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第11話:急襲/五元の末席 後編


 それは二ヶ月程前、旧校舎での記録を整理する最中でのこと。


「────五元将ってのは元は4人。四元将だったんだぜ?」


誰かの質問に真也が返答した時、水鳥はその横で書類の束と格闘していた。

話していた相手は、確か同じ調査班員で新入りの───田中(たなか)(まさ)(はる)だったはず。


「ふむ……ともなれば真実(こたえ)は明確。それ即ち万象を統べし四元素『(ミカエル)』『(ガブリエル)』『(ウリエル)』『(ラファエル)』の御名を冠せし将に招かれざる異分子(ルチフェル)が名を連ねた、ということだな?」


少しずれた眼帯を直しつつ痛々しさ全開で尋ねる雅治。

こんなクセ強めの相手にも関わらず真也はフランクな会話を続けている。


「ああ、(きん)(のう)(かな)つって研究室を1つ任されるレベルの秀才───にも関わらず留年しっぱなしなんだよアイツ」

「はっ、己が才を腐らせてしまうとは! 愚の骨頂だな有片先輩よ(クロノスの)?」

【絶対刹那】(ロストエイジ)の次くらいに恥ずかしいルビだな!? いや違う、逆だ。学園にいる限り資金援助受け放題だからな。それにロックな格好をしようが、さり気無くサイボーグになってようが────学園の五指に入る以上、誰も咎めることは出来ない」

