ガチャ09 第四階層
ポーションには、階級とレベルが設定されている。Lv1や2の下級ポーションは比較的安価に購入できるわりに、効果は悪くない。Lv1でHPの30%、Lv2で40%を回復する。以降は1レベルごとに10%効果が上がっていき、Lv8の100%で打ち止めとなる。
下級ポーションで100%回復出来るのであれば、中級ポーションは何のために存在するのか?
下級と中級の違いはHPの回復量ではない。中級ポーションにはHPの回復の他に、欠損のバッドステータスを治療する効果が付与されているのだ。
たとえLv1の中級ポーションであっても欠損を治療することが出来るため、レアリティは最低でもR、Lvが上がっていくとSRになる。当然お値段もお高く、Lv1の中級ポーションですら今は手が届かない。
「どうせ同じRなら中級ポーションが欲しかったよ」
銀色の宝箱から下級ポーションLv7(R)を取り出しながら、俺は小さくため息をこぼした。
この宝箱は始まりの坑道第四階層の敵を倒したら出現したものだ。罠の可能性も考えたが男の子として宝箱を開けない選択肢はないので、警戒しながら開けた結果、それが入っていた。
如何にレア度がRと言っても、中級ポーションとの価値の違いは雲泥の差だ。レア度は5段階しかないため、たとえ同じレア度でもある程度の当たりはずれはある。
言うならばこの下級ポーションは、Rーと言ったところか。
「こがな低層で銀箱が出ただけでもご主人は運がいいで。わいのおかげやな」
桃色のもやをまといながら胸を張っているデブ猫。猫背はどうした。
銀箱というのは宝箱のランクのことで、宝箱は中身のレアリティに合わせて外観が異なるらしい。
実際に見たのはこれが初めてなので他のランクがどういう外観なのか具体的には知らないが、その都度猫に確認すればいいか。
「今日はこの辺で休むぞ」
「無視すなー!」
裏拳で突っ込みを入れてきたデブ猫をあしらいつつ、俺はスマホから野営道具一式と簡易結界箱を呼び出した。
この野営道具一式というのはその名の通りで、テントやら寝袋、調理道具などのアウトドア用品だ。一睡もせず、飲まず食わずで何日も戦い続けることなど到底不可能。ショップには食料品なんかもあるし、生きるために必要な物は戦って稼いだお金で買えということなのだろう。
飲み食いは警戒をしながらでも出来るが、眠りながら警戒を続けるというのは無理だ。少なくとも日本人でそんなこと出来るやつはほとんどいない。
そこで必要になるのが簡易結界箱。便利なもので、手乗りサイズの立方体なのだが、表面にあるスイッチを押すと正立方体の結界が発生する。サイズはさほど大きくないが、野営するだけならば十分な広さだ。
この結界は敵性存在を通さず、生命活動に必要な空気なんかには干渉しない仕様になっていて、これを使えば安全に睡眠を取ることが可能なのだ。
ネックはコストパフォーマンスだ。一度の使用で8時間結界は維持されるのだが、使用回数はたった1度きり。要するに使い捨て。これで安ければいいのだが、お値段なんと500d。そりゃあ高すぎるというほどではないが、この階層の坑道狸や狸人から得られる収入で毎日これを購入するといずれ破綻する。
当初はさっさと次の階層に行けば良いと考えていたのだが、この第四階層は今までの階層と比べて尋常じゃなくエンカウント率が低い。そのうえマップも広い。
この階層に来て今日で二日目だが、これまでの戦闘回数はたったの5回。一応レベルは1つ上がったが、時間がかかりすぎる。
これまでの経験上、階層数×2のレベルに達すると次の階層への扉が開かれる。これが今だけなのか今後もそうなのかは知らないが、少なくともチュートリアル中に仕様が変わることはないはずだ。
だから後レベルを1つあげればいいのだが、単純計算で後二日戦わなければいけないことになる。
憂鬱だ。
敵との戦いの危険度が増したこともそうだが、何より丸一日警戒しながら歩き続けるというのは本当に疲れる。
これもこの第四階層のチュートリアルの一巻なんだろうが、生身でこんなことをするのはクソゲーと言わざるを得ない。このゲームの運営は無能だ。早くガチャが引きたい。
俺は手早く食事を済ませ、結界箱を起動して眠りにつく。これで7時間は眠ることが出来る。スマホのアラームもセットしたから問題ない。
