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第14話:シアワセ⑤

「オイ!しっかりしろ!お前、なんでこんな…」




小手川は倒れた星奈に必死に呼びかける。


彼女の身体を抱えるが既にその息は浅く、体はボロボロになっていた。




「クソ、とりあえずアイツの…真白のとこに連れてかねぇと」


「その必要はあらしまへんで、グローブはん」


「え?」




小手川が振り返るとそこには、車いすの少女、真白がいた。


狼を伴った桃井と怪我が治った状態の真也も一緒だった。




「ま、真白!?どうしてお前が」


「どうやら、俺の予想は間違ってなかったみたいだな、小手川」


「お前が連れてきたのか、真也。いや、今はそれよりも」




小手川は真白の方を向いて言う。




「こいつの治療を頼む!もうこの状態じゃ…」


「ええけど、この怪我じゃ…結構高くつくで?ざっと10万くらいかな」


「おま、こんな状況で」


「後払いにしてるだけ感謝しいや」




そういうと真白は星奈の体に触れる。


真白の能力、【経典不朽】。不朽の銘の通り再生能力を持つ壁を張る能力…なのだが、その応用として他者の再生を行うことが出来る。だが、その分の負担も大きい。




「…ふう、とりあえず落ち着くとこまでは治しといたさかい、あとは病院で診てもろうてや」











「…ッ!」




少女は目を覚ます。荒れ狂う自我を抑えつけて自分の命を絶とうとした。


だがこうして白い天井の部屋で白いベッドに寝かされている。ということは。




「あたし…死ねなかったのね」


「開口一番それかよ」


「!?」




声のした方向を振り向く。そこには先ほども見た籠手が浮いていた。




「あ、あんたは…」


「小手川拳斗、小手川でいい」




小手川はやれやれといった調子で続ける。




「単刀直入に聞くぞ、どうして自殺しようとしたんだ?」


「……あたしに潜む悪夢を終わらせたかったから」


「悪夢?」




星奈は【災害解封(ディザスターシール)】の詳細、強い力によって自分の自我が支配されていたことを話す。


それを聞いた小手川は何ともいえないような唸り声を出す。




「ううん…つまりお前が抑えていた自我が俺たちが戦ったやつで、今のお前は水無月星奈本人ってことか」


「そうよ…あたしはあたしの能力に縛られていた」


「そしてお前はなんとか自分にシールを貼ってアイツの暴走を止める気だったと」


「ええ。それが最善策…あたしの責任の取り方よ」




自分のできる行動はそれだけだった、間違いが無かったと彼女は信じ切っていた。が、




「バカか、最善策どころか最低最悪の策だわ」


「えっ?」




彼からの返答は星奈の考えとまるで違っていた。




「お前は責任を取りたかったんじゃない、責任から逃れたかったんだよ」


「そ、そんなこと」


「ある。お前は自分の罪、呪われた能力から逃げたかった」


「う…」




小手川の追及に星奈は言葉を詰まらせる。




「…あんたにあたしの何が」


「わかるのかって?何も分かんねぇよ」


「だったら!」


「でも、お前が死ぬのは絶対に間違ってる」


「!」




人の命を大事にする小手川にとって、星奈の選択は許されないものだった。




「だって、あたしの能力は…」


「お前の能力が人の幸せを壊すものだったとしても、俺はお前を助ける」


「今回のように、大勢の人を巻き込んでも?」


「ああ。だってお前が死んだとしても大勢の幸せは取り戻せないからな」


「…それはそうだけど」




「お前の幸せを犠牲にして、得る者なんて何もないんだよ」


「あたしの…幸せ…」


「お前の過去に何があったのかは分からない。でもそこで幸せを失ったんならまた探せばいいんだよ」


「そんな風に割り切ることなんて、出来るはずが…」


「割り切れなんて言わない。過去を背負いながら生きていくことだって大事なことだ」




でも、と小手川は続ける。




「それでも幸せになれない訳じゃない、失ったらまたつかみ取ればいい」




「『幸せ』ってのはつかみ取るもんなんだよ、前のお前だってそうしてたんだろ?」


「……」




小手川の言葉が星奈にのしかかる。




「まあお前のことだ、療養中にゆっくり考えな」


「…どうしてあんた…小手川先輩はそこまで」


「まあ、それは気にすんなって」




その時、廊下を歩く靴の音が近づいてきた。




「おっと、見回りかなんかか?とりあえず俺はそろそろお暇させてもらうぜ」




小手川は病室の窓を開ける。




「ちょ、ちょっと」


「最後に1つ。お前が幸せを探すっていうなら俺たちも手伝うからな」


「えっ?」


「そんときはオカ研でなー」




そういうと小手川は夜の闇に消えていった。


それとほぼ同時に病室の窓が開く。




「失礼しまー…あれ、水無月さんが…」


「(あたしの…幸せ…)」




星奈は心の中で迷いを捨てきれずにいた。




「オカ研、行ってみようかな」











「…ってのが今回の事件の顛末なわけだ」


「成程な、能力による凶暴化、か…」




小手川はItafで今回の事件の真相、すなわち星奈の能力について報告していた。


もっとも、この場には真也と零と蛍と爆睡している桃井しかいないのだが。




「とりあえずご苦労だ小手川」


「まあ、俺含めて皆だけどな、今回のはチート臭い敵だったし」


「でも。能力に自我を乗っ取られる、ですか…考えたくもないですね」




蛍が恐怖に身を震わせる。




「ま、もしもの時は俺がぶん殴って目覚ましてやるから安心しろって」


「それ何も安心できないですよね?」




零の鋭いツッコミで場が和んだところで部室のドアが開く。


そこには車いすに座った少女がいた。




「げ」


「あ、真白先輩。こんにちは」


「珍しいな、お前が来るなんて」


「そりゃ、そこに滞納者がいるさかい、取立てに来たんや」




そういって真白は小手川を指さす。




「で、グローブはん。約束の10万は持ってきたんやろなぁ?」


「お、オイ待て、一旦落ち着こうじゃないか」




真白は小手川との距離を詰めていく。




「それとも、その籠手(からだ)で支払ってもらってもええんやで?」


「お前最初っからそれが狙いだったろ!!」


「知りへんなぁ?」


「勘弁してくれぇぇぇぇぇぇ!!」




小手川は真白の上を通り抜け、部室を飛び出した。




「逃がしまへんで、グローブはん!」




真白も車いすで出していい速度を超えて小手川を追いかける。




「オイ!お前らが出るのはマズいだろ!!」




真也も慌てて後を追った。


その様子を見て蛍と零は苦笑いを浮かべるのだった。






~シアワセ 完~




(ちなみに代金はItafの資金から支払われました)

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