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第1章最終話:エピローグ




「......何も無い日、かぁ......」




 10月某日、学園長藍川紫皇の辞任騒動より3日と半日が経過した頃のこと。


先の事件は生徒会及び警察によりガス管の破裂としてもみ消され、当事者であるItafはこれまで通り学園公認の治安部隊として存続が決定された。


その成り立ちや過去の悲劇が明るみになったにも関わらず、当の本人達はあっさりとそれらを受け入れ、それどころか暇つぶしに勉強会を開く有り様である。




「――――――そういえば有片先輩?」


「ん? どうした急に?」




その最中、蛍は思い出したように真也を呼んでいた。




「零先輩ってあれからどうなったんですか? 暫くお見えになっていない気がして」


「ああ、そういや言ってなかったか? 警察の事情聴取が終わったら父親―――元学園長と引っ越すんだってよ」




何気ない真也の一言にその場の誰もが驚愕する。


決戦が行われたあの日、首謀者の娘であり一度は真也暗殺を目論んだ零は警察署への同行が求められ、当然の流れとして彼女はそれに従った。


紫皇が【永久譜編】に取り憑かれていた数年を憶えていないこともあり、彼女もまたお咎め無しという処分になったのだがその罪に変わりは無く、事実上の隔離措置が為されたと見られている。




「そんな......まだ何も言えてないのに......」


「そうッスよ! もっと早く言うべきじゃあないんスか!?」


「あーこれはやっちゃったねー兄貴? あたしタピオカミルクティーでいいから!」


「ほな、わしは現金きゃっしゅで」


「おい待て、勝手に話をシフトするな。それと桃井、タピオカの単価ってえげつないくらい安いからな? あと真白はその財布を戻すんだ、今すぐにでも」







「―――では、貴方が有片先輩の......」




 警察署での聴取を終えた帰り際、隣接する病棟の渡り廊下で零は1人の少女との邂逅を果たしていた。




「ええ、そうね。2017年、あの事件の日まで確かに私はItafにいて、確かに今の今まで入院してたってワケ」




そう話す少女は真紅の瞳を除く体の全てが透き通るように白く、大理石を想わせる印象は彼女もまた超常の力を宿す存在であることを決定付けている。


それに何より、零は窓辺に立つ少女から真也に似通ったものを感じていた。




「にしても、零さん(あなた)も大変だったわね? 大丈夫? あの会長バカに何かされてない?」


「いえそんな! そんなこと無い、です......。それどころか、私は......」




 脳裏が漂白され、俯いてしまう。


恩人である仲間より自らを愛すると言った父の幻想を選び、結果父そのものを失いかけてしまった。

あの時からずっと、その罪悪感故に零は手に入れた平穏を受け入れていいものか、自分などが幸せを享受してもいいのかと、これまで以上に苦悩を抱えていた。




「......恩を仇で返して、色んな人を巻き込んで......私は、私が私であることが......許せないのです。例え父に愛されようと、もう先輩には顔向け出来ない気がして......」




幾度目かの後悔に苛まれていく、そんな零の涙を拭ったのは彼女自身ではなかった。


濡れた病衣に抱かれ、零は白い少女の微笑みに出会う。




真也アイツね、何だかんだで優しいでしょ? そのくせ自分には容赦が無くて、最近だって私達を救えなかったって、面倒くさい奴よね? だから―――気にするだけ損だと思うな?」


「......ありがとうございます。よくご存知なのですね......?」


「当たり前よ。これでも競ってた仲なんだから―――あ、もちろん私の勝ち越しね?」




他愛の無い話、愚痴や冗談ばかりだとしても涙を枯らすには事足りた。


久々に笑った気がすると零は少女に語る。




「それで? 元に戻ったは良いケドお父さんまた無関心になっちゃうんじゃないの? 零さん(あなた)の能力の原因っぽいし」


「いえ、実はですね―――」




零が言いかけた時だった。


廊下の果てから若い男性の声が響く、彼女の名を呼ぶものだった。




「噂をすれば、ですね。申し訳ありません。そろそろお暇させていただきます」


「そう......杞憂だったみたいね」




苦笑しながらも、最後には零も少女も喜びを分かち合っていたという。




「ところで零さん? 妹萌えという言葉に興味はあるかしら?」


「いえ......無いです、色々と......」







「―――というワケで、だ。今から零を迎えに行くぞ」




歓迎会用の弾幕を棚から下ろしつつ真也は警察署に同行するメンバーを募っていた。


何時の間にかオカ研には見慣れぬ顔―――30人ばかりのItaf会員が忙しなく送別会の準備に勤しんでいる。




「それから一緒にお連れするんですよねぇ? 会長先輩の元相棒? の方とやらも」


「おっと勘違いするなよ明智? アイツは『ついで』だよ『ついで』。正直あと4、5年は入院してても良いくらいさ」


「なのに注文する気なんですねぇ? ホールケーキを2個も」


「............ノーコメントだ」




「ねぇ兄貴! その子って可愛い? あたし会ってみたいんだけど!」


「お前も付いてくか桃井? 人間離れしてる、とだけ言っとくが?」


無問題(もうまんたい)ッ! これはカワイイと見た!」






「さぁお前ら、準備を急ぐぞ! 西川、作業の進展は!?」


「ん? まぁ零チャンの為なら仕方ないッスね」




「真白はケーキ×2の発注を!」


「『予算』ってええ言葉や思いまへん?」




「クロ、例の品は出来てるかい?」


「P53電磁式クラッカー改だね! イタズラには俺も手は惜しまないんだ!」


「先輩、これバズーカにしか見えません」




「その他メンバーは装飾を頼む! それじゃあ付き添いは蛍、桃井! それから明智は、向こうで俺の手に【偽者の嘘】を付与するように」


「おっとぉ? これは犯罪臭が」




「あ、ただし小手川。オメーはダメだ(籠手だし)」


「うん、言うと思った!!(籠手だからな!)」




 出会いと別れ、手を伸ばして尚掴めぬものでこの世は溢れている。


それでも彼らは止まることを知らず、いつの日かに終わる日常を生きていく。


尾を引く影を携えて、少年達はまだ見ぬ明日を夢見てひた走る。




これは、イレギュラー極まりない物語だ。




                               ◇第一部 完◇

今回のエピローグで第1章は完結です!

今後は外伝や過去編でストーリーを補完していき、来月からは新たなメンバーを迎え、第2章が始まります!

また、第1章との間のストーリーにあたる第1.5章も随時投稿していきます!

短い間でしたが、第1章にお付き合いいただきありがとうございました。

今後のストーリー展開にご期待ください!

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