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第16話:開戦の人喰い迷宮




「ここが、学園の旧校舎......」




そびえ立つ木造の建物を蛍は険しい表情で見据えていた。


汐ノ目学園の裏手に息を潜める旧校舎、曰く付き、因縁たるこの場所にその日Itaf実働班の面子7人が集っていた。


一部のメンバーを除いて。




「ここに零先輩が......」







 有片真也、並びに藍川零が消息を絶ってから3日目。


Itaf総員による捜査にも関わらず未だその行方は不明のまま、路上に残された血痕だけが事の重大さを物語っていた。


誰もが途方に暮れる最中、事態が動いたのはその翌日のこと。


前触れも無くクロ手製の通信機が受信した救難信号、その発信元はとある一台のスマートフォン。零からのものだった。


解析の末に割り出された位置座標を辿り、そして現在に至る。




「............」




日に焼けた外壁を眺め立ち尽くす小雪。


もし自分の想定が事実に反しないとしたら―――───沈黙する彼女は肩を叩かれていることすら早々には気付けなかった。




「―――くん? 小雪君? どうかしたのかい?」


「......いや、何でもないッスよ?」




「......罠だろうね、明らかに。だからこそ確かめに行くんだ」


「誠クン............そうッスね」




一抹の不安を抱えつつ、二人は仲間の背を追った。









「────いや、予想はしてたぜ?」


「まさかはぐれるとはねー?」




 旧校舎への侵入を試みてから5分足らず、どういうわけか実働班は二手に分断され互いの居場所を把握できない状態にあった。




「どうブラックさん? 電話繋がった?」




画面を覗き込む桃井にクロは首を横に振る。




「うーんだめぽ。俺の通信機が壊れるとは───これはもう相当な能力と見た!」


「同意だぜ、クロ。ていうか見れば分かるだろ、コレ」




小手川等が見渡す廊下に果ては無い。


在るのは不規則に曲がりくねった回廊と乱立する階段、5回は見かけたであろう2年4組の教室等々。




一言で表すならば──────迷宮。




物理法則すら容易く捻じ曲げてしまえる、空間系能力者が関与していることは確実だった。






「ハリ○タとかにあったよね、こういうの」


「あ、また4組みっけ!」




相変わらず平常運転の同期2人に(籠手だけに)手を焼きつつ、小手川はどうにかして歪んだ校舎を分析しようとしていた。




「外に出ようとしても───これだしなぁ」




裏庭の見える窓を殴りつけ、外を覗き込む小手川。


彼の視界(?)に映った景色は元来た道と何ら変わらない、やはり果ての見えない廊下だった。




「下手したら一生このまま......ってことはないよな? 俺もう死んでるけど」




「ん? 小手川、能力はさっぱりだけど進めないってことは無いと思うよ!」




「............一応聴いとくわ。何か考えたのか、クロ?」




「もちろん! あのねぇ、こういう迷路を仕掛ける側にとって一番嫌な事って何だと思う? 正解は『ルールに従わないこと』!


