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第11話:鋼鉄の正義⑤

※一身上の都合により普段より早めに投稿させていただきました。ご了承の程宜しくお願い申し上げます。


 凄まじい衝撃波を伴った小手川と紅葉の一撃は機械兵を殴り倒し、内部に囚われていた真機那を分離させていた。


「ん……あーもう仏はんやね。こないなったら治せへんわ」


 しかし時既に遅く、文字通り能力に全霊をつぎ込んだ真機那は冷たくなっていた。

最期まで見えない何かを睨んでいたのだろう。開いていた瞼を真白がそっと閉じる。

その様子を小手川達はただジッと、感情を押し殺して見守っていた。

この世の理不尽さを己へ問い質す様に。

そうして、容疑者、被害者、何れも死亡のまま凄惨な事件は閉幕するかに思われた……。


「……ところでグローブはん、【経典】知らん?」

「……ん? 何のことだ?」

「何やこん子わしと雰囲気似とるなぁ思て。紙で出来たモンとか無かったん?」

「いや、無かった様な──────」



……破壊された鉄材の山が再び組み上がっていくまでは。



「──────ッ!!?」

「引き続き警戒態勢!! コイツまだ動くのか!?」


 第3種能力に類する【経典】は事象を再現する独立したアイテムである。

その使用者はあくまで各操作を開始するトリガーであり、粒子(エーテル)の制御や収集は全て【経典】を介して行われる。

そして【経典組立】は真機那の強い意思によりトリガーというタガが外れ、今や無制限に成長し、暴れ、この世全ての能力者(悪人)を滅ぼす──────その為だけの機構と成り果てていた。



『──────駆動……駆動セヨ、新タナル御世ノ為──────』



 機械兵の双眸が斜陽に照らされた空を睨む。

上体を起こした人型には既に多数の兵装が再現されていた。



『──────参画セヨ、眞金(まがね)共。千世万国ノ異能ヲ呪ウ為──────』



 黒色に耀く機体は鋼の骨格を覗かせながらも変形、統合を繰り返し、今や天を衝かんとばかりの巨躯となっている。

禍々しい翼を拡げるその異形は、正に機械仕掛けの神と形容すべきものである。


「──────ッ、星奈! 雷のシールはまだあるか!?」

「生憎……さっきのが最後……!」


 身構える小手川達へ向け巨大な一歩が繰り出される。

アスファルトは粉砕どころか溶融し半球状に抉れた地面が残される。

それは最早存在するだけで脅威足り得る、1つの災害として成立していた。


「しゃあねぇ! 紅葉、もっかい行くぞ! こうなったら粉々になるまで──────」




「──────そこな(かいな)、邪魔じゃ。退()くがよい」




 誰のものでもない声が聞こえ、そして世界は赤一色に塗りつぶされた。





「──────(くろがね)の形代よ、疾く燃え(そうら)へ?」



その声が聞こえた刹那、異形の巨人は火柱に包まれていた。

可燃物が無いにも関わらず鋼の躯体は炎上し断末魔を上げて崩れ落ちる。

純粋な火力と云う名の暴力はこれまでの激戦を否定するかの如くその神性を制圧せしめたのだった。


数分も掛からぬ内に工場の敷地には銀色の池が形成され、その中心には一冊の本が浮いていた。

呼吸すら儘ならない程の熱気の中、小手川を始めとした面々は驚愕を隠せないでいた。


「お前は……!」

「ん……なんじゃ、何かと思えば何時ぞやかの籠手か」


 その人物はItafにおいて知らぬ者はいない。

否、知らねばならない存在であった。


「それと……ふむ、見知らぬ顔もあるようじゃの?」


 それは真紅の和装を身に纏った少女……その姿を模した『災害』の類である。

「火という概念」の具現にして不死身の身体。

学園最強とされる五元将、その頂点にして汐ノ目機関が有する最高戦力。

その名を不知火華賀里(しらぬいかがり)

