽キャグループ。久保田に訳も分からず連れてこられ、説明を受けて楽しそうにうなずいていた。
「靖広が大変な剣幕で来るからなにかと思ったら。ふーん。照場くんが彼女欲しいいんだなんてねぇ。彼女は音倉 淳ちゃん。今日転校して来たばっかりで、この辺のことよく知らないんだって。照場くんがいろいろ教えてくれるなら助かるよ。今、丁度彼氏もいないんだって」
今、丁度って──。
今までもずっといなかった感じですけど。
「そうだな。それが男。親切ってもんだ。いろいろと彼女に教えてやれよ」
「ふーん。ずいぶんと男らしいこというのね〜」
「おい冴子。学校ではちゃんと立てるって約束だろ」
「──そーでしたね〜」
なんだこいつら。あの猛獣のような久保田も冴子の前だとこんな感じなんだよな。
まぁ心を読めるオレには二人が愛し合ってることは分かってます。
いや違う。本題本題。
この──音倉さんだって急にここに連れてこられてこの人が彼氏ですって納得なんてするかよ。
そんなの脅迫だし自分勝手だろ。お前らがいくら発言力が強くたって本人の意志を尊重すべきだ。
「あ、あの……」
「なんだ照場。放課後もうオレたちに付き合わなくても良いぞ。彼女とデートしろ」
「い、いやそうじゃない。音倉さんの気持ち……そんなオレなんかと──」
「なーんだ。しっかり自信を持ちなよ。彼女を守ってやるって気持ちをもたなきゃ。靖広みたいに」
い、いや違う。根本的にコイツらズレてる。
なんだよそりゃ。
本人の意志だよ。本人の意志。
それに彼女、気迫に負けてさっぱりここに来てからしゃべってねーじゃんよ。
「音倉さんは? 急に連れてこられてオレなんかの彼女になれっていわれて嫌じゃないの??」
彼女はうつむいてしまっている。
暗──。
少しくらいはしゃべろーぜ?
主張しよーぜ?
「……あの」
……え?
それ、君の声?
ちーーーさい。アリがしゃべったほうがまだ大きいよ?
「いいよね。今、彼氏いないんでしょ?」
うぉい。冴子、勝手なこというな!
「ハイ……」
──ハイ?
いや、それは「いい」に対する「ハイ」なのか、「彼氏いない」に対する「ハイ」なのかオレにはわからねぇよ?
「じゃ、決まりね」
「照場、しっかりやれよ!」
冴子は久保田の手に絡み付いてそのまま行ってしまった。
勝手!
勝手過ぎるだろ。ぅぉい!
残されたのは冴えない二人。
「あの〜。音倉さん?」
「……ハイ」
「こんなこと勝手に決められて嫌じゃない? 大丈夫? オレも久保田が怖くて断ることとかできないんだけど……」
「……だいじょうぶで」
ほんのり──。
マスクで覆われてるけど、頬が赤いぞ、この子。
ちょっとまて。流されるままにそれでいいのかよ。
チョロすぎね?
それともオレだけがおかしいのかな。
「音倉さん?」
「……ハイ」
「ちょっと手を出してくれる?」
「え? ……ハイ」
そう。オレはその人の身に触れれば心が読めるエスパー。
今まですれ違ってたまたま身が触れ合い、何度か女子から聞きたくない心の声を聞いて来た。
『くっら〜』
『絶対コイツだけはないな〜』
『いてぇバカ。ぶつかってきやがって。あやまれや』
『貧相だし。静かだし。絵に描いたような陰キャ。パシリにされて当然ね』
『こういう人って家でアニメ見ながら一人でするのかな〜』
そんな声ばっか。
だから少しだけ音倉さんの現状の声を聞かせて欲しい。
本来の声を──。
大丈夫。オレは悪い言葉には慣れている。
本当はどう思ってるのか。
彼女の手に少しだけ触れる。
『キャッ! 早くない? 手を握るなんて〜。動悸が。動悸が〜っ!』
ポカーン。
なんだ今の女子の声。
「プッ」
「え?」
笑っちゃダメだよな。でもすっげぇ。
全然悪感情がないぞ。彼女。
優しくていい女の子なのかもしれない。
オレなんかを既に彼氏って認めてくれたのかも?
でもヤバくないか?
急に連れてこられて言われるがまま彼氏を受け入れる子なんて。
幸い、オレには今思っていることを読み取る能力がある。
危なっかしい彼女を守ってやらないと。
なんだろ。久保田の影響を受けすぎかな〜。