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第5-3話:拝火の始末①



『五元将各位に通達───警戒レベル引き上げに伴い敵勢力の排除を要請する』




 街境の川を臨む汐ノ目町東部。

高温の蒸気が立ち込める中、鋭利な剣戟が絶え間なく響いている。


 真也がローブの集団と接敵した頃、同じく戦闘に臨む者がいた。

彼女の名は、神凪八重(かんなぎやえ)

学園最強の能力者集団「五元将」の一角にして、比類なき剣技を修めた女傑である。


そんな彼女は今───歓喜の渦中に在った。


久々に出会った、自身と互角以上に渡り合う猛者。

学園生活ではまず体験出来ないであろう真剣による死合の場。

数か月に渡る退屈や鬱憤が日の出の様に晴れていくのが分かる。


「この感覚……! 貴殿程の武人がまだ居たとは! やはり世界は広いな、焔何某!」



焔───そう呼ばれた隻腕の老人は八重と互角の太刀筋で渡り合う。


(これが五元将……ふむ……あの子と比肩されるのも頷けよう……)


業火を纏った一刀で返しの一撃を狙う焔。

しかし、八重の木刀が刀身に映る度不可視の衝撃が軌道を逸らし、結果またしても防がれる。



【鏡花水月】───鏡面に映る木刀を『そこに在る物』として扱う能力。

普段は水を操る際に用いられる能力だが、その真価は刀など金属武器を相手取る際に発揮される。



本来ならばあり得ざる真剣と木刀による鍔迫り合い。

それを可能とするばかりか実力差すらも均してしまう……神凪八重の本領は今まさに日の目を見ようとしていた。



「……戦場に在って笑うか、少女よ」


炎と水流の只中で焔は問う。

対する八重は───やはり笑みを零していた。


「吾が笑って見えるなら非礼を侘びよう……然し、然しだ。久方ぶりに嬉しくて、仕方が無いのだ焔殿! 吾はまだ強くなれるのだと! 鬱屈の晴れた()が眩しくて抑えが利かぬのだ!」


少女の瞳の輝きを、焔は知っている。

かつて紛争地域で相まみえた青年のそれ。

世界の広がりを、人類の明日に希望を見ていたあの眼に、よく似ている。



「そうか……若いな……」



その時、周囲の炎が一層勢いを増した事を焔自身気付けないでいた。

ただ火種となった欠損が熱を帯び、胸中の棘がひたすらに疼く。


無自覚ながらも、老人は久方ぶりに憤っていた。


無理もない。

生まれてこの方、剣を振るいまともに笑えた事など一度たりとも無いのだから.




 剣の発する熱気が、中空にあった川の水を蒸発させていく。

恐るべき事に───水が燃えていた。

ガソリンでもない、淡水さえもが赤い揺らめきに包まれては消えていく。



焔の能力────【煉鉄炎刃】


欠損した腕に触れた物体を材質問わず発火させる概念系能力。

その本領たるや、異常。



 戦いの均衡が徐々に乱れていく。

炎に照らされた空間はあまりに明るく、炭化しつつある木刀の影すらもかき消した。

能力が潰え、得物も燃えた。

神凪八重は無類の天才剣士である。

それ故に、始めから相手との実力差も理解はしていた。それでも戦いに臨んだ。


「神凪八重とやら、貴殿に謝っておこう」


「何を?」


「儂はまた、加減してしまったらしい」


「…………そのような事よりも、この死合舞台、楽しめたのか?」


「…………神凪流……悪うなかったぞ」


「ふむ……ならば、思い残す事は無いな」


 2人の武人は理解していた。

神凪八重は、剣士としては負けていない。

しかしこれは戦───汐ノ目の命運を賭した決戦である。

命は軽く、信念は脆い。


それ故の敗北であった。




 直立不動の八重。

その首を目掛け焔は慈悲の一刀を振るう。

この死合は、それで終わるかに思われた。




「久しいのぅ、義父様(おじいさま)?」




彼方から炎の渦が殺到するまでは。




「…………やはり、お前が来るのだな。華賀里……」




 あらゆる運命が歯車の如く嚙み合い廻り始める。

その先に何が待ち受けていようと、如何なる者にも止める術はない。



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