第5話:霊媒少女との邂逅 ~【拳威無双】×【霊媒体質】~
小手川の思考は今までに無いほど回転をしていた。
(考えろ、考えろ、考えろ──。
不思議な箇所は全部で四つ、『一瞬でフェーズ4に到達すること』『籠手の脱着が俺の意思で出来なくなること』『本来の出力より低くなっていること』そして『制限時間がとっくにオーバーしてるにも関わらずフェーズ5に到達しないこと』だ。
前二つはこいつの能力と俺の能力の相性が良すぎるだけだろう。何せ近くにいるだけでも居心地が良かったし【拳威無双】を発動した時もそういう感覚がした。霊を引き寄せやすい体質なだけはある。理屈だって、『そういうカタチの精神エネルギー』をしてるって納得出来なくもない。
じゃあ、後ろの二つは──? いくらなんでも不自然すぎる。特にフェーズ5に到達しないことだ。クロによると、俺の青白い炎は俺自身の精神エネルギーから出来ていてよほどのことがない限り侵食を防ぐのは不可能だって──。……精神エネルギー……だと?)
男が歩いてくる。大きく吹き飛ばされた為か、まだこちらには辿り着いていない。紅葉の目には諦めの色が僅かに見え始め、小手川の思考はさらに加速していく。
(こいつの能力、いや体質は【霊媒体質】。今まではただ『精神エネルギー由来のモノ』を視認するだけと思っていたが、違うのか? もし、視認するだけではなく操ることも出来るなら──)
「おい、紅葉……俺を受け入れろ!」
(──合っててくれよ、俺の予想……ッ)
「受け、入れる……?」
「そうだ、おそらく今のお前は無意識的に俺からの強化をセーブしている。制限時間は延びているが強化倍率が低くなっているのはそれが原因と見て間違いないはずだ。……さあ、やれ! お前ならきっと俺の能力を誰よりも使いこなせるはずだッ!」
「了解ッ! 言ってることはいまいちよくわからないですけど……やってみます!」
男の足が止まる。紅葉がまだ諦めていないことに気付いたのだろう。諦めを浮かべ始めた目は決意を秘めた眼差しに、そして今まで中途半端だった強化は最大限まで発揮され──
────そして、その身からは蒼い炎が溢れ出した。
それに驚くのは小手川。自らの能力によって生まれる炎の色が変わったのだ。今までの人生(?)でもトップクラスでの驚きだろう。
「蒼くなっている……だと? それに強化の感覚もいつもと違う──。何をした? 紅葉」
「小手川先輩のエネルギーを圧縮したんです。あと、強化されてない所にもエネルギーを回しました」
たった一言、『受け入れろ』のアドバイスでここまで変わるものなのか。それよりもなんだよ『圧縮』って。強化されてない所にエネルギーを回すのは分かる。精神エネルギーを操れるなら納得だ。むしろ戦力アップに繋がる。【拳威無双】は内臓や三半規管等には強化を回せないのだ。それが出来るのならいつもよりも強くなれるだろう。
「『圧縮』……ねぇ。いつもより出力が上がってる気がするのはそれが原因か」
ついでにフェーズ5に到達してるにも関わらず侵食している様子はない。ついに考えを放棄する小手川。もう相性抜群ってことで納得しよう、と思考を停止させたのだった。
「さて、これから第二ラウンドです。気を引き締めていきますよ」
「……おう、ボコボコに伸してやんぜッ!」
◇
一気に詰め寄る男。右腕を振りかぶり、思いっきり振り下ろす。対する紅葉は蒼い炎を操り、即席の盾とすることで相手の攻撃を反らしていた。圧縮することにより、物理的な性質を持たせているのだ。
楽しくて仕方ない、と頬を吊り上げる男に対して紅葉の顔は苦悶に歪んでいる。即席の盾で相手を弾き飛ばし、距離を取る。
「──ッ。思ったより集中力を使う……慣れるのに時間がかかりそう……」
「……いや、操れるってだけでも眉唾モンだからね?」
「おいおい、せっかく楽しくなってきたんだ。ヘバるんじゃねえぞ?」
「「うるさい戦闘狂ッ!!」」
