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第29話:落陽成す者達 序


 水平線をなぞる陽光に目を細め、真也はトランシーバーを下ろした。

予想の通り自衛隊による飽和攻撃はそのことごとくが失敗に終わり、この瞬間を以て敵性体の管轄は汐ノ目機関、つまりはItafへと引き継がれる。

 眼下に広がる硝子色の街に人気は無く、照らされた瓦礫の数々が昨夜の激戦を物語っていた。

後戻りは出来ない。そう自分に言い聞かせて、真也は静かに呟く。


「────よし、行くぞお前ら……」


 そうして、少年達は煙燻る屋上を駆けていく。

彼方に浮かぶ光の翼を見据え、各自はビルの谷間へ散開していくのだった。



 千代田区より遥か西方、汐ノ目学園にて。

 遂に始動した決戦をオペレーターの誰もが固唾を呑んで見守っていた。

天堂顧問の指揮による作戦と人員配置を疑う者はいない。

しかし、倒し方を説明されたとは言え敵は未知にして強大。噂ではかつて信仰を成した神性ではないかと言われている。

無論、心配の無い者などいなかった。


 士気の低下を懸念しつつ、天堂花の視線もまたビル街を映すモニター群に向けられていた。

公安部より許可を受けた彼女は今回Itafに対し直接的な関与が可能となっている。

それは教え子達を普段以上の危険に晒すと同時に、政府の意向である能力者の軍事的運用──────通称『イレギュラーズ・プロジェクト』に加担することを意味していた。

言うなればこの戦いは日本の再軍備、その一端となる可能性すら孕んでいる。

だからこそ、いざという時は全ての責任を取るつもりでいた。その覚悟も学園の門を再びくぐったあの日から出来ていた。


 勝たねばならないのではない。

ただ勝つのだ──────当然の如く。いつも通りに。

例え、その相手が神仏の類であろうとも。




「こちら明智(あけち)(まこと)! 目測1㎞圏内に到達!」


『こちらオペレーションルームよりクロ! 俺の計算が正しければもっと接近しても問題無いよ!』


「了解! もう少し様子を見ます」


 大通りを一直線に駆ける明智誠、そして西川(にしかわ)小雪(こゆき)の姿が在った。

乱立する瓦礫や戦闘機の残骸をものともせず跳躍していく2人。

それでも、時折過ぎ去る溶融した車や誰とも知れぬ骸がその足を止めようとしてならない。


「誠クン、あれ──────」

「……行こう、小雪君。彼らの為にも……」


 互いの手を引きながら、遠方に浮かぶ未知なる敵───【原典白夜】を目指しゴーストタウンを駆け抜ける。

近付くにつれて上昇を続ける気温。朝方とは不釣り合いな灼熱が肌を焼き纏わり付く。

それと比例するかの様に街の被害はその度合いを増し、今や地獄の如き様相を呈している。


「うぅ……暑いってレベルじゃないッスね……」

「小雪君、ここから数値は見えるかい? 本部に共有してもらおう」

「どれどれ────?」


 眩さに目を細めつつ、小雪は後光に包まれた人型を見据える。


「移動速度、20㎞/hで安定───重力加速、反重力(マイナス)───表面温度───うわぁ……1000℃を超えて────」

「……小雪君?」

「───数値を修正───1500、2000……3000!? 早く逃げ────」

「しまッ────」


 刹那、一条の光がビルの谷間を切り裂く。

【原典白夜】より前触れ無く放たれた炎の束は一瞬にして空を緋に染め上げる。

2人の視界は白亜に染まり、かつてないまでの熱が────






















































 時は昨夜にまで遡る。

 モニター一杯に提示された単語は『炎熱』や『干ばつ』等、いずれもが太陽から連想されるものばかりであった。


「これらは真白の保有する経典、並びに報告書から推定される【原典白夜】の性質一覧。相手はこれらを概念レベルで行使してくるはずだ」


「いや会長、流石にこれ全部対策するとか無理じゃないッスか?」


「けど、何もしないよりかはマシさね。それに言ったろ? 概念マウントってのは基本的に理屈の押し付け合い、『威力より説得力のある方が勝つ』ジャンケンみたいなものだ」


「『火の概念も真空では消える』みたいなこと、去年言ってましたしねぇ……」


「ああ、火の五元将対策がこんなとこで活きるとは思わなんだ……。まぁ、そういう事だ。そんでもって今回の相手はその応用、『太陽の終わり』を再現することで不死性を突破する」


「えっ!? 死なないッスかあのピカピカ!?」


「まぁ、障壁バリアが無いとは言え真白の上位互換だしな……下手したら、『本物の太陽が無くなるまで回復』とかもあり得る。だから『これがこうなった。だから太陽ならば死ななきゃいけない』と示してやる必要があるんだ」


