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第12話:シアワセ③

───。




黒いフードの少女は眼下に広がる惨状を、自分が犯した消えない罪を見下ろす。


衝動に身を委ね、このような事故を起こした。


自分のせいじゃない、そう思っても事実は変わらなかった。




「あたしはもう、あの時から…狂ってしまった」




少女は自分の壊れた過去を思いだしながら、言葉を零した。











この世界を、他人を妬んだのは、少女…『水無月 星奈』が


およそ3年前、中学二年の6月に被災したのが原因だろう。




星奈は元々、汐ノ目の住人ではなかった。


地方の出身だった星奈は、そこそこに有名な陸上部で好成績をあげていた。


勉強も疎かにしていた訳ではなく、クラス順位も常に上位。


一つ上に付き合っている、これまた陸上部の彼氏もいる。


間違いなく順風満帆の人生を歩んでいた。




だが、そんな人生も理不尽な自然災害、記録的な大地震に破壊されてしまった。


ちょうどその日、星奈は彼氏と共にショッピングモールで買い物をしていた。




「せ、先輩!」


「星奈、お前は先に脱出しろ!俺もこの人を連れてすぐに行くから!」




星奈の彼氏は、瓦礫に足をやられた老人を背負いながら、星奈に脱出を促した。




「で、でも…」


「大丈夫だって、すぐに追いついて見せるからさ、俺足には自信あるし、な?」


「うう…分かりましたよ!絶対追いついてくださいね!」


「ああ、わかってる」




星奈は、彼を信じて駆け出した。そして地上に脱出したその数分後、




「…え?」




モールが轟音を響かせて倒壊した。




「ちょっと、君!近づいたら危険だ!」


「だ、だってあの中には先輩が!」


「こ、こら!大人しく避難しなさい!」


「い、いや、いやぁぁぁぁぁぁ!!!」




レスキュー隊員に咎められ、星奈は悲痛の叫びをあげた…。




避難所で一人絶望していた星奈がテレビで見たのは、また絶望だった。


テレビでは、地震による津波で浸水した町が映っていた




「…え、ここって…嘘…」




そしてちょうど映されていたのが星奈の家の周辺だった。




「そんな…」




絶望に黒く染まった彼女の心は、両親の安否を確かめる前に崩壊した。


虚ろな目で避難所の外に出た彼女は、自分の無力さを嘆くしかなかった。




「うっ…うう…」




拳を握りしめ、行き場のない怒りを地面にぶつけるしかなかった。


そして、彼女は世界を呪い、妬んだ。




「…こんな、世界なんて…」




滅びてしまえ、そう思った彼女は、自分の握りこぶしの中に何かが入ってることに気づく。




「…これ…」




そこにあったのは、小さな白丸のシールだった。


そして、そのシールは、彼女の前で黒く澱んでいく。


それと同時に、彼女の頭の中に知らない情報が流れ込んでくる。




「なに…これ…【災害解封(ディザスターシール)】?」




───お前の力だよ。




「誰!?」




幻聴なのだろうか、ハッキリと頭に声が流れ込んでくる




───お前が望んだ力、【災害解封】さ。




「…あなたは…あたしの望み…?」




───言ったじゃないか、『こんな世界、滅びてしまえ』ってさ。




「…なんなのよ、この力…」




───まあ、嫉妬に身を委ねてみなよ。そんときはオレが破壊するからさ。




「……」




この恐ろしい力を拒み切れない自分がいた。他人の『シアワセ』が許せなかった。


こんなことをしても、自分には何の意味もない、そう分かっていても拒めなかった。











そして、星奈は汐ノ目に居る叔父のもとへ疎開することになった。


その目に輝きは無く、ただ自分の力を抑え込むので精一杯だった。




だが、今になって彼女は受け入れてしまった。正確には抑えきれなくなった。


彼女が理性で抑えていた力は、【災害解封】の強大な意思と星奈自身の嫉妬心によって溢れてしまい、身を委ねる結果となってしまった。




「(その結果が今、こうして目の前にある)」




眼下を再度見下ろしながら彼女は雑念の入り混じった顔になる。




「…さて、そろそろ『アレ』を回収しないと…」


「『アレ』っていうのはこのシールのことかな?」


「!?」











明智誠は意を決して数メートル先の少女に声をかけた。


フードを深くかぶった人影がこちらに気づき、驚いた様子を見せる。


対する明智は冷静に状況を分析していた。




(声からして僕らと同じくらいの女性、装備品はウエストポーチくらいか)




