第15話:夕暮れに差す影
「............」
「............」
「......あの、有片先輩?」
「ん、どうした?」
9月某日、時は夕暮れ、帰り際の真也は零にばったり遭遇し、そして今へと至る。
既に3、4分は経過しているが両者共に話題は無く、加えて先輩後輩以前に男女としての距離感が余計に会話を拒んでいる。
そんな中、ようやく口火を切ったのは零の方だった。
「ふと思ったのですが、先輩は何故あの様な、まるで身を投げ打つ様な戦いをなさるのですか? 私が想像していた指揮官は何というか後衛? みたいなイメージがありまして......」
「あーそれかぁ............」
「あっ、すみません興味半分で聞いてしまって!」
苦笑しながらも真也は言葉を選び語り始める。
「いや、よく言われるよ小手川とかに。
............昔さ? もう2年半位前になる、のか......? 全盛期だったItafはある戦いで壊滅したんだよ、誰も彼もが。終わった頃には数人しか生き残ってなくて──────俺なんてその頃最弱だったのに何故かまだ生きててさ?」
「............」
「そのくせ守れなかったんだよ。先輩も、唯一の相棒も......だから、人一倍頑張ってやろうと思った。立場をかなぐり捨ててでも、いつか限りが来るとしても前線に立っていよう、そう思った」
「......そう、だったのですね......」
「悪いね、こんな暗い話でさ?」
時折垣間見える、それは確かに真也が覗かせた負の一面だった。
「いえ......それにしても信じられません。あれだけ強い能力を持っていて、本当に最弱だったのですか?」
「ん? ああ、あの時はまだ【絶対刹那】なんて無かったし、今だって結構弱点はあるし。それを考えると先輩方にはまだ敵わないだろうなぁ」
「弱点、ですか? 全く思い浮かばない、というよりも想像がつかないのですが」
零に問われた真也は頻りに辺りを見渡す。
夕陽色に染まった通りに人気の無いことを確認し、真也は声を潜めた。
「実はな? ここだけの話、俺の能力って何でだか学内限定なんだよ。もう蛍には話していたんだが、最近どうも忘れっぽくていけない」
「学内限定......というと今は?」
「ああ、大分出力が落ちてるだろうな」
「......そうですか......それを聞いて安心しました」
「? それはどういう――――――」
その問いを真也が言い終えることは無かった。
その胸を刺し貫く、冷たくも鋭利な感覚が彼を襲った為である。
続けざまに視界はその鮮明さを失い、両脚は身体を支えることを諦めてしまう。
自らの血だまりに倒れ伏し、真也は逆光に立つ少女の曖昧な表情を見納めた。
「有片先輩、申し訳ありません。この報いは甘んじて......」
赤く濡れたナイフを懐に忍ばせ、零は夕闇に沈む路地へと消えていった。