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第6話:仮想念力と神の翠玉①

よく晴れたある日の昼下がり。端末準備室にて、午後の授業が休講になったItafのメンバーが集まって活動をしていた。



有片はPCでニュースを見ており、

西川、桃井の2人はオンラインゲームで格闘中。

真白は株主優待券と引き換えたハンバーガーセットを食べている。


ニャーと小手川はミスプリで餃子とシュウマイを作っており、暗い顔をしたクロは男性型アンドロイドの中枢にICチップを埋め込んでいる。


(ドヴラートフが死んでつまらない…俺が殺しちゃったんだけど。)


クロの様子がいつもと違うのを察した西川は、ゲーム中の桃井と一緒にどうにかしてクロを励まそうと試みた。



「元気出してくださいッスよクロセンパイ。」


「探偵(西川)の言うとおりだよブラックさん!  面白い遊び相手なんていずれまた来てくれるから気持ちを切り替えよう!!ホラ見て!ブラックさんの大好きなうさぎのうーたんがこんなに巨大化して…」


ゲームの対戦画面では巨大化したうさぎのうーたんが火の玉を繰り出している。

ところがゲーム内の赤い雲のエフェクトを見た瞬間、突然クロが発作的に懺悔を始めた。


「あ"ああああドヴラートフ!!!今日で32回目…二進法では100000回目だが、あんな酷い殺し方をしてマジでごめん!!!!」



クロは去年、敵として対峙してきたロシアの将軍、ドヴラートフにギリギリまで追い詰められた末、最後の切り札として自ら開発した劇薬"Gift for D"を使って抹殺した。   


※第一部、開戦の人喰い迷宮にて



その時は後輩からも真也からも感謝、賞賛されたいへん嬉しかったが、それ以降クロは"矮人"呼ばわりされることも、ピンポイントで狙われて時に食い殺されそうになるような戦闘をすることも、めっきりと減った。

平坦なつまらない日々が続いたある日、思い出を巡るため今までの戦闘の舞台へと出かけたのを機にドヴラートフのおかげで"楽しい殺し合い"ができていたことに気付き、懐かしさとある種の後悔を覚えるようになったという。



常識外れの怪力とゴキブリ以上のしぶとさを持つドヴラートフは、クロにとって何にも変えられない理想的な玩具…いや、好敵手だったのだろう…




「好敵手の死が悲しいのは分からなくもない。だがな、あいつはお前を本気で憎んでて殺そうともしてたんだぜ?一つ間違えたら命は無かったぞ?」


「真也、その際どい遊びが最高に楽しかったんだよ!!」




いつにも増してアナーキーな発言。


悲しみに暮れるクロと狼狽する真也達のもとに、クロから借りた、後味の悪いディストピア小説"1984"を返しに来た霧乃と、学食でラーメンを食べ終えた明智がやってきた。




「こんにちは、会長先輩……って、生きてるッ!?あああああああああああ!!!」


「嫌あああああああああ!!!!」




霧乃と明智は部屋に入った途端、端末準備室の一点を指差して二人同時に床にへなへなとしゃがみこんでしまった。




「お、落ち着け、霧乃と明智。どうした?俺に説明してみろ…」


「「端末準備室にドヴラートフがいる!!!!」」




青ざめた彼らが指差した先にあったのは、クロが運び込んだ一台の男性型アンドロイドであった。


アンドロイドが着ているのは紅蓮のミリタリーコートにパンダの毛皮製の帽子。


これはドヴラートフの容姿を完全なまでに再現しており、旧校舎にてドヴラートフのせいで生きるか喰われるかの恐怖を刻み込まれた後輩達にとってたいへん趣味の悪いデザインだった。




