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第8話:仮想念力と神の翠玉③

「何故だ、この島国は葉巻を売ってないのか!?なんと時代遅れな…まあいい。葉巻が無いのは犬のせいにして、あの間抜け女と存分に戯れれば……」




委員長は葉巻を買えなかったことに苛立ちを覚えていた。


国防部長官が自らを犠牲にして西川の洗脳を解いたとも知らずに学園の校庭に戻ろうとしていたその時、


クロ達が包装紙に包んだ箱を抱えてやってきたのであった。




「結論が出たよ委員長。俺やっぱあの国の科学者になるわー。」




クロの後ろではItafの人間達が横断幕と巧みな泣き真似で雰囲気を作っている。




「その答を待っていたぞ。貴様はやはり賢いようだな。」




クロは委員長にずかずかと近づいて箱を手渡す。




「あとね、これはささやかなプレゼントだよ。ユーベリューム666を宝石状にカットしたものなんだけど、最新技術によって下から光を当てると千里馬(チョンリマ)の3Dホログラムが浮かび上がるようになっている。」




「これは興味深いな。開けてやってもいいだろう。」




Itaf一同が仕掛けた罠だとも知らず、委員長は貰った箱を開けた。


箱から出てきた大量の白煙を吸い込み噎せ返る委員長。


そして、もがき苦しむ強者を前にして久々に楽しげな表情を浮かべるクロ。




「パンドラの箱開けちゃったねぇ!…ああ、今更蓋を閉めても無駄だよ。一握りの希望なんか入れた覚えが無いし、こいつの中身は100パーセント絶望だからね。」


「これは、まさか油か!?貴様何てことを!!」




「まあそうなるよな!だって、唐辛子の辛味をもたらす主成分で、辛味の指標であるスコヴィル値における基準物質、"カプサイシン"は脂溶性の化合物だし。」


「悪いな委員長、俺達はアンタの全てを知っている。カプサイシンが熱に対する特殊免疫の主原料なんだろ?」




Itafを殲滅することを決意した委員長は制御盤を片手に吼えた。




「喜ぶがいい。私に逆らう奴には最悪の死に方を提供しようぞ!流星群4号発射!!」




委員長の操作で軍用機から空対地ミサイルが撃たれようとしている。


だが、真白が【経典不朽】を発動。軍用機を丸ごと障壁で囲んだためミサイルが着弾することはなかった。




「太陽神はん、能力者はジブンだけではあらへんで?


軍用機も水も、もう使えへん。残念ながらもう終わりやで!」


「そうか、貴様らはもっと別の死に方がいいというんだな。では、我が国で執り行われる后の公開処刑でも再現しようか。」




最小限の出力によって校庭の隅にある自販機を溶断する委員長。


剥き出しになった飲料の山から"全ての油を破壊する"烏龍茶を見つけて飲み干す。


それにいち早く反応して悔しがるのはクロだった。




「おい何でここに"あの"烏龍茶があるんだぁ、空気を読めよ!!!」


「あれはクロがダ○ドードリンコに提供した健康飲料、"破壊の黒烏龍茶"だろ?ダ○ドードリンコが提供する自販機に置かれて当然じゃないか…」


「あ、そうか。俺が作ったせいなのか…畜生、なんでこうなるんだよ!!!」




一方、桃井は"后の公開処刑"という言葉に反応し、当然の疑問を口にした。




「"后の公開処刑"!?なにそれ…」




桃井の質問に対して、委員長は当然の如く答えるのであった。




「美しさを失った女など我が王室には必要ないからだ。」




侮蔑に満ちた台詞だ。この男を人類の恥さらしと呼ばずして何と呼ぶのだろうか。


委員長の発言でその場にいる者全てが激怒する。


「おい、頭のどこで考えたらそうなるんだよ!?」


「ふざけるのもたいがいにせぇ!!」


「アンタが死ねばいいだけの話じゃん!!」




一同が委員長を非難するなか、クロがつぶやいた一言でさらに非難は激化する。




「…ってことは、お前西川をいつか殺す気でいるんだな!?」


「ご名答。随分と察しが良いではないか。」




委員長がクロの台詞を遮って答えた。


后に選ばれた以上、西川もまた、処断を免れることなどできないのである。




「クァンミョン委員長!西川を今すぐ返すんだ!!」


「ブラックさんがあたしに"ノーナイマヤク"の危険性を教えてくれたの。


だけどあのコはそんなのに負けないってこのメンバー皆が信じてるから!!!