「…………誰も関わりたくないだけでは?」

「うん、俺も今思ったわ」



そこから先の会話を水鳥は思い出せなかった。

丁度手にした五元将の『火』、不知火華賀里に関する報告書────その強烈な印象が外界の音という音を奪い去っていたからだ。



 これまでに見る容姿、性格、そして能力。

いずれもいつの日かに聞いたあの会話に合致する。


雅治の強烈なキャラに感謝しつつ、水鳥は絶え間の無い攻撃を避け続ける。

今の状況は、ひたすらに厳しい、としか言いようがない。

先程までの精密な刺突とは異なり金属片の弾幕が廊下の隅々までを砕いている。


未来視の連続使用と金皇の視線から弾の軌道を読めはする。

しかし現時点での反撃は出来ない、それだけは理解していた。


間合いに入り込めば最後、再びあの弓矢の如き針を生成されてしまう。

小手川による強化も無い状態で水鳥に回避は不可能と言える。

加えてこの未来視の力────【未来予測】は厳密には異能では無い。

これまでの経験を元に演算を行う、れっきとした脳機能だ。

第四世代粒子(エーテル)による補助も無い以上、先に限界が来るのは文字通り目に見えていた。


相手は、恐らくは会長よりも強いであろう五元将。

スマホから掛けた緊急連絡が地下にいるメンバーに届くのだろうか。

そのスマホを入れて投げたバッグは果たして無事なのだろうか。

水鳥の視界が不安に曇る。



────答えは否だ。



数秒前、仰け反った瞬間に背後の廊下が見えていた。

水鳥のバッグは、既に撃ち抜かれていた。


「おうおう、やっぱお前すげぇな!」

「…………ッ!」



「──────んじゃ、そろそろ本気出すわ」



水鳥の視界に数秒後の世界が映る。


金皇が半分程度になった鉄塊を投げ捨てて、刹那に幾万もの針先が水鳥に向けられていた。


『金属を操る能力』


────そういえば、この校舎は鉄筋コンク





「────させるかよ! 【絶対刹那】、プラス────」

【元素還元】(リターントゥオリジン)ッ!! 万象よ、無に帰すがいい!!」


 目を開けると、背中が在った。

縦横無尽に襲い来る鉄針に臆すること無く拳を振るう、そんな人間を水鳥は1人しか知らない。


「汝よ、流石は未来視の魔眼の遣い手よな? スレイプニルの駆り手たる我が来たからには汝に安寧をもたらさんと────」

「雅治? 私先輩」

「あッ、すみません…………」


 確かにあの時、既にバッグは撃ち抜かれていた。

後に分かることだが金皇叶の能力【(スーパースターダストシューティングスター)】(※気分で変更)は鉄原子を操作する際に強力な磁気を発する。

これにより妨害された通信は50秒もの時間差でItaf本部へと届いていたという。


「ッ……流石の会長でも五元将相手じゃ……」

「案ずるな河名女史。時間加速(クロノスの加護)を授かりし我が直々に梅雨払いをするのだ。双方、心置きなく戯れるだろうよ」

「……??」



 一面の鉄針と音速の拳。

金皇による猛攻を真也は遍く迎撃していく。


「よう待ってたぜ真也ァ!! こいつぁアタシからの手土産だ、1つ残さず平らげてくんなぁ!!」

「来やがったなこの野郎ッ!! いい加減アポ取り覚えろよ!!」


罵詈雑言をぶつけ合いながらも、2人は笑っていた。とても楽しそうに。


その様子を眺めつつ、時折跳ね返って来る欠片を雅治は次々と一握の下に消し去っていく。



 田中雅治の能力【元素還元】。

彼を中二病へと駆り立てた『触れた物質を原子にまで分解する能力』。

しかし、実際はその性質を持った微生物を異空間から出し入れする────言ってしまえば『何でも手軽に収納する能力』である。



「フン、この程度か? 他愛無いものよ。未だ我が異能は餓狼の如く────」

「…………綺麗……」

「────? どうしたのだ魔眼の?」

「いいえ……何でも……」



爆ぜ散る欠片、消えゆく火花。

急に緊張から解き放たれた安堵故か、その眼に映る現実(いま)はどれ程の危険を孕んでいようとも、何よりも輝いていて──────何よりも綺麗に思えてしまったという。





「てなワケでおっす小手川―まだ生きてっかー?」

「こちとらもう死んでんだよ! ……そういやこの下り毎回やってねーか?」


窓に西日が差し込む頃、端末準備室に金皇の姿は在った。

かれこれ20分近く真也との死闘を演じたにも関わらず、今ははつらつと小手川との会話を楽しんでいる。


「ほらよ小手川、コイツが前言ってた新しい強化外装。窒化タングステンをベースにアタシの能力で原子構造を再編成してあんだ」

「おう、今の籠手(パーツ)より全然硬ぇなコレ!」

「当ったり前だろー? 何たってアタシは汐ノ目イチの治金属学者でクリエイターで、何よりロックなんだからよ!」

「お前それ無職って言うんだぜ?」



そんな会話からも分かる通り、金皇とItafとの間には古くから交流があった。

というのも彼女は現在の小手川を形作った、育ての親とも言うべき存在である。

かつてポルターガイストとして七不思議に名を残した小手川は真也との交戦を経て成長し、やがて人助けを叶える身体、つまり実体を求めた。

その際に白羽の矢が立った人物こそ金属のエキスパート、新入りの五元将が『金』、金皇叶であった。



「話変わるけどよ、聞いたぜ金皇? お前水鳥を巻き込んだんだってな? 俺がこのまま触れないとでも思ったのかよ?」

「いや……それは、アレだ……味変したいってゆーか、たまには他の連中とも()()合いたくなるもんだろ? な?」

「あ? 実測データ燃やされてぇのか?」

「ッ──────あーもう!! 分かったっての! 後で全員好きなもん奢ってやるから! お前もそれで良いか河名!?」



名指しを受けた河名は絆創膏を押さえながら赤面していた。



「はい…………ダイジョブ、です……」



あの時臨戦態勢になってさえいなければ余計な争いも避けられたかもしれない。

或いはもう少し先の未来を見ていれば。

明らかな不審者とはいえど、真面目な彼女にとってそれは失態にカウントすべき出来事に違いない。

そう思うと尚更に羞恥がこみ上げてくるのだった。


「…………なぁ、アタシが悪かったって? だからそんな顔すんじゃねーよ」

「放っておくがいい最後の錬金術師(アルケミスト)よ。己が夢より醒めた者は皆この様な気恥ずかしさに悶そぶッ!?」


綺麗な延髄蹴りが決まった瞬間である。


兎にも角にもこの日、水鳥は心身ともに成長することが出来た。

本人こそ気にしてはいないが、事実として彼女は学園における最高戦力、生ける戦略兵器とも揶揄される五元将──────その攻撃を耐え抜いた数少ない人物として名を遺すこととなるだろう。


新たな世代の成長を目の当たりにし安堵を覚える真也であった。




「────っしゃ! よーしメンテ終わったぞ小手川。そんじゃ古い外装(こっちのパーツ)は研究に使わせてもらうぜ?」

「おう、もってけもってけ。今回も色々殴ったからな!(前校長とか)」

「そこの左、加速装置(ブースター)付けといたから。遠慮なくぶち飛ばせよな!」

「毎回いらねぇんだよそのオプション!?」



「───っと、そうだった。おい真也?」

「なんだよ、アポイントメントについてか?」

「違えーよこの野郎。こいつは他の五元将(やつら)からの受け売りなんだけどよ?」

「他の…………?」



「────“風紀委員”が出たって話だぜ?」


「…………本来の(・・・)、か?」


「いいや、詳しくは分からねぇ。けどよ、もしそれが本当なら一波乱そろそろあってもおかしくない。アタシはそう思う」


「…………留意しとく。ありがとう」



「────さてさてぇ? そんじゃ夜の町に繰り出すぜ野郎共? アタシが奢ってやるんだ、ロックとタイ人を馬鹿にする奴ぁ許さねーかんな!?」

「相変わらず交友関係カオスそうだな」

「それから真也! 今度また戦って(遊んで)くれねーか? 前言ってた天音って奴と一緒にな!」

「フッ、それより先にスレイプニルの駆り手ことこの我が────」

「ほら雅治―? 先行ってるわよー?」

「…………」



 その背に暗影を引き連れて少年達は学校を後にする。

誰もいなくなった部屋が消灯し、此度の事件は閉幕となった。



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