「……」


「おや、だんまりかい?君には少しばかり聞きたいことがあるんだけどねぇ」




そこそこの広さがあり、車は殆ど無い駐車場で、2人は対峙する。




「大丈夫さ、抵抗さえしなければ手荒な真似はしないと約束しよう」




そう言いながら明智はフードの少女に近づいた。その時、




「っ!」




少女は明智に突撃してきた。それを明智は軽く受け流す。


それを好機と見た少女は館内への入り口から下に降りようと試みる。が、




「どこへ行くつもりですか?」


「なっ!?」




どこからともなく聞こえる謎の少女の声。フードの少女が顔を上げると店内入り口の建物の上にエプロンドレスに身を包んだ見目麗しい少女が立っていた。


幻想装備(メルヘンアーマー)】の一つ、[幻想]こと『不思議の国のアリス』の姿になった霧乃蛍である。


蛍は素早くフードの少女の前に降り立ち、館内入り口を塞ぐように陣取った。




「逃がしはしませんよ…おいで!スペード小隊!」




蛍がどこからともなく取り出したレイピアを振り上げると、少女を取り囲むように13体の兵隊が現れた。




「今なら手荒な真似はしません、大人しく来てくれますか?」




蛍が再び説得を試みる。が、詰めが甘かった。




「!霧乃君!駄目だ!早く彼女を取り押さえて!」




少女を後ろから見ていた明智は彼女の変化に気づいていた。


その手には既に、一枚のシールが握られていたのだ。




「!そのシールはっ!?みんな!その人を」




だが彼の指示は間に合わなかった。


少女は素早く屈み、地面にそのシールを貼り付けた。その刹那、




ゴォォォォォォ!!




「は、早い!?」


「わ、わわわぁっ!?」




地震、それも震度4はくだらないほどのものだった。


咄嗟に屈んだ明智は耐えることが出来たが、蛍は尻もちをついてしまう。


トランプ兵たちも突然の地震で動くことが出来なかった。




「あっ、ま、待って…」




その隙をついて少女は蛍の横を走って館内に走り去ってしまう。




「くっ、あんなに少ない動作でここまでの揺れをおこすなんてね…」


「クソ、俺もドジッた!チートかよ、あの能力!」




スタンバイしていた小手川も一瞬の隙を突かれたと歯嚙みするように言う。




「とにかく追うぞ!明智、俺を使え!今なら追いつける!」


「え、本気ですか?筋肉痛ひどくなるから嫌なんですけど…」


「アイツを捕まえる方が先だっ!文句は後で聞くから!」


「全く…パワハラですよっ、と」




明智は渋々小手川を身に着ける。


急ぎつつも装着者に無理をさせないように小手川は出力を上げる。




「霧乃君、会長先輩への連絡をよろしく」


「は、はい!」




蛍に指示を出した後、明智の姿は煙のように消えた、ように蛍は認識した。


認識から外れた後にその場から一瞬で離脱すればそのように見えるのだ。




「すごいなぁ…そ、そうだ連絡を…」











(早く…脱出しないと)




まさか自分以外の人、ましてや自分を連行しようとする存在がいるとは彼女は夢にも思ってなかった。


瓦礫が転がっている館内を駆け、出口を目指す。


復旧作業も中断され、警邏は既になかった。




(こんなところで、昔の趣味が役立つなんて…)