ところで見てよこの迷路。階段とかはあっても基本平面でしょ? きっと創った人が『迷路とはこういうものなんだ』って平凡に決めつけてると考えられる。


つまり、ここから導き出される結論は──────?」




「嫌な予感がする」




「────天井をこの爆弾で壊して上に進む!」




「知ってた」




漫画の様に膨れたリュックから五尺玉と見紛う程の爆弾を取り出すクロ。


示し合わせたように手を貸す桃井。


そしてスピーディーな混沌×2に戸惑う常識人(?)の小手川。




「いやお前ら、ここ木造────────」




程なくして天井は爆破された。






クロの計算通りイイ感じに積み上がった瓦礫を足場に、3人は3階へと足を踏み入れる。


そのはずだった。






「......待って桃井! 先に行ったグローブ(小手川)から返事が無い!」






異変を感じたクロが咄嗟に桃井を引き留める。


物理攻撃の効かない小手川が行動不能になる状況は極めて限られている。




「よしそれなら! ゾンさん、君に決めたっ!!」




召喚された骸の騎士は外套をなびかせ瓦礫を一気に駆けのぼる。


3階に到達するや否や剣戟一閃、ロングソードが弧を描く。




しかし、次に剣が鳴くことは無かった。






「......ゾンさんが退去した......」




「これはマズい! 一旦離れるよ、桃井!」






即座に呼び出した狼のリルに乗りその場からの離脱を図るクロと桃井。


不規則な廊下を突き進む最中、更なる異変が2人を襲う。


地鳴りのような揺れと共に背後の壁が膨張し、元来た道を塞ぎ始めたのである。




「相手は俺らを潰す気らしい! もっとスピード出して!」




ポテトチップス型の爆弾で追ってくる壁を吹き飛ばしながらクロは桃井に叫ぶ。


周期を加速させていく地鳴りと爆発のせめぎ合い。




その時、桃井が叫びを返した。




「だめブラックさん! 前に女の子が────」




リルの向かう先には遠目に1人の女生徒が立っていた。


興味本位でこの旧校舎に立ち入ったのだろうか、理由は定かでないがこのまま速度を緩めれば誰も助からないことは明白である。


どうにかして助けようと桃井は身を乗り出す。手を伸ばす。




「そこの子! 乗って!!」




「待って桃井!! そいつは──────」




違和感を察したクロは桃井の上体を引き戻そうとする。


その刹那に、2人の耳にある言葉が伝った。






「いえ、お構いなく。手短に処して差し上げますので」






次の瞬間には2人は廊下に投げ出されていた。









「いったい何が......?」




木の床に着地した桃井が振り向くとそこには驚愕すべき光景があった。


それは先程の深い青髪の女生徒がぐったりとしたクロを壁に空いた穴に閉じ込める瞬間。


しかし更なる異変は既に存在している。




女生徒が両手に装備している鎧、それは紛れも無い小手川の姿であった。






「成程、これが【拳威無双】。いえ、興味はありませんでしたが、こうしてみると非常に有用ですね」




鋼色の五指を開閉させ身体に満ちていく力を実感する。


唐突な状況変化に桃井が混乱する中、彼女を見定めるようにその女生徒は淡々と述べていく。




「いえ、失礼いたしました。独り言です。『物理ダメージが効かない』と聞き及んでおりましたので籠手の方には『別の迷路』に案内させていただきました。

ご心配無く。貴方は先程の方同様、きちんと圧死していただきますので」




怪しげな光を滾らせるその瞳に桃井は直感する。


彼女を倒さない限りこの迷宮を脱する術は無いのだと。




しかして状況は劣勢。


能力、地の利、近接攻撃力。どれを取っても相手の優勢は揺るがない、そんなことは百も承知だった。




それでも勝てる勝てないの問題などではない。