「ああ、二人ともごめん。それは俺が作ったドヴラートフだ。


それを作った理由はただ一つ、俺のエゴだよ。ドヴラートフを殺してからというもの、他の悪人がどれも万引き犯程度の奴に思えてしょうがない。


台詞の言い回しは本人と瓜二つ。血を消費せずに暴れる事が可能なんだけど、絶対に安全だ。なぜなら、力をオリジナルの95パーセントに抑えた…」




「いや、95パーセント"に"抑えるんじゃなくて、95パーセント抑えてください!!!」


「ちょっとクロ…いつまで凹んでるつもりだい?あんたらしくないわよ。」




クロの相方の喋るヒグマ、ロレッタが道具を運び込んできた。


クロは相も変わらず暗い顔でかつてドヴラートフにぶち破られた部室の窓ガラスを見つめる。




「この気持ちが理解できるかロレッタ、もう二度とドヴラートフはあの窓を突き破ってこないんだ。汐ノ目商店街で二度と人殺しも起こらないし、家に帰れば硬直した肉人形どもが玄関に積みあがってるのさ。」




「んー、それはどういう事だ、クロ?ドヴラートフの件以外でもお前はなにか困っているのか?」




「そうなんだよ真也。ドヴラートフだけじゃない。これに付け加えて、なんか俺の家で変な不法侵入者がすっげえつかまっててうざったいんだよ。」




「ほう、お前の家に不法侵入者が…」




「俺が思うにそいつらは俺の家から発明品を取ろうとするいつもの泥棒じゃない。何かねえ、これは1月ごろからの話になるんだけど俺の家のエクストリーム・セコム……不法侵入者を捕らえてラミネート加工を施す正義のセキュリティ装置にどういうわけか異国の人がすっげえひっかかっててさ…明け方と帰宅の時間に確認すると樹脂で塗り固められた外人が敷地のいたるところで積み重なってる。見つけるたびにそいつらをいつも段ボールに詰めこんで流刑に処してやってたんだ。


信じられる?同じ顔の奴が定期的に捕まりに来るんだよ!?」


「クロセンパイ、今年でこれ言うの5回目ですけど、それは殺人ッスよ!?」




「鼻の穴だけは空けてやってるから殺人じゃない。それにだ、人の家に勝手に入ろうとする奴に情けは無用だと思うよ?まあそれはともかく!今朝のことだが、『あーあ、どーせまたアジア系の軍勢がいるんだろお!?』って思って玄関を見たら人っ子一人居ない!その代わりに置いてあったのがこの一枚の紙切れだった。」




クロが一枚の紙切れを机に置き、一同はそれを見つめる。




『私が貴様を直々に迎えに参る』




「何者なんスかねぇそれを置いていったのは…」


「小雪先輩、その方が何者かは分かりませんが、これをお書きになった方は不法侵入者の親玉で間違いないでしょう。」


「霧乃、俺の台詞を取るんじゃない…」




「おい、あれは何だ?」




一同は真也が指差した先を見る。


その先にあったのは、はるか遠くを飛んでいるが、明らかにこちらに向かって低空飛行している異国の軍用機。




「西川、頼んだぞ?」


「任せるッス!!」




0.7→30




西川は能力【数値操作】を行使して自身の視力を倍以上に変え、空から向かってくる者達の正体を丸裸にしてゆく…筈だった。




「王子様だ…ワタシの王子様が、迎えに来てくれたッスよ!!!」




いつも穏やかな西川が壊れてしまった。


顔を赤らめ、細い目はまん丸になり、興奮のあまり窓から身を乗り出す。




「あの白髪…全てを見通すかのような瞳…キャーーーーッ、シビれるぅ!!  しかも、ワタシの王子様は前線で戦う勇ましいお方!!だって胸に栄章が死ぬほど沢山…


…うわっ!!!!!


