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第3話:嘘とコインⅡ

 確かな殺意を携えて硬貨は投擲された。

空を裂くその一撃を避ける余地など明智には残されていない。

危機を感じた脳漿は残酷にも眉間に下るその刹那を鮮明に映し出す。


―――嗚呼。ここまでなのかい?


自らの最期など見まいと、明智は静かに瞳を閉じた。




「―――させるかよ」


聞き覚えのある声に明智の意識は呼び起こされる。

眼前に在ったその背中は、沈黙に靡く赤髪は何度顧みようと頼もしいとしか言い得ないものだった。


「......会長先輩?」

「ああ、よく耐えてくれたな明智。傷、大丈夫か?」


その人物の名は、有片真也。

Itaf13代会長にして今期の最高戦力たる能力者である。


「何とか。といったところですかね......」


「あん? 毎回どっから湧きやがるんだよテメーらはよォ?」


青年の悪態など気にも留めず、振り返った真也はまじまじとその容姿を眺めた。

何か交渉を挟む様子も無く、ただじっと。

右手に握られた10円、やや広めの肩、青年の怒号を飛ばす顔へと視線を滑らせた後に真也はようやく言葉を繋ぐ。


「お前は......そう。高等部3年、加藤錦で合ってるか?」

「ッ!? それがどうかしたってのかよォッ!!」


名前を看破されたらしきその青年―――加藤は感情のままに再び硬貨を投げ撃つ。

防御不能の弾丸は恐ろしい程的確に、必中の軌道をもって真也の正中を捉え―――――――――そして彼の胸へと消えていった。


「ったく、大したこと無ぇじゃねぇか―――」



その刹那に、加藤は後方へと飛んでいた。



「........................は、ぇ?」



理解が追いつく間も無く、その勢いのままに廊下の突き当たりへと叩きつけられる。

背中と胸に走る冷やかさと彼方に見える赤髪。

加藤はようやく自らが受けた一撃を解するのだった。



「なるほど、ある程度物体に触れると透過は解除されるんだな?」


ひび割れた壁を背に加藤は疲弊していた。

上がらない右腕。定まらない瞳孔に再び真也の姿が映る。


「鎖骨を狙わせてもらった。早々腕は動かさない方が良い」


彼の手に握られたそれらが何でもない小石と分かったとき、加藤の胸中では何かが吹き切れたような感覚があった。

二度の攻撃を経ても真也(こいつ)は迎撃しているじゃないかと、熱に似た何かが湧き上がってくるような。


「すまないが、同行願おうか」


再び石を突き付けられたその時に、飽和した感覚の正体を加藤は知ることとなる。


「..................ぇんだよ」


冷徹な二つの視線がぶつかり合う。

それを先に違えたのは――――――真也であった。


「消えろっつってんだよ!!!!」


真也の視線は、蛍光灯に照らされた天井に向けられている。

何の変哲もないその平面を加藤の叫びが伝っていく。


「――――――ッ!!」


 もし【金属透過】の効果範囲が上下方向にも伸びたとしたら。

そんな可能性が残されているとしたら。


真也が行動を起こす間も無く、その姿は降り注いだ無数の鉄骨の中へと消えていく。

                                      (続く)





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