仲間の為、そして何より自分を否定しない為、やらねばならない時が来ただけのこと。




「リル、まだ立てる? お願い────あたしに、力を!」











「フハハハハ!! 脆い! やはり脆いな猿共め!!」




一方その頃、4年生と分断された下級生達は最悪の相手と相まみえていた。




「どうした!? この程度で我輩に歯向かおうとは片腹痛いわ!!」




その急襲者は彼らの予想を超えていた。


血濡れのトレンチコートとその荒々しさはかつてItafが二度退けたという怪物、血霧のドヴラートフに違いない。




「ッ!? 負けないでジャック! スペード!」




蛍の号令で殺到するトランプの兵をドヴラートフは片端から、文字通り千切っては投げ退けていく。


狂人とはいえど、流石は戦争の最前線に立ち続けた猛者と言うべきか。


1対52という物量差を諸共せず、遂にドヴラートフの怪腕が[幻想]を纏った蛍に到達する。




音速にも程近い一撃を凌いだレイピアは【幻想装備】(メルヘンアーマー)の限界と共に光に溶けていった。




「まず一匹!! 終わりだ小僧!!」




ドヴラートフの手刀が蛍の首を捉えようとする寸前、






9.8 → 30






突如としてその動きが鈍くなる。


巨体を支えていた足元は大きく沈み込み、半世紀は過ぎたであろう床を軋ませた。




「────【数値操作】。これ以上やるなら色んな意味で落とすッスよ」




徐々に添加されていく重力加速という名の舞台装置に、ついにドヴラートフは膝を着く。


完全なる概念系の異能を前に怪物は為す術も無いと思われた。


しかし、






「──────舐めるな!! 【怨念開放】LV2に移行する!!」






低学年の彼らにとっての不幸は、その怪物という形容が比喩ではなかったことである。






五体を駆け回る血潮は遂に物理法則すらも凌駕する。


高出力での【怨念開放】によりいとも容易く小雪の重力圏を脱し、勢いをそのままにドヴラートフは一塊になったItafの4人へと襲いかかる。




「まとめて滅ぶがいい劣等種共ォ!!」




三度振り下ろされた剛掌が迫る。


こんな化け物を二度も圧倒したのかと、その場の誰もが纏わり付いた恐怖に足を取られていた。




ただ一人を除いては。




「───ふぅん? あんさんえらい恐いなぁ? どしたらええんやろなぁ?」




車椅子の少女は作成した障壁に打ち付けられた拳を見つめて尚も微笑を浮かべている。


人体ならいざ知らず、歴代最硬ともされる光の壁は相手の肉体を容易く砕いた。






 真白の能力【経典不朽】。


これまで幾度となく仲間の傷を癒してきたその力の実態は『自己修復効果を持った障壁』である。


育ての父より授かったというこの異能。


本人曰くその由来は太陽信仰に裏打ちされた『生命・豊穣の側面』らしく、あらゆる兵装を以てしても概念による壁は破壊に至ることはない。






「ぐッ!? 卑怯者め! 出てこぬというならそのトーチカ諸共に討ち滅ぼしてくれよう!!」




諦めの悪いドヴラートフは蒼ざめた拳を光の壁へと何度も振るい続ける。




「うーん、せやなぁ? 手も足も出んゆうんは今なんやろなぁ? わし、ほんまに足出ぇへんけど」




まさに防戦一方。


息の詰まる防衛戦は終わることを知らない。









「────────討ち滅ぼしてくれよう!!」




その叫びを聞いた人物がもう一人だけ存在していた。それも壁の中に。




「............なんだドヴラートフか」




そう呟いたクロは壁に閉じ込められてからの十数分、押し潰そうとしてくる空間に持参した警棒を挟み込みつつ状況の打開策を思案している真っ最中だった。




────待てよ? ドヴラートフが叫んだ=叫ぶ相手がいるってことだよな?




