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第10話:急襲/五元の末席 前編



 少女の目に映る光景は死と隣り合わせで、音に聞こえる破砕は日常の二文字と共に消えていく。

しかして放物線を描く火花、弾丸の瞬きは不覚にも美しく、斯くも鮮やかなものかと己を疑ってしまう。


甲高い金属音が教えてくれる。

これは確かに現実なのだと、また勝手気ままな非日常が私を迎えに来たのだと。



 それは僅か5分前のこと。


年の瀬も近づいた冬の日、いつものようにItafでの報告を終え黒髪の少女、河名(かわな)水鳥(みどり)は端末準備室から退去した。


既に冬休みに入った校舎は靴紐を結ぶ音ですら響かせそうな程に閑散としている。


いつも賑やかな実働班の面々も今頃は全力で休暇を満喫しているはず。

マイペースに社会貢献出来る手前、こういう時ばかり調査班は損な役回りに思えてしまうのだった。



 水鳥が靴紐を結び終え、いざ帰らんとした時。

少し伸ばした視線の先、夕陽色の床に先程までは無かった人影が揺れていた。

顔を上げた彼女が目にした人物は一見して背の高い女生徒に思える。

しかし水鳥の眼が逆光に慣れた瞬間、抱いていた印象は灰塵の様にその手から崩れ落ちていく。


「おうお前、ちょっと聞きてぇことがあんだけどよ?」


その女生徒が話し掛けた直後に水鳥は即座に後方へと跳び身構える。


「───用件を、お聞きします」

「オイオイそんな警戒すんじゃねぇよ? 大したことじゃねぇって」



水鳥が警戒するのも無理は無い。

じりじりと距離を詰め明るみに出るその容姿は明らかに異質なものである。


真冬だというのに黒のTシャツとダメージジーンズという出で立ちの女生徒。

本来肌が覗くその四肢は鋼色に輝き、一歩を踏み出す毎にモーター特有の駆動音を漏らしている。


一言で言い表すならば、それはサイボーグに違いなかった。



「お前、オカ研───じゃなくてItafの奴だよな?」


(こちらのことを知っている? でも見覚えも無いし────)


「有片真也って奴、知らねえか? 久々に殴り合いたくなっちまってさ?」



無邪気に笑った舌の上でピアスが踊る。

この時点で水鳥の脳裏から彼女を通すという選択肢は搔き消えていた。



「……申し訳ありません。どうかお帰りください……」


「ハッ、冗談はよせよ? どーせいるんだろ、有片? それとも何か? お前がアタシの相手をしてくれるってんなら大歓迎だぜ?」



相手の素性、能力、実力、そのいずれもが不明。

だとしても戦わざるを得ない時がいつかは訪れる──────きっと今がその時だ。


水鳥が鞄を後方へと投げ捨て、それが戦いの合図となった。




「あらよっと! 戦う乙女ってのも嫌いじゃないぜ? 何つーか、とってもロックじゃんよ?」


そう言ってサイボーグ姿の女生徒はどこからともなくゴルフバッグ程の巨大な鉄塊を担ぎ上げ水鳥のいる方へと向ける。


ある程度の距離にも関わらず鼻を突く錆の臭い。

無機質な鏡面に顔が映るその瞬間、水鳥は片足を脱力。

倒れるように体を前傾させる。


その刹那、長細い何かが頬を掠めていた。


針の様なそれは血に照る。

視線を滑らせ辿った先に、あの異質な鉄塊が在った。


「おー初っ端から針地獄(こいつ)を見切んのかよ? やっぱひと味違うんだよな、Itafってのは」


女生徒が言い終わる。

直後、屈んだ水鳥の頭上で何かが空を裂く。

巨大な鉄塊から別たれた一条の芯が再び飛翔したのだろう。


水鳥は壁の破砕音を背にその刺突の威力を知った。

この攻撃を並みの人間、並み能力者が回避する術は無いであろうことも。



二撃目を回避された女生徒は片眉を上げていた。

初撃の回避がまぐれで無いとしたならば、1つの考えが脳裏を過る。


「なぁ、お前予知系統(フォレサイト)だろ? 要は後出しじゃんけんし放題ってとこか?」

「そう言う貴方の能力は『金属を操作すること』ですよね、五元将の金皇叶(きんのうかな)さん……?」

「おうよ! アタシも随分と有名になったもんだねぇ」



機械仕掛けの肩を鳴らし、品の無い笑みを浮かべる。

彼女こそが汐ノ目学園における最高戦力、五元将が一角、『金』の名を有する者であった。



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