短編:序章/聖夜の微睡
彼女の最初の記憶は、世界の終わりから始まった。
神の領域に至らんとした王と、人の身でありながら必死に抗い続ける青年。
両者の激突は星の悲鳴を起こし──────そして、彼女を目覚めさせた。
彼女は、一言で言うならば「全ての始まり」だった。
消耗品として造られた身体。色を忘れたような姿。
人々の欲望によって生み出され、死ぬ為だけに生きるはずだった人の形。
しかして、何よりも純粋なその在り方は、皮肉にも世界そのものに好まれるものだった。
如何なる信仰よりも、主は純粋であることを望んだのだ。
そうして、魂を与えられた彼女は目を覚ます。
世界が終わる、その寸前で。
人ならざる存在──────即ち、この世界の代行として。
目覚めた彼女は、形容し難いまでに強かった。
ヒビの様な複対の羽根は天と地を砕き、嵐が如き神罰の中に在って尚その体は傷付かなかった。
その有り様は、天使と呼ぶにはあまりに無機質で、災害と呼ぶにはあまりに美しくあった。
──────そして、彼女は戦いを終わらせた。
青年と共に、終末の様相を呈した世界に再び光を齎した。
それこそが全ての神話の原典。
遺伝子の記憶、その奥底に眠る「全ての始まり」。
地上に降り立った彼女がとある感情を識り、そして輪廻を待つまでの物語。
青年が悲しみを識り、それでも尚止まることなく進まんとする決意の物語。
彼女も、青年も、今はもういない。
しかし、2人は共に歩んでいる。
時代が変わろうと、幾度の散華を迎えようと。
これは、世界が終わるその日まで続く、不規則極まりない恋歌だ。
◇
「──────ろ……起きろ。こんなとこで寝てると風引くぞ?」
「…………ん、ここは……」
「端末準備室だよ。何寝ぼけてんだか、よくもまあキャスター椅子で寝るもんだ」
「あぁ、そっか…………この毛布、アンタの? 気が利くじゃない」
「おう、税抜き1000円な」
「あ、やっぱ有料なのねファ〇キュー」
中指を立てつつ、改めて辺りを見渡す。
年末を迎えた部室はクリスマス一色。
冬休みだというのに賑やかで、反面皆が仕事の疲れを乗り越えようという意図も伝わってくる。
「今更だけど珍しいわね。何気に初めてじゃない? Itafでクリパするなんて」
「このところ例の爆破事件にかかりっきり、だからな。せめて労ってやらなきゃだ。おーい西川―服部達の班が帰ってきたらケーキ開けるぞー!」
りょーかいッスー! いつもの威勢の良い声が響いて、ようやく表情が解れた気がした。
準備に勤しむ後輩達の背はいつ見ても愛らしく、やはり愛おしいく、されど愛いものだ。
おっと、今はこちらの方が2年生だったか。なんて、ほくそ笑んでみる。
「あっ、有片会長! と……先輩……」
気が付けば、後輩君がこちらを見て震えている。
縞模様の服を着た、青い印象の彼。
あの時の事をまだ引きずっているなら申し訳ない限りだが……。
「ん、どうした御縞? そんな慌てて」
「は、はい、実はさっきクロさんが“6番格納庫を開けたから会長も呼んでー”と頼まれたんです。もしかして飾りでも残って───会長? どうしたんですかそんな真っ青になって」
「止めに行くぞ! さもないとミサイルを模した花火が人目に触れる!⇒情報統制に支障が出る⇒更に休暇を返上する羽目になる!」
後輩を追って、彼は慌てて部屋を出ようとする。
その間際、振り向き様に伸ばされた手が、何でもない筈なのにとても印象的に思えた。
「──────そうだ、一緒に来てくれ! “空”は得意だろ?」
「──────ええ、バイト代税抜き1000円ね?」
そうして彼女は、もう一度手を伸ばす。
その瞬間を掴む為に。忘却の果てを手繰り寄せる為に。
もう一度、もう一度…………。
読者の皆様、お久しぶりです。作者Aでございます。
本日はクリスマス(だった)ということで3章の始まりとして短編を書かせていただきました。
作者陣が多忙ということもあり、この時間帯に投稿させていただいた次第です。申し訳ない!
さて、肝心の3章ですが現在も執筆中につき、再開は来年になりそうです……(-_-;)
今回の話を見ていただければ分かる通り、これでもかと引きまくった伏線がえげつない事になっている&描写の難易度が上がった事が大きな要因です。
なるべく早い復帰を目指しますので、もう暫く!もう暫く、お待ちいただけますと幸いです(デジャヴ)。
それでは、良い年末を!
※本文は活動報告にも掲載されています。