小雪等が自分の頭上、3階にいることを察したクロはそれまでに考えていた反撃手段に情報の一切を組み込む。


何故そこにドヴラートフがいるのか、までは頭が回らなかった(というか慣れ過ぎてどうでも良かった)が全てを解決する道筋はたちどころに拓けていく。




「───よし。やっぱり俺は天才だぜ......!」




史上最悪の策士は自画自賛しながらもリュックの底を漁り始めた。









「───ふぅ。手間を掛けてくれますね。いえ、想定通りですが」




黒髪の女生徒、春日部瞑は長引いた蹂躙に幕を引こうとしていた。




その黒目に映る赤髪の少女、桃井は洗脳された小手川を有する瞑に対し限界以上のゾンビを召喚しこれを迎え撃つ。


しかし、どれ程の猛獣を呼ぼうと変形する空間に押しつぶされる。


どれ程の手練れを呼ぼうとも人域を超えた【拳威無双】によって殴殺される。




今や彼女の下には相棒のリルしか残っていなかった。




「ッ! リルッ!! もう少し! もう少しだけ──────」




「いいえ、見苦しいですよ」




遂に瞑の一撃が、小手川の拳が桃井に到達する。


これまで多くの敵を退けたその力────即死すらもあり得た。




あり得たのだ。





「残念! ご愁傷様ぁー!!」





高揚とした叫びと共に鮮烈な爆轟がその可能性を否定した。




壁から脱け出て尚も手にした爆弾を投げつけていくクロ。


そのどれもが明後日の方向へと着弾し豊かな赤光を咲かせていく。




「貴方も見苦しいですね。いえ、生き汚いと言うべきでしょうか」




必要最低限の動きで爆弾を回避しながらも、瞑は疲弊した桃井より先にクロへと狙いを定める。




「いえ、それでは、さようなら」




鋼の拳が放たれるその瞬間、何かの割れる、砕ける、壊れていく音と小刻みな振動が彼らを巻き込んだ。


不敵な笑みを浮かべるクロにようやく事態を察した瞑はその顔から余裕の色を取り去っていた。




「いえ、そんな......! しまっ──────」




元より木造の校舎である。


継ぎ合わされた梁、当時の工法とほんの少しの力学知識を照らし合わせてしまえばピンポイントでの爆破解体など簡単に出来てしまう(※クロの場合に限る)。




上階の質量を支え切れなくなった柱は既に意味を成さず、2階の天井諸共上に在ったもの全てを引きずり降ろす。


距離を置いた双方の下へ、飛散する木片と共に落ちてきたのはミリタリーコートの大男と、球体型のバリアに包まれたItafの下級生4人であった。









「おい春日部とやら!! あれ程邪魔をするなと言っただろう!? 我が友人の遣いといえど貴様が下賤な蛮族であることに変わりは無いのだぞ!?」




「はい、留意致します。いえ、今はどうか処理作業にご注力ください、将軍」




声を荒げるドヴラートフを冷静にあしらおうとする瞑。


その一方で戦況を把握したItafメンバーにクロは素早く指示を投げる。




「会話の内容から察するに、あの女の能力は『現象界、精神領域を問わず迷路を作成すること』だ。小手川はあの怪しい光を受けたことで精神に迷いが生じ、そのまま自我が薄れてしまったと考えられる。


ドヴラ―トフの相手は俺と西川でやるから、シロと明智はあの女の相手をしろ!


