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第2章最終話:夜の帳が下りる頃


 その日の夜、事後処理に追われる本部の一角。

他の会員に目もくれず、真白は得意気に一冊の本を眺めていた。

回収したばかりのそれは何よりも赤く、紅く、朱い表紙をしている。

使われている紙はかなりの時が経っているにも関わらず古い印象を感じさせない。


「ふふん、これでわしも『ふるあーまー』やねぇ……」


 久々に喜びを覗かせた彼女だったが、それも長くは持たなかった。


「申し訳ありません、真白さん」


 隙を見計らい、異空は真白の手にあった本を取り上げる。

何故彼がここにいるかは別として、その挙動はバリアが展開される速度を遥かに超えていた。


「……異空君、どういうつもりなん?」

「すみません。しかし貴方も知っているはず、私がどの様な存在なのかを」


 真白が静かに怒る中、異空はその本を背後の人物へと渡す。

その青年は赤毛を揺らし、片手には小さな金庫を携えていた。


「【原典】は貴方に任せます、『時間』よ」

「応、ありがとな」


 異空から原典を受け取った真也はそれを手早く金庫へ押込みダイヤルを回していく。


「悪いな真白? せっかくの形見だろうが、こいつはまだお前の手には余る」

「会長はんのいけず……わしのことまだ信じてないんやね……」

「安心しろ、とは言わないけれど、少なくとも機関の思い通りにはさせないさ。それにお前だって知ってるだろ? 俺の親父のこと」


 真白は少し熟考した後、溜息をついた。


「……ま、貸しとくさかい。せめて良い金庫に入れてな?」


 諦めと云うにはまだ余裕の残る、そんな車椅子越しの背中を真也は見送った。




「────もしもし、親父? ひとまず【原典】を確保。手筈通りSunSouls(サンソウルズ)名義で保管頼みます」


『────ああ。あの男にしてはつまらん終わり方だったな……いや、こちらの話だ。ご苦労、実にご苦労だったな真也よ。後は任せろ』


 携帯越しの声は野太い成人男性のものであった。

器の広さを感じさせるような物言いには覇気が宿り、まるでその百戦錬磨の生き様を形容している様だった。


「お願いします。それと、話は変わるけれど」


『何だ?』


「そっち、『未元』には会えたんです? もう半年近くユーラシアでしょう?」


『いや、ここ一週間は成果無しだ。『変動』の彼の方が余程、余程社交的に思える。急がねば、急がねばならぬな……』


「本当、お疲れ様です……」


『まぁ何、この程度で音を上げては有片の名折れよ。故にお前も気張れ、気張れよ真也? 次に人世を救うのはお前なのだから……』


「は、言われずとも……」


『うむ、うむ…………』


「……親父?」


『……おっと、まだ通話がピッ……』



 どこか抜けた様な台詞を置き去りに通話が途切れ、沈黙が訪れる。

耳から携帯を離した真也は頭を搔いて苦笑する。


「……やっぱあの人疲れてんなぁ……」





「よし……助かったぜエミリア」

「別に、巻き添え喰らいたくなかっただけよ」


 同刻、とある路地の裏側に御守は降り立っていた。

傍らに立つ金髪の少女は曖昧な表情のまま、その場を後にしようとする青年を呼び止める。


「ねぇ、御守?」

「……あんだよ?」

「アンタ、これからどうする気?」


 エミリアの問い掛けに、御守は怪訝な表情を浮かべる。

一度ならず二度までも自らの居場所を手放した今、彼の守るべき物は無いに等しい。


「さぁな……ただこれ以上の馴れ合いは御免だ。てかよ、てめぇも同じだろ? 『これから』なんてあんのか?」

「あー私が言えたことじゃない、か……」


 エミリアもまた同様に、その身を創られて以来ずっと逃避を続けていた。

「神話の怪物を再現する」そんな名目の為だけに生み出された彼女に元より行く当てなどあるはずもない。

これまで反りの合わないIrialに居続けたのもその為だ。

 空笑いをするエミリアを見かね、御守は溜息をつく。

やれやれと面倒臭がりつつも、興奮した声色を抑えて言った。


「……ったく、てめぇはそこまで悪かねぇだろ? バレてねぇならItafにでも拾ってもらったらどうだ?」


「…………ふぅん」


「あんだよ……?」


「案外優しいのね?」


「ほっとけ! ……化物にはお似合いって話だ……」


 その後の2人がどこへ行くのか、それは彼ら自身ですらも知り得ない。




「────さて、後始末もひと段落ですね。有片君、天音ちゃんもお疲れ様でした」


 数時間後、天堂顧問が訪れたのはItaf本部が最奥、白亜の正六面体アーティファクトが鎮座する部屋であった。

山の様な戦闘記録や被害状況を偽装込みでまとめ上げ、流石の彼女にも疲労の色が見えている。


「あ、母さん。お疲れ様ぁ」

「お疲れ様です。いやぁ、なんやかんや出来ましたね、概念マウント」


 にもかかわらず、出迎えはたった2人。

否、この場においてはこの2人でなければいけなかった。


「ええ、これも【天戴観測】(兄さん)のお陰です。それで、例のものは?」

「はい、こちらに。病棟の皆方が渡してくれ、と」


 懐から取り出したUSBを六面体に掲げる真也。

それに呼応する様に六面体は外殻を四方へ展開し周囲にその脈動を響かせる。

電子を介した通信の末に、内包されたデータは虚空へと映し出された。


「────桐張……!」


 その映像はどこかの倉庫で撮られたらしい。

