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第10話:鋼鉄の正義④


 運命とは、何時如何なる時も理不尽を連れてやって来るものである。

この男子生徒、真機那勇一もまたそんな運命に魅入られた1人であった。

とある日の夕暮れ時、日差しの届かない路地裏は夜と相違無い程に暗く、尻餅を着いた青年の恐怖を煽るには充分に過ぎた。

彼の視界に映るのは物言わぬ人影。沈黙の中見下ろす貌は闇色に溶け表情は窺えない。

されど、その掌で猛る燐光は明確な殺意を物語っていた。


「なっ……何なんだ、お前は……!?」


「…………(これ)は救いである」


「……は? 何を言って──────」


「是は礎である!!」


 その瞬間、真機那は既に言葉の類を失っていた。

自らへ向け投擲された炎の矢。

自らへ向く、生気の無い虚ろな眼差し。

恐怖と共にその一瞬は青年の脳裏に深く刻まれていく。


「(……体が冷たい……音が遠のく……)」


「(……俺は……死ぬ、のか? こんな唐突に? 大した理由も無く?)」


「(いや、だ……ダメだ……! 警察官どころか、大人にすらなれていないというのに! あれもこれも、やるべき事ばかりだというのに! よりにもよって、何故こんな『異常』な終わり方なんだ!?)」


「(認めない……絶対に、認めてたまるか……!! 俺がヒーローだったら……こんな悪党(ヤツ)、絶対、必ず、死んででも──────)」




「────────────許すものかぁあああ!!!」




「──────その言の葉に、偽りは無いね?」




 次に真機那が目を開けた時、炎と人影は跡形無く消えていた。

代わりに陽に照らされた人物が2人、夕闇から浮き出た様な黒衣から手を差し伸べている。


「大丈夫かい?」


 微かに香った血の匂いが、状況への畏怖よりも先に輝かしい感情を想起させる。

佇まいから滲む覇気、多くの敵を屠ってきたであろう傷だらけの腕。

人はそれを、「憧れ」と言うのだろう。


「あんたらは……?」

「僕達かい? 通りすがりの、ただの『風紀委員』だけど?」


 明らかな嘘だと分かった。

あの怪物を数瞬の内に滅してしまうなど、凡そ人の所業ではない。

それこそ、まるで漫画に見たヒーローを思わせる強さである。

そんなヒーローの様な2人はこの間ジッと真機那の顔を覗き込んでいた。

1人は興味深そうに、もう1人は憂いの眼差しで。

前者は一頻り真機那を見定めた後、静かな口調で彼へと語りかける。


「突然だけど、君に守りたいものはあるかい? その為に、欲するものは?」


 若干の戸惑いを見せながらも、真機那の答えは既に決まっていた。



「…………ある。俺に……悪人を倒す力があれば……あんな化物(ヤツ)の好き勝手にはさせない……!!」



 真機那の言葉に、その黒衣の人物は静かに微笑んだ。

とても幸せそうな、安堵に満ちた笑みだった。



「なら、この手を取るといい。君に、特別な贈り物がある……」



 そうして青年は、昏い東の路地へと消えていく。

その行方や如何に──────





《──────【経典組立】強制励起(オートキャスト)



