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第14話:仔獅子に問うⅢ


 「な、なんでかなえさんがここに……?」


 22時、指定された場所にいたのはかなえさんだった。


 「なんでってそれは、ボクが果たし状を送ったからに決まってるじゃん。……でも、蛍クンが来てくれて良かったよ。キミか会長さん、それか最近復帰した女の人じゃなかったら本気出して殺しちゃいそうだったからさ」

 「……いつから。……いつから僕らのことを、Itafのことを知ってたんですか?」

 「へえ、いつから、か。やっぱり蛍クンは面白いなー。ここは何でボクがIrialなんて組織に入ってるのか聞くところかと思ったけど」

 「ふざけないでください!」

 「ごめんごめん。君たちのことを知ったのは、Irialの人と一戦交えたときなんだよね。あの人他人の真似ばっかでつまんなかったし、しかも大して強くなかったけど。で、どうやらIrialの人たちより強い人がたくさんいるみたいだからさー。せっかく島で一番だったし、ここでも一番強くありたいじゃん?」


そのことに、僕はどうしようもなく苛ついた。


 「話してても埒が明かないしさー。さっさと闘っちゃわない? ボク、早く蛍クンの力見せつけてほしいなぁ」

 「最後に一つだけ、聞かせてください。___僕に話しかけたのは、Itafと戦う足掛かりにするためですか?」

 「___それは、蛍クンがボクに勝ったら教えてあげようかな」


 彼女の纏う空気が冷ややかになる。

 比喩ではない。物理的に気温が下がっているように感じる。

 臨戦態勢に入った彼女の周りに、氷のナイフが現れる。

 否が応でも勝たなければいけなくなった僕は変身を開始する。騎士の鎧にロングソード。王のそれに相応しい装いに身を包む。

 一瞬の沈黙ののち、氷のナイフが音速で発射される。それを、強化された反射神経と膂力で撃ち落とす。

 一度のミスで確実に押し負ける。圧倒的な物量の前に、ナイフの撃墜は出来ても、なかなか彼女には迫れない。

 どこかに突破の糸口はあるはずだ。

 ____どうして、彼女は氷を無尽蔵に作り出せるのだろう。

 戦いながら、ふと抱いた疑問。

 氷をどのように作っているのかは分からないが、もし僕の推測通りなら、彼女は水蒸気から熱を奪って凍結させているはずだ。

 それならば、奪った熱はどこへ捨てているんだ?

 熱を奪う以上はどこかにそれを移動させるか溜め込む必要がある。

 なぜなら熱もまたエネルギーであり、エネルギーを0にするには何らかの手段で相殺する必要があるからだ。

 希望的観測ではあるが、氷を生成しながら奪ったエネルギーを相殺するなんて芸当はできないはず。

 つまり生成できる氷は、有限。


 (なら、今とるべき戦法は____持久戦!)



 「ねえ、蛍クン。もしかしてキミは、ボクがこれ以上能力を使ったら自爆するって思ってるでしょ?」

 「ッ!」


 見透かされた?

 いや、そんなはずはない。少なくとも心を読む能力までは持ってないはず……。


 (___もしかして、今までも同じ戦法を取られてきたのか?) 