ぜったいあの国の王妃にならないって信じてるから!!!」




「眼鏡をかけた赤い貴様、生意気な口を聞くようなら我が国で炭鉱を掘らせてやるぞ。赤い女も西川のスペアとして連れて行ってやって構わぬが?」 


                                 


「…えーと、語弊がおこるかもしれへんけど…わしは?」


「貴様はそもそも人間として見ておらん!」


「なんでそないなことを言うんや!有り金全部出しぃ!!」


「私に指図するな!!!貴様らは私の為に死ぬんだ!!」




Itaf一同の非難を上回る声量で脅しに掛かる委員長に有片は尋ねた。




「おい、アンタは水も軍用機も封じられてるんだぞ?圧倒的に不利じゃないか。


これ以上の戦闘に意味はあるのか?」




正論を述べる有片。


しかし、委員長の"Itafを絶対に殲滅する"信念と、強者の余裕は絶対に揺るがない。




「フハハハハハハ!!なんと滑稽な!!矮人とハンディキャップと愚民ごときが、


この私に勝てるなどと本気で思っているとは。顔の悪い民族の、頭の程度が知れる。」




「何だと?」


「アンタが勝てる根拠はあるっていうのか?」




「太陽神を見くびるな。私が使えるのは軍用機に積んだ水だけではないのだよ。」




誰もがそんなのは虚言だろうと本気で思っていた。その時までは…




「水を投下して大量の蒸気を生成したのは、ただの目くらましの為ではない。


都内の湿度及び地表温度を著しく上昇させ、上空の大気と下界の空気で対流を起こしたのだ。この時間帯にこの雲の量…都内に凄まじい雨が降るだろうよ!!」




言い終わった途端、クロの鼻先に雨が一粒落ちてきた。


そして、降り始めた豪雨の下で自分達が死の淵に立たされているという事実に


普段から白い顔を一層蒼白にした。




「まずい、こいつ夕暮れ時に積乱雲が現れるように最初から仕組んでたんだ!!!」


「今更後悔しても遅い。貴様らは私を倒すには小さすぎたのだよ。特に頭がな。」




頭を小突いてクロ達を煽る委員長。"后"を乗せた軍用機を退避させ、熱の充填を始めた。




「あれ?軍用機がなんか遠ざかってない!?そんなにヤバいっていうの!?」


「あの女を殺すのはもっと遊び倒してからだ!」




委員長が地面に向けてありったけの熱を投下すると、Itafのだれもが想定していなかった事態が発生。


蒸気が発生すると思われていた地面から見たこともない妖光が放たれている…




「”水プラズマ”だ!!シロ、守れ!!」




真白はクロに言われるがままにバリアを張る。


『水プラズマ?何それ?』一同はクロにそう尋ねようとしたが、尋ねる必要は瞬時に皆無となった。迫り来る水プラズマとやらがItaf一同に襲い掛かり、存分に猛威を振るったからである。




「ぎゃああああああ!!!死ぬ!!!!!」


「西川ああ!!!!洗脳されてないんだろお!?今すぐ助けに来ーい!!!!」




彼らは10万度の未知なる脅威に悶絶する。


有片の腕時計は機能停止し、一同の靴底は明らかに溶けはじめていた。




「無駄な抵抗をするな、諦めの悪い愚民共!そのいまいましい壁を雷撃で破壊して楽に死なせてくれるゆえ、この私に感謝せよ!!」




降りしきる豪雨の中、委員長は脚から地面に放熱し、右腕からは50万アンペアの大電流を放つ。


その光景はまさに混沌そのもの。


バリアがきしむ音が聞こえてきた頃、彼らの傷口に唐辛子を塗るべく委員長は口を開いた。




「折角だから最後に一つだけ教えてやろう。貴様らが"正気を保っている"などと信じてやまぬ西川についてだ。


はっきり言うがそいつは私の洗脳の前に敗北したぞ。」


「え!?」


「嘘やろ…西川はん!!!」




「あの間抜けな女は我が国の王妃になることを心から望んでいるのだ!!