昔やっていたパルクールの経験が活き、悪路を駆け抜けて脱出を試みる。が、




「逃がしはしないよ?」


「っ!?」




遥か後ろから声が聞こえたかと思うと、影…明智は壁、天井と連続で跳躍。


人間の範疇を超えた動きで、正体が掴めない少女の前に躍り出た。




「手荒な真似はしたくなかったんだけどね…仕方ないか」




だが、人知を超越した存在を相手取っても少女は冷静だった。


素早く自分のポーチに右手を伸ばす。




「させないよっ」




その少ない予備動作、シールを取り出す瞬間を明智は見逃さず、素早く右手に掴みかかる。シールさえ貼らせなければそれでいいはず、という明智の判断は間違ってはいなかった。


そんな彼の意表を突いたのは、また少女のほうだった。




「マズいッ、明智!!」


「えっ」




小手川は少女がいつの間に左手に持っていたシールが明智を狙っていたことを悟り、


装備を解除して明智の盾になった。




「なっ!」




まさか籠手が外れて盾になるとは思ってなかった少女も驚きを隠せないまま、小手川にシールが貼られた。


そこにハッキリと『地』という文字が書かれているのを明智は見逃さなかった。


ガチガチガチ!と音を鳴らし、小手川が震える。


少女はその一瞬の隙を突き、明智の横を通り抜ける。


だが、その先は床が派手に崩れて下の階がむき出しになっていた。


しかし少女は足を止めず、ついに空中に身を投げ出した。




「な、オイ!死ぬつもりかよ!?許さねぇぞ!!」


「!いえ、あれは!?」




少女は空中に身を投げ出す直前に、足にシールを貼っていた。


そのまま少女は重力に従って加速しながら落ちていく…はずだった。




「…マジかよ」




少女の靴の裏から勢いよく炎が噴出し、彼女の体はゆっくりと一階に降り立ってそのまま出口方面へ消えていった。




「…クソッ、取り逃がした…」


「…とりあえず、容疑者の能力の強大さは判りました、会長先輩たちにも報告しましょう」




といったその時、明智の携帯が鳴った。




「もしもし」


『明智!小手川!無事か!?』




切羽詰まった様子で件の真也が聞いてきた。




「噂をすれば、ですね会長先輩」


『霧乃から連絡があった、容疑者はどうなった?』


「すみません、取り逃がしました。詳細は明日集まった時でもいいですか?」


『ああ、今は身体を休めてくれ、すまないな』


「いえ、それでは」




そう言って、明智は電話を切る。




「…とりあえず帰りましょう」




やるせないような小手川を促し、2人は帰路に就いた。


To be continued…


~設定資料~




・【災害解封(ディザスターシール)】について




『シールに自然・人為的災害を封じ込め、貼った対象にその自然災害を発現させる』能力




本編では地面、屋上、小手川の三種類に『地震』を起こすシールを貼っていましたが、それぞれ対象物の中心、または直下に概念的な震源が来るようになっています。つまりシールを貼った場所が震央になります。


人間じゃない小手川に貼ってもノーダメージですが、人間に貼ると内部に震源ができ、内臓を揺さぶり損傷、運が悪いと死に至る恐ろしい暗器になります。




更にもう一種類、『火事』により勢いよく噴出した炎を封じ込め、逆噴射に利用したり近接武器にもできます。次回も出番あります。


これらの他にも災害はあります。設定だけで終わるかもしれないけど。




副作用として、【災害解封】という能力自身が星奈の絶望、他人への羨望、嫉妬などのあらゆるマイナス面の感情を糧にして自我を形成し力を増す、というものがあります。


星奈の場合は大切な人の連続死によって壊れた心に付け込んでどんどん力を増し、ついにそれが溢れ出して【災害解封】が星奈を乗っ取り事件を起こす結果となりました。






・星奈の過去について




少しぼかしましたが、星奈の彼氏は倒壊に巻き込まれ、家族は津波から逃れられずに死亡しました。その結果星奈は引き取られ、汐ノ目に移住することになりました。




星奈は陸上、特に長距離走が得意で、スタミナは高めな選手でした。


過去では活発少女で、彼氏と一緒にパルクールもやっていました。


一応身体能力やスタミナは過去ほどではありませんが高い方です。

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