もちろん【経典不朽】に明智と霧乃、桃井を匿ってやれ!!」




「ん。高く付くんやけどええんどすなぁ、クロはん?」




「構いませんよクロ先輩」




疲弊した2人のメンバーを背に、それぞれの反撃が始まった。








「そこの車椅子の方? いえ、旦那様より聞き及んではいるのですが。その壁を解くことをお勧めします。どんな障壁であれ、もう直私の迷宮に取り込まれるでしょうから」



真白の展開したバリアをせり出した左右の壁が宛らクルミ割りの如く押し潰そうとしてくる。


壁に埋め込まれるのも時間の問題と思われたが、それでも真白は冷静に相手を見つめ返していた。




「まぁまぁ、綺麗な顔がわやになるさかい、そない顔せいでおくれやす。所詮馬鹿には見えん壁やし。ほんでもまぁ、人が作ったモンほな壊れへんどすえ?」




真白の言葉の通り常に修復される障壁、その強度は木壁のそれを遥かに超えており、互いがせめぎ合う度に木片だけが散っていた。




その状況を見かねてか、瞑は小手川を使い自ら【経典不朽】の破壊に乗り出す。


蒼の炎で大気を焼きながら、鋼の拳と障壁は拮抗し幾万の火花を散らす。


全ては主より賜った『早急にItafを処する』という任務を果たす為。




瞑の肢体から発せられた粒子はバリアの表面を徐々に浸蝕し、その概念を『迷路』へと置換していく。




「いえ、いいえ! 貴方達が旦那様を見ることなど許しません、絶対に!! それはあの娘とて同じこと!! あのお方は! あのお方には────────」




「どーでもええんやけどな? わしの能力は元々『回復』なんよ?」




「────ええ、聞き及んでますが。いえ、早く死────」






「ふぅん、ええの? グローブはん回復しても?」






「............あ、いえ。いや............」




 小手川の能力【拳威無双】。


その効果は自身を装備した人間の身体能力を底上げすること。


しかし、強力無比な力は何の代償も無しには使えない。それが世の常である。




小手川の意識が鮮明になると同時、それまで自らの能力で補っていた負荷が、力のツケが瞑の身体を一気に駆け巡っていく。


小手川という制御装置も無く、本来の限界を超過していた代謝は数秒で侵され、無理矢理四肢を飼いならしていた筋骨は次々に破断する。


その様相は五体がまだ残っているのが不思議な程だった。




瞑にとっての不運。


それは明智の【偽者の嘘】(フェイカーライ)によって「回復される」という認識をずらされたことだろう。



数秒もしない間に瞑は血涙の末に気絶し、後には何事かと辺りを見渡す小手川が残された。








「おっとぉ、思ったより早かったなぁ!? さぁお仲間がやられたようだぞ、ドヴラートフ!?」




積年の相手に散々煽られたドヴラートフはこれまでの恨み辛みを脳裏に描く。


思えば、自分が大陸で築き上げてきた栄光を壊したのは、忌まわしきニャーを友と呼ぶのは────他でも無い、対峙するクロという男である。




「クロ! 我が祖国を穢さんとする悪魔よ! 今日こそ貴様をこの大将軍ドヴラ―トフが屠ってくれよう!!」




高らかに叫んだドヴラートフは再び能力を点火する。


大量の血液を消費しその巨体を重力から解き放つ、文字通りの【怨念開放】を以て廊下を弾丸の如く疾駆する。




対するクロと小雪はその場を離れること無く、直立のままに高速接近するドヴラートフを迎え撃つ。


生地が悲鳴を上げる程に膨れていたリュックをひっくり返し、クロが最後に構えた装備は何の変哲もない、ありふれたデザインの消火器一つ。






「フハハハハハ──────!! 遂に万策尽きたな倭人共!! 我輩の勝利は揺らがぬ、揺らがぬぞォォオオ──────!!!」






「ああ、俺もこれで最後だよ......」




名残惜しむように首を振るクロ。


それでも彼は前を向き、怪腕を振り下ろすドヴラートフへと消火器を放った。






「─────────ぐ、ぁぁ。ぅああああ!? ぁっ、あああぁぁああああああああぁあああああッあああああああああ!! ああぁあ!? ああああああああヲああああああああああああ、ああああをあああああああああああ!!? ああああおあああああああああああああああッああああああああああ? あああああおあああああああああ!!!」






その場の全てを震わせて、かつてない絶叫が廊下を満たす。


声の主は─────────ドヴラートフであった。





皮膚を覆う赤煙に巻かれ悶えるドヴラートフ。


そして哀れみの眼で見下ろすクロ。




「悪いなドヴラートフ。確かにこれは至って普通の消火器だ。けれど中身が違う。


その消火剤は名付けて『Gift for D』って言ってさ、お前にだけ劇薬として働く殺虫剤みたいなもんなんだ。お前の細胞がどうなればニャーみたいになるのか、突然変異の過程を逆算すれば逆に脆くしてやることも出来る。血をばら撒き過ぎたのが仇となったな。


さて、これ以上苦しむのも酷だろう。せめてもの慈悲だ。西川、この辺の酸素濃度を上げてやれ。そうすれば細胞の分解も早まるはずだ」



長きに渡る因縁と共にドヴラートフの身体は粒子へと返っていく。




「じゃあなドヴラートフ。良くも悪くも、お前は俺にとって最高の遊び相手だったぜ?」


「こればっかりは、もう同情の余地も無いッスね……」




こうして幾度にも及ぶドヴラートフの襲撃は、斯くもあっさりと終わりを告げた。







 気絶した瞑をクロが持ち合わせていたロープで拘束の後裏庭へと降ろし、実働班の7人はようやく肩(小手川は別として)の力を抜くことが出来た。


校舎の迷路化は回復しつつあったが依然として電話も無線も使えそうにない。




「死にはしないだろうが......凄まじい執念だな......」




 意識を封じられ精神の迷路を彷徨っている間、小手川は腕を通して瞑の意思を感じ取っていた。


それはまるでひたすらに吹雪く風─────時折混じる誰かへの執着は愛と呼ぶには禍々しさに過ぎる、狂信者としての在り方に違いなかった。




「ほら! 前向きなよブラックさん! 今はあたし達の出来ること、あたし達にしか出来ないことをやるべきじゃない?」


「───ホント、お前も変わんねぇよな?」




 過去との決別を、為すべきことを求めて一同は旧校舎の探索を再開した。




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