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第4話:霊媒少女との邂逅 ~戦闘開始~

 日曜日。紅葉は街でショッピングを楽しんでいた。手提げのなかには小手川、周囲にはItafメンバー達が隠れて紅葉を監視している。気弱な性格の紅葉では状況に耐えられないのではないかと心配されていたが、意外なことに顔色一つ変えていないようだった。小手川が聞いたところ──



「隠れて護衛されるのは慣れてますから」



 とのこと。その時小手川は「そういやこいつん家お金持ちじゃん」と思ったのであった。今回紅葉達が行くのは汐ノ目町内にある超大型ショッピングモールである。そこでストーカーの存在を確認した後近所の河川敷に移動し犯人を叩く、というのが作戦の大まかな流れだ。ちなみに現在は護衛はいないらしい。自衛が出来るようになった為である。



「……で、ストーカーは見つけたか?」

「……はい、バッチリ着いてきてますね」



 真也によって名付けられた能力【霊媒体質】によって人が無意識のうちに発する精神エネルギーを視認できる彼女は、特定の人物を探し出すことに長けている。お陰で事件はすぐに解決できそうだ、と思いながら小手川は指示を出した。



「よし、じゃあそろそろ移動するか。……怪しまれないようにな?」

「は、はい。了解です」







 小手川を伴って河川敷へと移動した紅葉は、ようやくストーカーと相見えることとなった。身長は180cm程でよく鍛えていることがわかる巨大な体躯だ。



「よう、いい天気だな。ようやく一人になってくれて嬉しいぜ」



 男は気軽に話しかけてくる。相手の情報を少しでも手に入れる為、そしてItafメンバーが奇襲するための隙を作り出す為、紅葉は質問を投げかけた。



「その体躯、明らかにただのストーカーではないですよね。何者ですか?」

「俺は……そうだな、身代金目的の誘拐犯──ってトコか。本業は傭兵なんだがな」

「それはまた……厄介ですね」



 いつものそれとは真逆の雰囲気でもって紅葉は男に詰問する。日常的にトラブルに巻き込まれるが故の処世術(スイッチ切り替え)である。これを初めて見たものはだいたい「誰だお前!?」といった反応をするが、男はというと──



「なんだ? 普段とは随分違うじゃねえか。そっちが本性か?」

「ただのスイッチ切り替えですよ。……それよりいいんですか? 私ばっかり見ていて」



 紅葉のスイッチ切り替えを見ても飄々とした様子を崩さない。紅葉は隙を作り出す為にあえて自分には仲間がいることを男に告げた。



「なにィ!? ……とでも言うと思ったか? お仲間さん達は今もショッピングモールにいるぜ、嬢ちゃんの誘拐に邪魔だったからな」

「な────ッ」



 相手の隙を作り出そうとしたのにも関わらず、自らの隙をさらけ出してしまう紅葉。しかしそれも仕方のないことだと言えよう。真也達が予測した男の能力は認識阻害系統。しかし真実はそれの上位互換、認識操作系統である。真也達は男の策略にまんまと嵌められたという訳だ。



「さて、お仕事の時間だ。おとなしく誘拐されてくれると、オジさんは嬉しいんだがな? まあ抵抗してくれてもいいぜ、最後まで付き合ってやるからよ」



 余裕綽々といった男の様子、そして能力者独特の精神エネルギーによって分かり難かったものの、強者が放つ精神エネルギーに気圧され思わず後退る紅葉。そんな紅葉に小手川が(相手に聞こえないよう小声で)声をかける。



「おい、俺を装着しろ。そうすれば身体能力が上がる」

「了解」



 同じく小声で了承する紅葉。相手は後退りつつも諦めた様子のない紅葉を見て何やらワクワクとした様子で、何かを仕掛けて来るということはない。後ろ手で手提げの中にある小手川を装着する紅葉。


 瞬間。小手川の能力【拳威無双】が発動し、紅葉の肉体は強化される。普段からありとあらゆるトラブルに巻き込まれ肉体が鍛えられている紅葉にとって【拳威無双】は相性が良い様で、思わず小手川も「うおっ!?」と小さく声をあげてしまった程。


 そして突撃。強化された肉体による右ストレートが放たれる。普通の人間であればすでに打ち倒される一撃であっても傭兵である男には物足りないのか、その右ストレートは男の掌によって止められている。



「見た目の割に強えな、その籠手になんかあるのか?」

「──ッ、効いてない……」



 【拳威無双】を発動したのにも関わらず堪える様子のない男に驚きの声をあげる紅葉。一発では駄目ならと幾度も攻撃を加える。


 右、左、ストレート、ジャブ、アッパー、ミドルキック、ハイキック。ありとあらゆる技を流れるように放つ紅葉だが男には一つも届かない。段々と息があがっていく紅葉の様子に男は落胆の表情を浮かべ──



「はぁ、ちったあ期待してたんだがな。嬢ちゃんもダメ(・・)だったか……。次はこっちから行くぜ?」

「───ッ!」



 男が紅葉に攻撃を繰り出す。豪快、壮絶、剛勇──。しかして隙は最小限で、紅葉がカウンターを放つ余地はない。防御で手一杯な紅葉に強力な蹴りを繰り出すと、紅葉は大きく、遠くまで吹き飛ばされた。


 倒れ伏す紅葉に、男はゆっくりと近づいてくる。



「くそっ、ここまで──なのか……ッ」







 【拳威無双】は小手川を装着した人物を時間経過でフェーズ式で強化していく特殊な身体能力強化系統の能力である。


 着けた段階、つまりフェーズ1で五感の鋭敏化、高揚感の増幅を引き起こし、フェーズ2で装着者の表皮細胞を高密度、硬質化することで防御力を高め、フェーズ3で全身の筋肉の伸縮力、強靭さが上がり爆発的なスピードを生み、フェーズ4で痛覚を完全に遮断して痛みを無くす。


 そして最後のフェーズ5では小手川から溢れる青白い炎によって肉体・精神が侵食され始める。


 また、小手川との精神的な相性でフェーズ1~4への移行速度をある程度操れる様になり、身体能力・体力によってフェーズ5に移行するまでの制限時間が増えるようになる。


 籠手を装着するだけという簡単な条件の割には複雑な能力でもあるのだ。




 だが【霊媒体質】という特殊な体質を持つ紅葉は通常の人間とは違うようで、装着してからほぼ一瞬でフェーズ4まで到達(これは然程不自然ではないが)。しかし他の人間が使用したときと比べて全体的な能力は著しく下がり、本当の能力を発揮できていない。


 加えて、紅葉の身体能力ではフェーズ5に移行するまでおおよそ三分半。なのにも関わらず戦闘時間はとっくにその時間を超過しており、それでも青白い炎による侵食は始まってすらいない。



 紅葉が、霊を引き寄せやすい上本人は未だ気付いていないがその気になれば自身に侵入した精神エネルギーすら操れる【霊媒体質】のためか、唯一出来るはずの『装着者から自身を脱着させる』という操作すら出来なくなった身体(籠手)を僅かに震えさせながら小手川は考える。



(そうだ……こいつにはまだ何か。そう、俺をもっと活かす為の何かがあるはずだ。それをあいつが近づくまでの間に考えだせ───ッ!)




 ────それ(・・)を小手川が見つけ出すとき、戦況は逆転し始める────

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