錆び付いた壁を背景に、黒尽くめの青年がソファーに身を預けていた。



『やぁItafの諸君。君たちがコレを見ているということは、残念ながら、本ッ当に残念ながら僕の目的は達成されなかったということだろう』


『さて、手短に要件から話そう』


『────学園の地下を、その正体を探れ』


『そもそも、君たちは何故この汐ノ目にばかり能力者が集まるか、疑問に思ったことは無いかい? 全国どころか、全世界と比較してもこの町は異常極まりないと言える』


『これは私見だが───僕は汐ノ目学園、厳密にはその地下に原因たる何かがある、或いはいるのだと思う。根拠を説明すると────』


『この設計図を見てもらいたい。これは学園設立当初、我が師たる藍川紫皇自らが描いたもので地質調査から免震装置までが描き分けられている』


『注目してもらいたいのは最下層以下の構造物、今映っている巨大な影だ。藍川先生はこれを『地下バラスト』と呼び免震機能を有すると記しているが、検証によると物理学的な根拠は一切無い』


『ならばこの塊は何なのか? おそらくは岩盤とかなんだろうけど、わざわざ偽装する意味が分からない。その真実を探ろうとした矢先───君たちに邪魔されたワケだ。君たちの所為で。君たちの所為で!』


『そうだ! 元はと言えば君たちが藍川先生の記憶を消したりしなければ! 退任させなければ! 僕はゆっくり【経典】を対策し、能力者を排し、世界を平和に出来た! 君たちの所為だ! 全部全部全部──────!!!』


『……失礼。ともかく、責任は取ってもらう。この他にも学園と機関には不可解な点が多い。少し粗を探ればどんどん見つかるはずだ。お互い残業は得意だろ? ん?』


『それでは、精々足掻いてくれたまえ』



 そうして、画面は暗転した。


 嗣音が託したそれは3人が長らく感じていた懸念にピタリと重なるものであった。

瞬間、決意の灯った視線が重なる。


「これが……貴方たちが前から言っていた違和感ですか?」

「かもしれないわ……天音(わたし)が未元だから、とは限らないけれど……」

「いいや、多分合ってるぜ天音? 『電子の鳥』の時も、あの日もそう……足元から、何だか嫌な気配がしたんだ……」

「だとしたら、尚更不気味ね? これ程形容に困るだなんて……」


 その後、3者の間で如何なる会話が成されたかは分からない。

ただ一つ確かなのはそれもまたItafの歴史であること。

その六面体────【天戴観測】(アカシックレコード)は全てを記憶し終え、再び微睡へと沈んでいくのだった。



 夜の帳が下り、やがて全てが眠りにつく。次なる日を迎える為に。

 少年達が守った物はそうして繰り返す日常に他ならない。

これは、イレギュラー極まりない物語だ。



◇いれぷろ!◇

天音「第2章完結! ご愛読ありがとうございました!」


真也「やめろ! まだ伏線バリバリ残ってんだよ!!」


嗣音「ああ、今回ばかりは君に同意だよ有片君。せっかく僕が尻拭いしたというのに……」


真也「ホラ嗣音もそう言ってるし……」


天音「待って待って? 死んだキャラも出れるとか天音(わたし)初耳なんだけど?」


真也「天音? 【死者組成】」


天音「おのれ桃井玲奈」


嗣音「それで? 今回は何を話すんだい? せっかくだし聞いてあげなくもないが」


真也「ん? あぁ今後の展開とそれからお知らせをやろうと思う」


嗣音「今後? 読者の皆様なら分かっていると思うよ? 何せこの章で神性と概念マウント、なろう的ライブ感が使用可になったんだ。次はもうチートに次ぐチートで吐き気がしてくるだろうね」


真也「あながち間違ってないんだろうけど……」


天音「あ、作者A(あいつ)からコメント来てるわよ?」


真也「コメント? あとがきでいいのに……」


天音「えっと? 『皆様、イレギュラーズ・プロジェクトをお読みいただき誠にありがとうございます。今後の展開ですが次の第3章で真也編は(一応)完結となります。元々は1章製作段階から構想こそあったのですが流石に第1章から繋げるのは不自然、ということで2章を挟ませていただきました』」


真也「これほど不穏な一応ってあるか?」


嗣音「挟むにしても重すぎるな……」


天音「『これまでに引いた伏線を全て回収していくワケですが、我々の文章力でどこまで出来るのか、設定に振り回されないよう精進して参ります』」


嗣音「あからさまではあるけどね」


天音「『最後に1つ』」


天音「『第3章、進捗ダメです(-_-;)』……は?」


真也「あ、また迷走するヤツだコレ」


天音「『そんなわけで、来週からはまだ空いている話の補充、もしくは休載していた『無敵なパピヨンハート!!』を投稿させていただきます。お手数をおかけしますが随時チェックしていただけたら幸いです。それでは、またお会いしましょうm(__)m』」


嗣音「……『パピヨンハート』? 知らないなぁ」


真也「前やってた外伝。まだ完結してないんだ」


嗣音「一応聞いておくけど、どんな感じだい?」


真也「『宇宙規模の敵が世界の裏側から侵入して来たので双子百合を布教してみた件』」


嗣音「うん、あの世でまた会おう」


(嗣音がログアウトしました)


真也「現実と現世から逃避するとはなぁ……(-_-;)」


天音「まぁ『色々耐性のある人は見てみたら?』程度じゃない?」


真也「だな。よし、今日はこれくらいで……」



真也&天音「(色々)ありがとうございました!!」



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