 目の前にいる彼女を、どうやら僕は過小評価していたらしい。

 出会って数日だけど分かる。

 彼女は、戦士だ。

 初めて会ったときに言っていたことが本当だったとしたら、今まで戦ってきた相手には、それなりに頭の良い人もいただろう。

 持久戦に持ち込まれることすら織り込み済みだったのなら、他に何か考えなければならない。

 でも、持久戦でなければ彼女を傷つけてしまう。

 どうすれば……。


 僕が動くよりも先に彼女が動いた。

 氷をナイフ形にするのではなく、鎧のように纏った。

 ファンタジー小説の挿絵に出てきそうな実用性を無視した鎧に、背面の大きなオブジェクトというアンバランスな姿が妙に印象に残った。

 すると突然、ジェットエンジンのような轟音と共にすごい勢いで突撃してきた。

 あまりの速度に避けきれず、タックルをもろに食らった。

 ロングソードが吹き飛ばされ、続けざまに放たれた氷のナイフをガントレットで受ける。

 続けざまに氷の槍を手に、再びこちらに突っ込んでくる。

 寸前で避けてロングソードを回収。次の一撃を受ける。

 鍔迫り合いの最中、彼女の背面のオブジェクト___これまでの戦闘から察するに一種のスラスターだろう___がこちら側を向いた。

 思い切り地面に打ち付けられる。


 (でも、これで大体分かった……!)



 彼女の能力は、氷を生成すること。

 そして奪った熱は、僕が想像した通り何らかの方法でエネルギーとしてどこかに保持する。

 そのエネルギーで空を飛んだり、衝撃波を生み出したりすることもできる。

 だいたいこんなところだろう。

 それにしても、とんでもない永久機関だ。確かに持久戦では勝てっこない。

 そこで僕は考えた。彼女を傷つけないのは無理だ。だからせめて、傷が深くならないように倒す必要がある。


 剣を鞘に納める。

 鞘ごとベルトから引き抜くと、鞘についているひもを鍔にぐるぐると巻き付けて固定する。

 そのまま野球のバットのように構える。

 また彼女が突っ込んでくる。

 まっすぐ、ただまっすぐに突撃する彼女に僕は恐怖すら感じた。

 その、まるで自分がどうなっても良いような姿に。

 タイミングよくロングソードを振りぬく。

 氷が砕ける音が響き渡る。

 目線の先に彼女は___いない。

 氷の鎧を脱ぎ捨て、それを身代わりにしたらしい。

 直後、後頭部に激痛を感じた。___ロングソードを野球のバッターのように振りぬいたせいですぐに反応できなかった。

 顔面から地面に倒れ伏す。砂の味が口の中に広がる。


 「ちょっと拍子抜けだなぁ。もっと頑張ってよ、蛍クン。」


 頭上でかなえさんの呆れた声が聞こえる。はじめは闘うつもりはなかったはずなのに、なんだか悔しくなった。

 ちょうど変身が解除されたところで彼女を見上げた。彼女は先ほどとは打って変わって、落ち着いた優しい笑顔でこちらに手を伸ばしていた。

 そんな彼女の手を取る。ぐい、と身体が持ち上げられかけて___ひょっ、という音と共に彼女の首元に矢が突き刺さった。

 尻餅をつきながら、倒れる彼女を抱きとめる。

 矢が放たれた方向を見ると、軍服とセーラー服を組み合わせたような服の背の高い少女が、クロスボウを携えて佇んでいた。

 かなえさんを駆け寄ってきた河名先輩に預け、謎の少女を追いかけた。


 「待て!!」


 少女は足を止め、こちらに振り返る。

 だが、何かを発するでもなくこちらを一瞥すると、こちらに威嚇射撃をしたのち飛び去ってしまった。



 その後のことはあまり覚えていない。

 とりあえず河名先輩が救急車を呼んで、かなえさんは病院に運ばれて、けれどかなえさんは既に手遅れだったということは覚えている。

 けれど、どうやって家に帰ったのか、夕飯は食べたのか、今朝学校に来るまでに何をしたのか、本当に覚えていない。

 何と言うか、心にぽっかりと穴が開いたみたいな、そんな気分だ。

 授業中ずっと上の空だったみたいで、クラスメイトからは心配された。

 Itafの先輩たちからは、無理しないようにと念を押された。

 もちろん、体調は万全だし、無理もしないと伝えた。


 「大事な人が死ぬって、こんなに心が痛むのか」


 そんなことを、不思議と凪いだ脳内で考えていた。


                                             fin


本日も御一読ありがとうございました! ポイント評価・感想等お待ちしております!!

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