第15話 水着の部
水着の部の始まりだ。
だが会場の雰囲気はすでに淳の優勝を物語っている。
可哀想だが、コンテストに登録して参加している女子は、もはや軽い拍手で流されて行く。
しかし、どの子もこの日のために買ったであろうビキニや可愛い水着を披露してゆく。
ギャラリーの気持ちはますます興奮。
あの雛川陽の露出の少ない水着を生で見られると落ち着かない様子だった。
やがて、司会の祖鯉寺が淳の名前をぶっきらぼうに読み上げる。
だがそれを感じさせないほど会場からの「ねくらコール」。
コールに押されて、淳は恥ずかしそうに舞台袖から現れた。
そしてペコペコと辺りにお辞儀をしている。
もういつもの恥ずかしがり屋さんの淳だ。
淳の登場とともに、会場は水を打ったようにシーンと静まる。
なんだ? どうした?
「……スクール」
「……水 着」
あー。やっぱりスク水じゃダメだったか?
たしかによく見るもんだし、露出も少ない。だけどみんな、淳は水着をこれしか持って無いんだ。
と叫びたかった。
しかし、会場はまた沸騰する。
やっぱり。スク水でよかったんじゃねーか。コンチクショー!
会場が揺れる。
オレ自身も淳のスク水姿を目に焼き付けた。
二の腕、太もも、ふくらはぎ。もうサイコー!
「よー……う。オマエ、音倉さんの彼氏なんだろ?」
振り返ると、全然知らないクラスの男だ。
なんで話しかけて来た?
しかし、肩に置かれた手から考えていることが流れてくる。
『チクショー。うらやましー! こいつ、うまいことやりやがったなー』
ホッ。そんなに悪感情じゃなかったか。
『コイツと知り合いになっとけば、音倉さんとも仲良くなれるかも』
うーん。やっぱり下心があるじゃねーか。
軽く流しておこう。
「うん。まーね」
そして淳へと目を向ける。
淳は小さくオレに手を振って、足早に舞台袖へと消えた。
会場の男たちの目が急に痛くなる。
「あんなのどこがいいんだァ?」
という声──。
クソ。負け惜しみだろ。
そんなこと言ったって淳はオマエの彼女になんてならねーぞ。
そう思っていると、目の前に誰かが立っていた。
顔を上げると、それは吉井だった。
吉井はオレを睨みつけていた。しばらくの間。
会場の恨み言もそれによって消えてしまった。
雛川陽のファンだった吉井。
淳の正体を黙っていたことに怒ったってことか?
吉井が間合いを詰めた都合上、足が触れ合う。
『コイツ、あの暗いのの正体を隠していやがって──』
やっぱり。単純。分かりやすい。
いやしかし、気持ちがわかったところで、何も解決できないぞ?
久保田グループナンバー2の吉井を怒らせるってのは少しまずいかもしれない。