寝袋に包まれた俺の意識は急速に落ちていく。
ガチャが引きたい……。
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第四階層からは狸人が複数出てくるようになったが、ろくに連携もしてこないのでそれ自体は大した驚異じゃない。
面倒なのは、敵がスキルを使うようになったことだ。
「ュゥン!」
これまで狸人は、ただがむしゃらに武器を振り回すだけで技術なんてものは到底持っていなかった。むしろ、俺同様武器の重さに引っ張られていたぐらいだ。
ところがこの第四階層の狸人は、ある程度武術をかじった程度の動きを見せる。これは恐らく、剣術Lv1や槍術Lv1のスキルを持っているということだ。とはいえ、いきなり俺が追いつめられるほど技術が向上したわけではないし、神剣の一撃を受けられるほどでもない。
パッシブスキルは今のとこそれほどの脅威ではない。問題は、アクティブスキル。
「ユゥゥゥゥンッ!」
気合いの入った一声と共に、錆びた剣が赤黒い輝きを放ちながら俺に迫る。
上段から放たれたそれは、側面にいた狸人を突き殺した直後で体勢が僅かに崩れているため回避できそうにない。
俺は以前やったように斜めの角度で弾くように盾をぶつけた。
「ぐぅううっ!」
腕が痺れる。弾かれたのは俺の方だった。
押し負けた俺は盾ごと剣を叩き付けられ僅かに後退する。
痺れで左腕が下がり、盾が滑り落ちる。手に力が入らなくて持ち手が開いてしまっていた。腕を上げることも出来そうにない。
会心の一撃というやつだろうか。あるいは、個体差? 確率によるスキルの追加効果の可能性もあるか。
今まで何度かあの剣が光る攻撃を受けてきたが、こんな状態になるのは初めてだ。痛みはそれほどないためHPへのダメージは大きくないと思われるが、悠長にスマホで確認している余裕もないのでそうだと思いこもう。
「ユゥゥンッ!」
さっきとは別の個体が、赤黒く輝く剣を掲げながら迫る。盾を失って消耗している今がチャンス、と考えているわけではないだろうが、ベストなタイミングだ。俺側から見ると最悪というわけだが。
不幸中の幸いだったのは、一撃目で後退したことで僅かに距離があいていたことと、二匹目の敵がかなり早い段階でスキルを発動していたことだ。
アクティブスキルは強力なスキルだが、その動作は大幅に制限される。例えば連中が使っている剣が赤黒く光ってダメージが上昇するスキルも、上段からの振り下ろしに動作が制限されている。
連中が使っているスキルの詳細を知っているわけではないが、これまでに5回も戦っていればある程度スキルの特性は見えてくる。
一撃目は複数の狸人の攻撃をさばいていたこと、また俺の背後に回ろうとしていた狸人を倒すことを優先したために受けることになったが、この状況で律儀に受けてやる必要はない。
バックステップでスキルによる一撃をかわした俺は、青銅槍を投擲する。スキルの発動直後で回避できなかった狸人は、直撃して消滅した。元々ちまちまとダメージは与えていたので、今の一撃で倒せることはわかっていた。
ちなみに、この青銅槍は初期装備なので当然回帰なんかのスキルもついていない。盾と同様に後で回収する必要がある。
一連の攻防はほんの数秒の出来事だったが、その数秒で左手の痺れはなくなっていた。物理的な痺れならもう少し後を引くはずだから、たぶんスキルの効果だったんだろう。
痺れがなくなったはいえ、盾も槍も手元にはない。盾は十分拾える距離だが、その隙をつかれるのは確実だ。
久しぶりに、どこまで神剣を使えるか試してみるか。
今まではわざわざリスクを取る必要もなかったので盾と槍で戦っていたが、さっきの追加効果の存在を知った今となっては今後も盾で受けたいとは思わない。
神剣でさくっと倒せるならそれに越したことはない。
「回帰!」
狸人への威圧も込めて叫ぶと、構えた両手の中に神剣アルティマテリカが現れる。まだ重くは感じるが、持ち上げられないというほどではない。
剣術Lv8の効果を十全に活かすことはまだ出来ないようだが、それでも今までよりは遙かにこの剣の使い方がわかるようになっていた。
戦闘技術の訓練も兼ねて盾と槍で戦っていたのだが、これならもうその必要もなさそうだ。
俺は残る三匹の狸人を、一切の抵抗を許さず斬り伏せた。
初期装備……。そんなものもありましたね