赤と青を基調として、白い丸と赤い星をあしらったデザイン…


飛翔体を発射してはメディアを騒がせてる、北の"あの国"じゃないッスか!!!」




僅かに残った理性でかつてない危険を感じた西川はふと我に返った。




「嫌ああああ、お母さん…(涙)」


「ッッッしゃあああい!!!!!」


「コーーンギョーーッッ、コンギョー♪」


「ブフォwwwwwwwwwww…あっ…ほんまにすんまへんなあ明智はん!!」


「ぎゃあああ!!!!」




Itaf本部はかつてない大騒ぎとなった。


西川の顔は見る見るうちに青ざめていき、


明智はその事実を飲み込むのに時間が掛かっている。


霧乃は本気で遺書を書き始めた。


もとから頭がおかしいクロは久々の切迫した状況に思わずガッツポーズし、


桃井はネットで有名なあの国の楽曲を熱唱しながら自作の振り付けで踊り狂い、


今までずっと黙っていた真白は、口いっぱいのバニラシェイクを思わず前方にいた明智の顔面に向かって吹いた。




「ニャぁ?あの国ってどこなのぉ?」


「おい真也、俺達が餃子作ってる間に何が起こったんだ?ミサイルでも向かってきてんのか?」




謎の遊びに熱中していたせいで状況の読めていないニャーと小手川が皆に尋ねる。


真也は滅茶苦茶になった本部で全員の統率を図る。




「お前ら!あの国のお偉いさんが軍用機でこっちに向かってきているんだぞ!?


おまけに、あの国に関してメディアはなぜかミサイル情報しか報じていない。つまり、相手は未知の脅威ということだ。相手が能力者の可能性もあるから十分に警戒しろ!!」




"相手が能力者の可能性もある"…この真也の一言に反応したクロがスカイプを立ち上げ、マッハでキーボードを叩きながら人外達に戦闘指示を出し、他のメンバーも次々と戦闘準備に入る。




「よーし。本気で奴らをぶっ飛ばすぜ!そのためにまずは国に圧力をかけて俺達が主導権を握るんだ。それから、未知の脅威に対抗できる武器を準備しよう。


ロレッタとグローブと饅頭、それと桃井の狼は指定の場所に潜伏して、各自の判断で出て来い。」




「クロ、あたいのスマホ修理してからまだ戦闘で使ってないだろ。今日が使いどきじゃないのかい?」




「なるほど、それはいい判断だ!!持っていくといい!!


皆、国連も日本も今回の件を秒で承諾してくれた。


やっぱりというか、当然と言うか、


『お前、本当に頼むぞ!?世界の命運はItafに掛かってるんだからな!?』


って最後すっげえ言われたよ。よかったな!」




「おいクロ、ぶっ飛ばすって…交渉する気はないのか!?」






「話して納得してくれる相手じゃないよ。あの国の人間で白髪の偉いやつは最高指導者のクァンミョン委員長しかいないもんね。」




「クァンミョン委員長?クロはん、なして委員長はメディアで顔を出さへんの?」




「顔の良さが人間の域を超えてるからだよ。メディアでそいつの顔を数秒出したところ、テレビ局の女性や、テレビを見た女性達があの国にいっせいに取材、移住しに殺到した。そんで、現地に到着してすぐに委員長がやべえ本性を露にし、皆慌てて帰ろうとしたが一人残らず人格を破壊されて…という類のおぞましい光景が2日に渡って生放送されて以降、ミサイル情報以外を報じれなくなったってワケ。


各国のお偉いは委員長の恐ろしさを刻み込まれて縮こまった。


今生きてるほとんどのやつはあの国に関して無知だし、情報が届く事もない。


偶然にも炎を生成している所が一瞬移りこんだせいで大規模な記憶消去が行われたからね。


能力者でもよっぽどの物好きじゃないとその話は知らない。


だからあの国の情勢に誰も触れないってことだ。


危なかったね西川、もしもお前があの時、協和国旗のエンブレムを見つけて"危ない"と判断できなかったら俺達は二の舞になってたよ。」




「戦闘準備完了。でも、あの時は本当に怖かったッスよ…顔を直視した途端、快楽物質が止め処なく溢れて正常な思考を阻害されたッス。」




「パイセンにブラックさん、あたしはいつでも出られるよ!あとは、あたし達が相手の顔の良さにどう対処するかが問題だね!」


「西川と、事件の犠牲者が実証してくれたっしょ、


何か別の強い刺激を受けるとあいつの美貌による影響を無効化できる。


委員長の本性を目の当たりにしても同じ事象が起こるよ。」




「あ、あの…クロさん。その…デリケートな話になると思うんですけど…」




「気にするな霧乃。俺は性別を問わず優れた脳細胞を移植したせいで性別を喪失してるんだよ。」






To be continued…

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