先程とは打って変わって攻めに入る紅葉。肘・肩・背中・足から炎を噴射してブースターとすることで攻撃の勢いと威力を高めている。只でさえソニックムーブが発生する程の攻撃は紅葉の能力(体質)により限界以上の力を発揮していた。
「ダアッ!……ゼイッ──」
「ぐっ……おいおい、慣れねえんじゃなかったのかよ……」
勢いに乗る紅葉に反して男の表情がついに歪む。しかしまだまだ攻撃は防げている。慣れていないと先程言った紅葉に対して少々の文句が口からまろび出た。
短時間でここまで精密にコントロール出来るのは異常と言ってもいいかもしれない。しかし、能力者が精神エネルギーによって異能を行使することからも分かるように、元々『精神エネルギーを操る』ことは人間の本能として確かに存在するのだ。それを考えれば、紅葉は精神エネルギーを操ることに対して只々天才だったというだけなのであろう。その証拠に──
「もう慣れました!」
「「……まじかよ」」
男と小手川、思わず声を合わせて驚きの声を上げてしまう。驚いてしまったのが仇になってしまったのだろう、男に小さな隙が出来た。
「そこですッ!!」
「なっ……グウッ──」
先程の意趣返しなのか、男を大きく弾き飛ばす紅葉。男は体勢を崩されてしまう。その隙を逃さず、紅葉は掌と肩、そして足裏からブースターを噴射し上空へと身を翻し、そのまま間髪入れずに再度炎を噴射、男に自重と炎の推進力で最大限まで強化された飛び蹴りを見舞った。しかし男は曲がりなりにも傭兵、体勢を立て直すとすぐさま防御に入る。──間一髪、紅葉の蹴りが炸裂するその直前、どうにか構えることが出来た。
「ぐっ……は、はは。最高だ……ッ。ここまでのヤツには会ったことねえぜ。……そろそろ終わりにしようぜ? ──嬢ちゃんもそろそろ限界だろ?」
「──ッ。だったらッ! とっとと倒れて下さい!!」
拮抗する両者。紅葉の推進力と男の踏ん張りはどちらに傾くこともしない。紅葉も、男も、『あと一歩』足りない。
──だが、その『あと一歩』を進ませる存在がここに一人いる。
「──限界、圧縮……ッ」
精神パスによる繋がりから『紅葉の支配する自分の炎』に干渉。紅葉だけではなし得なかったレベルの圧縮を実現させる。
青白い炎から蒼い炎へと変わった小手川の炎は今────
────さらなる進化を遂げる。
「「────はああああああああッッッ!!」」
「──────くそ、ここで──終わりか……」
──そしてついに、男は倒れるのだった。
「……へぶっ」
紅葉もまた、|浅くない《勢いを殺しきれなかった》代償を受けるのだった。……地面に顔面からダイブという形で。
◇
後日、毎度の如くItafメンバーは端末準備室に集まっていた。今回集まったのは有片真也、小手川拳斗、鳳紅葉、そして今回事件を持ってきた西川小雪の四名である。
真也が口を開き、今回の事件の顛末を語る。
「──というわけで、後ろに潜んでいた組織の連中は全員逮捕。誘拐の実行班を勤めていた男、帯刀空雅はその高い戦闘能力を買われて公安、しかも異能対策の為のチームに入れられたらしい。といっても、しばらく監視は着くらしいけど」
男が逮捕されなかったことを聞いた二人は思わず、
「「……うわぁ」」
と溢してしまう。一方小雪はというと──
「………………(机に突っ伏して不貞腐れるItafメンバーの図)」
「あー、な? そう落ち込むなよ、きっとチャンスはまだあるって」
「そうだぞ、お前は落ち着いてりゃ凄い奴なんだから」
見ていられなかったのか、声をかける二人。しかし小雪はそんな二人に思わず本音をぶちまけてしまう。
「いいッスよねぇお二人はッ! ちゃんと活躍の場があって! ……それに比べてワタシは、ワタシはぁッ──」
この後、約一時間程かけて愚痴を聞かされることになった三人なのであった。
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