「まーた面倒なコトになりそうッスね……」


「あー言ってるところ悪いが西川、それと明智? 今回はお前達が先発(デコイ)だ。まずこの『炎熱』の対策なんだが───」





「「────【紅殻】(べんがら)起動!!」」


 2人の声に反応しバックパックから鋼色の影が飛び出す。

紅色の装甲は可変させた鏡面を展開し全面を以て熱線を受け止める。

膨大な熱量は僅か二機の兵装に阻まれ火花を散らしながらも拮抗している様だった。


「ッ……! 小雪君!!」

「言われなくても! 【数値操作】!!」



99.8 ⇒ 100



 小雪が叫ぶと同時、【紅殻】を押しつつあった熱線はその踵を一挙に返す。

反射した一条の光は空高くへと昇り詰め───果たして、発生源である【原典白夜】に直撃した。


「こちら明智! 全反射を確認! 第一弾、手応えありじゃないかなぁ!」


 【原典白夜】が金属を裂くかのような叫び声を上げる中、明智はやや興奮気味にトランシーバーへと叫ぶ。

これこそがItafの用意した作戦(シナリオ)の、手の込んだ前座であった。




「────とまぁこの様に、こないだ押収した【紅殻】をクロが改良、遊撃部隊各位へ配布する。自衛隊の報告によると、相手は目視した能力者、或いは熱源を優先的に攻撃するらしい。今回はそれを逆手に取る」


「あのビームをこれで反射させると……?」


「その通り。実際【紅殻】は【経典不朽】を弱体化させたらしいし、使わない手は無いだろう?」


「でも会長、それと『太陽の終わり』と、一体何の関係があるんスか?」


「うーん……恒星の終わり方ってのは2種類あってな? 1つはブラックホールみたいな、他の天体に巻き込まれるか。あともう1つは────」


「……燃えなくなった時?」


「なんだ、分かってるじゃないか! そう、基本はお前達が正面で気を引きつつ各自で熱線を反射、その他遠距離攻撃も並行させる。大事なのは『自分の熱で充分に燃えた』という事実を残すことなんだ。後は────」





「つまり、僕の【偽者の嘘】(フェイカーライ)で【紅殻】にステルスをかけて────」

「ワタシの【数値操作】で反射率を100%に保つ!!」


 自身の熱に悶えながらも四方目掛け【原典白夜】はその破滅の光を振りまく。

外壁やアスファルトを飴細工の如く溶融、蒸発させていく中、熱線が通り沿いに差し込むとそれらは一斉に身を翻し自らの生みの親へと殺到する。

その度に【原典白夜】───夜弥を依り代とした神性は身をよじらせ、一層光の束を地上へと突き立てる。

その様相は正しく原子の火に燃える恒星、第二の太陽と呼ぶべきものだった。


「よし、別動隊も反射と追撃が出来ている様だねぇ」

「あれ? こっちも攻撃した方がいいッスか?」

「いや、こっちと違って他の【紅殻】は延々跳ね返せるワケじゃない。だから出来るだけ引き付けろ、会長もそう言ってたろう?」

「うわ……しばらくキツそうッスね……」

「このままいけば、だけどねぇ……」

「……?」



 三浦焔華もまた【原典白夜】による攻撃を凌ぎつつ、火球による牽制を続けていた。

彼女の【業火絢爛】(ラグジュアリーバーン)は大気を焦がす程の炎熱を放つ、単純故に強力な能力。純粋な火力においては今期Itafでも五指に入るとされている。

それにも関わらず、先程から大した効果が見受けられない事を焔華は歯がゆく思っていた。


「あぁもう! 何で効かないのよ!?」


 元より負けず嫌いな彼女にとって概念などという得体の知れない壁は憤慨に値する。

昨夜の一件もあってか、その手先には文字通り一層に熱が入り───そして仲間の叫ぶ声すら掻き消してしまっていた。


「────て……逃げて!!」


「……ッ!? しまッ──────」


 何か聞こえる。そう思ったときには既に遅く、瞬間、天に座した【原典白夜】の姿が黒く歪む。

周囲の空間すら巻き込んだそれは波紋の如く広がり、やがて街の全てを一握するが如く吞み込んでしまうのだった。


◇次回予告◇

小雪「うわ、焔華チャン達大丈夫っスかねアレ……!?」

明智「心配だけど……僕らもよそ見出来ないかもだ……!」


次回、「落陽成す者達 破」


明智「行くよ小雪君……!!」

小雪「ああもう……やるしかないっスね……!」


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