第14話 興奮のコンテスト
会場である体育館に着くと、希代の大悪女、祖鯉寺がニヤ付きながらやってきやがった。
「へー。音倉さんホントにでるんだ。ま頑張って」
と悪役丸出しのセリフを放って去って行った。
ムカつく。本当にムカつく。
オレにはプライドはないけれど、淳をバカにすんなよな?
思いっきり吠え面かかせてやる。
フフフフフフフ──。
淳が控え室に入って行く。参加者が合同で中で着替えをするらしい。
カーテンとか仕切りがあって着替えはそれぞれできるようになっているのだろう。
オレの見送りはここまでだ。
しばらく控え室の前の壁によりかかっていると、中から
「え?」
「うそー!」
「ひょえーーー!」
の声。
淳の素顔とボディを見た連中の声だろう。気味がいい!
オレは壁の前で回りながら踊った。
先走り勝利の舞。
気分は最高。最高です。
鼻息荒く、観客席の一番前列に座った。
周りにはスケベな男だらけ。
君たちは歴史の証人となるだろう。プププ。
コンテストスタート。
役員から軽快に名前が呼ばれると、登録していた参加者が舞台袖からモデル歩きで現れる。
応募するだけのことはあってみんな美人ぞろいだ。
──素人にしては。プププ。
だがみんなポーズを決めた後、登場して来た舞台袖を気にする。それは今から登場する主役がいることをしっているから。
エンターテイメントは遅れてやってくるものだ。
実行委員、祖鯉寺が色物登場とばかり、淳の名前をマイクに向かって軽く呼ぶ。
「次は、音倉じゅんさぁんでぇ〜す」
会場の拍手が今までよりも小さい。
祖鯉寺がニヤリと笑う。
だが淳が舞台袖からTシャツ、スリムジーンズ姿で現れると、一瞬の静けさ。
その後は、絶叫だ。
これ。
これなんだ。
これが本物の淳の価値。
淳は赤い顔を正面に向けて、時折肘がピクリと曲がる。
これはおそらく胸を隠そうとするのだが、コンテストという大舞台を気にして隠すのを抑えているのだ。
うんうん。淳ちゃんそれでいいのだよ。
「うそ! 誰だよ、アイツ!」
「ホラ、あの暗いの」
「マジかよ。大化けじゃんかよ〜。」
「こりゃ音倉の優勝だな」
「オレは前から目をつけてた」
「ウソ付け」
実行委員の祖鯉寺のほうに目をやると、プルプルと震えて下唇を噛んでいる。
くやしいのう。くやしいのう。ざまぁ見ろだ!
眠れる獅子を起こしたオマエが悪いのだ。その底意地の悪さを反省したまえ。
淳は練習通りに舞台の先でクルリと回り、手と足の振りを一緒にしながら逆サイドの舞台袖に消えて行った。
「あの顔、どこかで見たことねぇ?」
さもありなん。君たちの勘は当たっているよ。
「誰だっけ。有名人」
「ここまで出てる」
「あの急にいなくなった人じゃない?」
そうそう。その人。その人、オレの恋人。
「皆野 水都?」
ガク。誰だよそれ。関係ない人の名前でてきちゃったよ。
そうじゃなくてヒントは『グ ラ ビ ア』です。
「それ、アダルト動画女優だろ。違う違う」
「あれだよ、ひ、ひ、ひ、雛川陽!」
わ! という歓声。
みんな気付いたようだ。つか、コイツらみんな雛川陽知ってるんだな。どんだけの知名度。
「お、おい」
「……水着もあるよな」
その通りです。今日だけが大サービス。よくその目を開けて見ろ!
会場のざわつき。そして唾を飲み込む音。
ギャラリーは舞台へ釘付けだ。
席を立つものなど誰もいない。
そして次から次へと、淳を一目見ようと会場に男子が押し寄せてくる。
いつしか会場は満杯。熱気と興奮が拍手で淳の登場を待っているようだった。
「ねーくら。ねーくら」
うーん。音倉コールが若干のディスってる感。
しかし、役者は揃った!
……一人だけだが。
さぁ、淳よ。登場するがいい!