あの女は貴様らなどとつるみあうよりも私といる方が遥かに楽しそうな顔をしていたぞ。


思うに、非力な貴様らはあの女に何もしてやれない退屈な奴等なのだよ。


だが、私には貴様らにできないことが何だってできる。


生かすも殺すも私の気分次第だからな。


分かったら友の望みを受け入れろ。貴様らがあの女の本当の友ならそんなことは容易いはずだ!!」




亀裂が入り始めたドームの中で衝撃と絶望がせめぎあう。




「皆、わしはもうあかん!このままだとパワーで押し負ける」


「ウソでしょ!?こんなゲスを生かしたまま死ぬなんて!!!」


「こんな脳筋のせいで死ぬのか!?ドヴラートフに見せる顔がない!!」




真白のバリアが亀裂で埋め尽くされた瞬間…


突如発生したネオンブルーのエネルギーが天地を巻き込み爆発。


後に残ったのは、風穴を開けられた夕空と表面が消し飛んだ校庭…


それは、委員長の能力が謎の力に押し負けたことを意味していた。




「うわぁ、何だこれ!?水プラズマの次はチェレンコフ光かよ!!」




腰を抜かすクロの元に、軍用機から"謎の力で浮遊する誰か"が西川を小脇に抱えて降りてきた。


その者は黒地にネオンブルーの電子回路を彷彿させる模様が入った丈の長い装束を纏い、未来的なゴーグルから覗かせる虹彩は月光のような青白い光を放ち続けている。


それを見た一同は同じ台詞を口にした。




「えーと…どちら様ですか?」




「恐れる事はない。僕は国防部長官のサム・サンチョだ!」




その場にいた者達はその衝撃的な台詞が信じられずにいた。


あの焦げ付いた髪は、特徴的な丸眼鏡は一体どうしたのか?と誰もが思った。




「なっ…見ない間に一体何が起こったの!?いくらなんでも変わりすぎじゃん!」




「それはワタシが説明するッスよ!」




国防部長官を名乗る者に抱えられた西川が、軍用機での出来事すべてを話した。






委員長に執拗に触られ続けたこと、


后に選ばれた者の末路、                        国防部長官が自らの洗脳を解いたときにホログラムを操る能力、【仮想(サイバー・)念力(サイキックス)】に目覚めたこと、


瀕死状態の長官が真白のバリアによる影響で奇跡的に死の淵から這い上がれたこと…




「…ってことは目の前でギラギラしてるのはあの長官ってことなんだね!」


「その通りだ。さて、僕も君らに加勢しよう。まがいものの神を成敗してやるぞ!!」


「サンチョ…お前には感謝しても、しきれないよ!!」






To be continued…

設定資料




・クァンミョン委員長の能力【万能閃光】について




委員長が生まれつき持っている能力。


本人曰く、「太陽神の生まれ変わりだからこの能力を持っている」とのこと。


太陽の最高温度、1500万度が最大出力。(太陽の中心部の温度)


体内の熱エネルギーを電気に変換することもでき、威力は雷に匹敵する。


自身の肉体を守る免疫の主原料であるカプサイシンは国内産キムチから摂取している。


相手を奴隷化する【美貌】とは対照的であり、こちらは相手を即死させることができる。








・本作における"あの国”の実態




あの国では王族だけが能力を持っていいことになっており、王族以外で能力者が見つかると委員長に焼かれて珍味になる。




男性は軍事開発と国内のエネルギー供給、女性は農畜産物などの生産をやらされている。




委員長に"顔がいい"と判断された女性が彼の部下によって全国各地で頻繁に連れ去られるのが日常風景。   


連れてこられた女性は"后"と呼ばれ、委員長から寵愛を受け最後には必ず惨殺される。 18歳~20歳で焼却される女性も少なくない。

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