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第1話:プロローグのプロローグ/天音と真也 前編



「─────そう……やっぱりアンタ死んだのね」



Itafの地下格納庫に少女の声は透き通って消えていく。



「ああ、もう有片真也は眠っているとも」



 真也が言葉を返したその少女。

赤い眼で見つめ返しているその少女は、まるで繊細な硝子細工を思わせた。

色素の無い髪、陶器の如き肌に朝焼け色のグラデーションを這わせ、その上から学園の制服を申し訳程度に付けている。

その容姿はある意味では人間の理想を体現し、またある意味では人間らしさを否定している様だった。


そんな彼女の名は天堂天音(てんどうあまね)、訳あって高等部2年。


かつての真也の相棒(ライバル)であり、三年前の実働班壊滅事件、その数少ない生き残りである。



「それで? 話が見えないんだが?」


「? 何かしら?」


「何でまた復帰早々に決闘なんてするんだよ、って話さね」



 真也が首を傾げるのも無理は無い。

襲撃事件から約2年半、つい先週まで天音は警察病棟に入院し古傷を癒しながらも、並行して研究者達の実施するデータ採集に付き合っていたという。


確かに幾つかの確執から天音は事ある毎に真也と競争し、件の日まで拮抗した戦績を積んでいる。

しかし、だからといってこれ程早く突っかかって来るとは真也も予想していなかった。というより深く考えたくはなかった。

何故ならば、



「あら? 真也(バカ)には難しい話だったかしら?」



この2人、死ぬほど仲が悪かった。



「────成程、もっかい病院に行きたいらしいな?」


「ええ、そうね。天音(わたし)ってば案外あそこ気に入ってるのよ? 真也(アンタ)にもオススメよ、特に火葬場とか」





「────で? 実際のところは、どうなんだ?」



改めて真也が問いただすと、天音はそれまでの眼差しを傾ける。

声色を低めて、紅色の双眸が少年を捉えて言った。



【絶対刹那】(ロストエイジ)だったかしら? 今の時間(アンタ)■■(わたし)たちの頂上、第一階位たり得るか、この場を以て裁定させて頂戴──────」



次の瞬間には天音の拳は真也の丹田深くに突き刺さっていた。



「───────ッ、ぁあ!!?」



激痛に悶える間も無く不可視の第二撃が真也の体を跳ね上げる。

【絶対刹那】の影響下だというのに、その速度はいつぞやかの校長、黒化した【永久譜編】(イモータル)に追随すると言っても過言ではない。


コンクリートの隔壁に叩き付けられ、真也は久方ぶりの感覚に沈んでいく。





 当時高等部1年だった真也は最弱と蔑まれながらもItafの一員として奔走する日々を送っていた。


そんな彼の前にある時、1人の少女が現れる。


最盛期の実働班をことごとく打ち破り、獣の如き咆哮を撒き散らし────────しかして鮮烈な衝動を残した少女。


本来ならば少年にとってその瞬間は出会いであり、永遠の別れともなり得ていた。



しかし戦いの果てに、最後まで立っていたのは有片真也だった。



 在りし日の真也の能力【空の刹那】。

概念、時間、空間────対する能力が上位格であればある程に耐性を持つ力。


完全な相性によって彼は仮初めながらも手には勝利を、少女の洗脳を解くことも叶ったのだ。




 その記憶の一切を失い幼児退行していた少女。

彼女を刺客として送り込んだ研究施設も資料諸共報復の火に焼かれ、全ては暗中へと消えてしまう。


残酷な運命に遺された、無垢なる少女にとっての幸運。

それは寄り添ってくれた2人の家族の存在。


1人は彼女を娘として受け入れ「天音」という名を授けたItafの顧問、天堂花。


そしてもう1人は、この出来事を自らの宿業と言い、少女にこの世の汚らわしさを見せまいと誓った少年、彼は今────────





「……そうだった、な? 流石、不意討ち特化の能力者だ」


蘇る記憶を胸中に留め、浅く抉れた壁から真也は脱する。



「不意討ち? 忘れたのかしら、天音(わたし)たちにとってこれは挨拶。あの頃の真也(アンタ)なら差し詰め『軽い会釈』とでも言ってたはずよ?」


「相変わらず…………いや、それもそうだな」



この時の両者は臨戦態勢を取りながらもどういう訳か談笑していた。

互いを嫌悪し競い合っていたかつての日々。

しかしそれも互いを認め合っていたが故の感情であり、だからこそこうして語らいたくも思うのだ。



 歪な信頼にその背を押され、天音は再び真也の寸前に現れる。

近づくという過程すら置き去りにして、少年の眼前へと降り立つ少女。


音速に程近いその一撃を真也は今度こそ頬へと流した。

白い拳に皮膚を浅く抉られながらも間髪を入れずにクロスカウンターを見舞う。

初撃こそ【絶対刹那】顔負けの速度を誇る天音だが、今の真也ならばその挙動を見つつも反撃に応じられる。


彼の放った一撃は成功───したかに見えたが拳の先にあの陶器の様な顔は無く、気が付けばまた距離を取られている。


 徹底した間合いの管理と瞬間移動の如き縮地術。

真也は改めて天堂天音という存在に、湧き出でる高揚感に震えた。




 天堂天音の能力【絶対虚空】(ロストスケール)


その効果は『空間を与奪すること』。

周囲の物体を捕捉し、自身との間に存在する、本来概念であるはずの空間を足し引きする能力。


時間と空間、まさしく真也の【絶対刹那】と対を成す存在である。



 かつてこの超常を目の当たりにした者は皆畏怖の感情か、或いは知的好奇心を覚えたという。

突如として汐ノ目に現れたこの異能はその高い出力故に当時の研究者達を引き付けた。

しかし、その原理解析も測定もままならない状況は続き────────その果てに二つの結論が成される。



1つ、この能力及び類似する異能に『絶対的存在』と言う意を込め、以降は『絶対』の名を付けて管理すること。


2つ、『絶対』の異能を持つ者を『人類が解明すべき未知』と言う意を込め、以降は『未元(未完了)の能力者』と呼称すること。



以上2つの項目を制定し、研究グループはその日の内に匙を投げたという。





「……いくら味見したいからって、流石に大雑把過ぎるじゃない真也? それでもやるってなら新手のヘイトと受け取ってあげるケド?」


「────ああ、悪かった。そんじゃま、俺もそろそろ本気をば」



再び対峙する天音と真也。

その懐古に浸る戦いは、



「「よろしくお願いします」」




一礼を以てようやく始まるのだった。




※2日前から実施しているように本作の投稿時間が19時から夕方頃に変更となります。

 お手数をおかけしますが何卒宜しくお願い致します。

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