かつて学園旧校舎にて実働班を苦しめ、有片真也に死をも覚悟させた正真正銘の怪物である。


 一同が身構える一方で、華賀里は切り落とした左腕を拾い傷口に宛がう。

工場跡を延焼させていた炎が一瞬の内に搔き消え、やがて沈黙と共に異様な緊張感が訪れた。


「……それで、何しに来たんだ……?」

「そう身構えるでない。“あの男”の借りも既に無い故な? まぁ何、此度は人探しに寄っただけじゃ」

「人探し?」

「うむ。荒木壮一と竹林誠也と云うテニス部の後輩での? よく『だぶるす』も組んだのじゃが、ひと月ぶりに来てみれば既に行方知れず。そこで手隙の者が探す運びと相成った、と云う訳じゃ。いやはや、聞き込みなぞ二度としとうないわ」

「そういう事か……」

「(テニス部だったんだ……)」


 小手川が事情を伝えると華賀里は残念そうな面持ちで去っていった。

「やはり別れとは寂しいものじゃの……これも義祖父(おじい)様の言う通りか……」

と云う言葉を残して。


 数分後、大量の記憶処理剤を携えた調査班が合流し、改めて事件は幕を閉じた。

運ばれていく遺体を前にして、小手川の拳は一層に強く、何かを離さない様握られていたという。




「──────桐張、【経典組立】がItafに回収された」


 明かりの無い天井に青年の声が消えていく。

皆方からの報告を聞いて尚、嗣音がソファーの上から動くことはなかった。

アイマスク代わりの古本に顔を浅く埋め、その倦怠を隠そうともしない。


「らしいね? 思ったより早かったよ」


 さも当たり前の様に、【経典】の奪取を、真機那の死を聞いてもその声色が変わることはない。


「五元将の登場は意外だったけど……まぁ収穫は多い方じゃないかな? 【経典】の適正とその傾向、生命力による粒子補填(リチャージ)、単体での効果発現と意思の発露……実験としては成功だとも」


「君は、初めから彼を使い捨てる気でいたのか……?」


「別に? そういう訳じゃないよ。ただ僕達にとって【経典】は未知の異能(脅威)だ。対策には研究が必要で、研究には検証が不可欠で──────」



「──────何より、彼には皆を救う(その)意思があったのだから」



 Irialは正義の味方である。

同時に、能力者(悪人)の敵でもある。

ありとあらゆる超常を排し、この世の異常を取り払う者達である。


嗣音が真機那へ送った称賛は心からのものだった。

しかし誰かが報われることは無く、また彼等を善と認める者はいない。




「小手川拳斗及び他3名、今戻ったぜー」


「おう、色々ご苦労様だったな……。それと聞いたぞ? 真白の知らない【経典】だってな?」


「ああ、正直ヤバかったぜ。ありゃ最初会った頃に見た『花子さん』と同じ部類の奴だ。ワンチャン真也(お前)でも手こずったかもな?」


「そうかぁ……いや、お前が苦戦してる時点で相当ヤバいんだが」


「…………なぁ真也、この後のスパーリング少し手伝っちゃくれねぇか? 思ったんだよ、俺達はもっと強くならなきゃいけねぇって」


「…………」


「この手を伸ばした先には、もしかしたら救えたかもしれない誰かがいるかもしれねぇ。考えたんだよ、真機那や星奈も始まり(きっかけ)が孤独だとしたら。ただ殴るだけじゃなくて、そういう奴らに差し伸べてこそこの(身体)になった意味があると思うんだ」


「…………」


「だから、もっと強くなって説得しに行く……一線を超えるその前に、ぶん殴ってでも救ってみせる。無関心こそ真の悪、なんて考えたんだけどよ……ぶっちゃけどう思う?」


「……お前ってヤツは……流石だな、多分俺より正義してるぜ?」



 その日の夜、地下格納庫に響く殴打の音を、拳の重さを多くの者が聞いていた。

しかし、それら1つ1つに込められた覚悟、揺るぎない信念までもを知る者は少ない。



本日もご一読ありがとうございました!! 次回もお楽しみに!!

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