短編:天堂家の空騒ぎ
「はいは~い!! そんなワケで心機一転、完全無欠の天音ちゃんっ! 華麗に凱旋、もとい参戦よー♥」
開口一番、あざとさ全開待ったナシ。
身体の中心から青→赤という刺激的な配色を煌めかせ、自称白亜の少女こと天堂天音は端末準備室に現れた。
こう見えても編入直後から彼女は男女を問わない人気があった。
最近でも復帰早々『天音ファンクラブ』なる団体があるらしい、そんな噂が流れる程である。
全身全霊で浮かれるのも無理は無い、そう言えなくもない。
「恥ずかしくねぇのかよ、天音?」
「あら、いたの真也? ごめんなさいね。待ってて、今刺すから」
「痛い痛い痛い!? どういう状況だよこれ!?」
出会ってからわずか20秒。
音速の殴り合いを始める2人は否が応でも目立っていた。
「お二人とも本当に仲が悪いんですね……」
「あれが日常的なコミュニケーション、なんスよね……?」
「駄目だ小雪君。アレは理解しちゃいけないヤツだ」
蛍を始め困惑する下級生達。
一方で小手川等4年の面々は苦笑、或いは呆れる他なかった。
「そういや俺がItafに入った頃だったか、真也と見舞いに行ったことがあるんだけどよ?」
「小手川先輩、何かあったんですか……?」
「あったぜ、色々。そんでもって2人共緊急手術になった」
「止めましょうよあの喧嘩!!?」
「ったく、しょうがねぇな! 蛍、天堂先生を呼んで来てくれ。あいつらにとって一番の弱点つったら──────」
「その必要は無いですよ」
小手川が言い終えない内にそれを遮る者がいた。
扉の縁に背をもたれたその姿は小柄な女生徒、ではなく彼女こそが異能対策委員会総括責任者兼オカ研顧問、天堂花その人であった。
ただでさえ履歴書が長そうな(実際かなり長い)彼女であるが、ついでに言うならば天音の義母であり真也の姉弟子でもある。
詰まる所誰も頭が上がらない、そのくせ影が薄くなりがち、それが天堂花という人物だった。
「全く、せっかく愛娘の復帰を祝おうと来てみれば何イチャイチャしてるんですか2人共!?」
「かっ、母さん!?」
「いやいやいや、誤解ですよ姉貴? 誰がこんなビーナス像くり抜いて中に煩悩詰め込んでみました(てへっ☆)みたいな狂キャラと解り合おうとするんですがッ!!?」
次の瞬間には真也は後ろ手に拘束され顔面から床に叩き付けられていた。
当たり所が悪かったのか沈黙してしまう真也。
改めて状況を説明すると直前まで真也は抗議の声を上げながらも天音との高速戦を演じ続けていた。
それを不意討ちで無理矢理押さえつけたとするならば、この時の天堂先生の速度は【絶対虚空】の初速すら上回っていたはずである。
「仮にも私の娘ですよ!? それ以上言うようなら今度お師匠様に言いつけちゃいますからね!?」
「あっはははははぁ!! 全く無様ね真也!? そんなとッッッろいから天音みたく美少女のシャッターチャンスにも恵まれ“ッ!!?」
指を差して笑っていた天音も例外無いとばかりに不可視のボディーブローを喰らい盛大に嘔吐───白目を晒したまま気絶してしまう。
「貴方もよ天音ちゃん? まーた有片君に喧嘩吹っ掛けたんでしょ? それからその犯罪者予備軍みたいな発言も! お母さん許しませんよ、何と言うかこう……そうです、公安的に!」
痙攣する2人を天堂先生が何処かへと引きずって行き、端末準備室には嵐が過ぎ去ったかの様な沈黙が残される。
その場の誰もが持ち場に戻りながらも思う。
────何しに来たんだろう…………???
その真相は結局誰にも分からず仕舞いあった。
◇
「────ってことが今日学校であってさ? 弟弟子に容赦のよの字も無い、相変わらずだよ。師匠────じゃなくて親父はどう思う? …………………………親父? 何で腹筋崩壊してんのさ?」