 それは「異能」を超えた「異常」なる現象であった。

かつて地上に在ったという神性の権能(チカラ)、その一端を古代の人々は忘れぬよう不壊の本として封じたと云う。

そして数多の(ページ)は性質ごとに分割され、加工され、現代へと伝わるに至る。


 真機那の懐にあった1冊の本──────第三種能力【経典組立】は持ち主の意思に応えその真価を発揮した。

周囲に在った廃材や機械類、工場の柱まで、その場の一切合切を手繰り寄せていく。

まるで主を守る様に、或いは逃れられぬ様に。

青年を、鋼の繭を取り囲む様にして巨大な構造体が象られていく。



「ちょっ……何なのアレ……!?」



異変を感じ廃工場から脱した小手川ら4人と1頭。

振り返った彼らの視界には崩れ落ちる建物、そして甲高い咆哮を上げる鉄の巨人が映っていた。

目測にして15m弱。その手のアニメから飛び出してきた様な、無骨な機械兵が彼等を見下ろしている。



 【経典組立】──────それは人類文明が生み出した『製造/構築』の概念。或いは、造られた神性の権能。

真機那の意思によって捻じれに捻じれ、歪みに歪んだそれは今まさに暴走を始めていた。



「奥の手ってヤツか……!? 仕方ねぇ、星奈!!」

「言われなくてもっ!」


 即座に白丸のシールを取り出す星奈。

Itafの存在意義、その1つが「異能の秘匿」ともなればあの様な怪物をそのままにしておく訳にはいかない。

雨線の濃い悪天と濃霧を重ね掛け、ひとまず工場の敷地周辺を覆う。

しかし危機的状況が去った訳ではない。

いつも通り人間相手ならいざ知らず、相手は民家よりも巨大な兵器である。

周辺への被害を考慮せねばならず、また敵の姿や自分達の攻撃を隠さねばならず……それらを【災害解封】(ディザスターシール)の持続時間内に終えねばならない。

かつてない程厳しい戦いになることは明白であった。


「ッ──────厄介だなこりゃ……! とにかくアイツの動きを止めるぞ!」

「「了解!!」」


 迫りくる巨躯を迎え撃ち、本当の死闘が幕を開ける──────




「──────以上がこの本の運用方法だ。全部覚えたかな?」


「勿論。『必要なのは正義の心とイメージ力』、『能力者(悪人)にのみ行使出来る』、『必ず人工物のある場所で使う』だったはず」


「うん、ばっちりだとも。さて、一通り練習も終えたことだし、そろそろ我々の一員として働いてもらおうか」


「了解。それで、誰なんだ汐ノ目の諸悪の根源というのは? 俺が全員ぶっ壊してやるよ」


「まぁまぁ、そう逸らないでくれよ。今説明するからさ? んーそうだなぁ……長らく我々と敵対している、Itaf(アイタフ)という組織があってだね……」



 青年の走馬灯は鮮明に、かつての出会いを描き出す。

正しい心を以て悪を穿つ。その精神は誰よりも気高く、揺るぎようの無いものだった。

もし彼に落ち度があるとするならば、それは正義の在り方を曲解したこと。

そしてもう1つの正義に出会ってしまったことに他ならない。




《──────神性再現(リプログレス)【機械(code:)仕掛け(Deus ex)の神】(machina)


 激化する戦闘の最中、その異変に最初に気付いたのは紅葉であった。

餓者髑髏が機械兵の腰辺りを押さえてから数分間、鋼の繭から絶えず漏れ出ていた白いモヤが発散し、代わりに駆動部全域を覆う様にして黒い棘らしきものが突出し始めたのである。


「……小手川先輩……アレ、普通の能力じゃないかもしれません……」

「? 何か視えるのか!?」


紅葉の能力、【霊媒体質】は人の精神が発するエネルギーを目視出来る。

これまで幾人もの心の形を見てきた彼女だからこそ、眼前敵が最早物理法則の範疇にいないことに気付けたのかもしれない……気付いてしまったのかもしれない……。

 異様な光景を前に思わず怯んでしまう紅葉。

そんな彼女を腕の先から小手川は鼓舞する。


「どんな相手だろうが関係ねぇ! 今のうちに真機那(アイツ)を引きずり出すぞ!」

「……もう一度、行ってみます……!!」


 真白の障壁(バリア)から再び駆け出し勢いをつける紅葉。

崩壊寸前の餓者髑髏の脊椎を足場に上空へと駆け上がり、眼下に異形の巨人を収める。

雨に打たれながらも増設された砲塔でアスファルトを穿ち、周囲の建造物へ向けて複腕を打ち付ける。その暴走は破壊神の目覚めをも連想させた。

そんな姿を目の当たりにして尚、臆すること無く小手川は咆え猛る。


「──────おい真機那!! 聞こえるか!!」


 小手川の外装が可変し彼本来の姿である蒼い炎が露わとなる。

噴出する熱気は雨粒を蒸発させながら、紅葉の肢体を覆っていく。


「何で金属の俺が機械兵(そっち)に取り込まれなかったのか、教えてやる──────」


 それはかつて真也()を助ける為に、付けざるを得なかった(・・・・・・・・・・)固有機能。

音速を超える戦闘に耐えるべく、五元将にまで頼み込み製造された超特殊機構。

小手川の精神に呼応し、鋼の外装はその分子構造を一時的に再編成していく。

これにより実現されるのは、本来の物質ならば在り得ざる「完全なる不壊(概念の領域)」。

即ち、鎧という枠組みすら超越した最強の兵装──────



「──────お前はなぁ、(はな)っから『お前しか信じてなかった』んだよ!!」



 音を置き去りにして再び鋼と鋼がぶつかり合う。

先程との違いは拮抗すら見せること無く機械兵の胸部が四散したこと、そしてもう1つは小手川の背を押してくれる紅葉(仲間)がいたことに他ならない。



本日もご一読ありがとうございました! ポイント評価・感想等お待ちしております!

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