ガチャ07 第二階層 2/2
敵を探して歩くこと早30分。デブ猫の察知によって先手を取った俺は、第1階層と同じ方法で素早く1匹を始末した後、神剣を放り出してもう1匹の坑道狸と対峙していた。
やることはシンプルだ。坑道狸の攻撃を避けて唐竹をたたき込むか、こちらから突っ込んでいくか。どちらにしろ攻撃を食らう可能性はあるが、それはもう割り切るしかない。道具屋で購入したポーションも顕現化してあるため、傷を負っても治すことは出来るはずだ。
前にも懸念したとおり、坑道狸の攻撃を食らって俺が行動を維持できるかが問題だが、今の俺は日本に居たときの俺とは違う。なにせ俺はレベル2になっている。ステータスからは判別出来ないが、レベルだけで言うのであれば2倍。そう、俺はかつての倍強くなっているのだ。ただの野生動物のような狸に負けるはずがない。
というのはまあ流石に冗談だが、実際レベルアップの恩恵はあるはずなのだから今までの常識を基準に考えるのは一度止めることにした。生き残る為に考えることは大切だが、難しく考えすぎて前に進めなくなっては意味がない。
「うら~!」
ウロウロと動き回りながら俺の様子を伺っている坑道狸。俺の我慢は限界に達した。
雄叫びを上げて坑道狸へと突っ込み、両手を振りかぶる。奇襲をされたわけでもない坑道狸は、当然俺の坑道に対して動きを見せた。神剣を振り下ろすためにしっかりと地面を踏みしめている俺の足に噛みついたのだ。
「あいやー!」
痛い。だが、我慢できないほどじゃない。すでに神剣は回帰している。
坑道狸は俺が噛みつき攻撃をものともせずに神剣を振り下ろそうとしていることに気が付いて口を離した。避けるつもりだったのだろう。しかしその行動は一歩遅かった。振り下ろされた神剣は坑道狸の胴体を真っ二つに叩ききった。
上半身と下半身に分かれた坑道狸が、光の粒子となって消えていく。
「ご主人、噛まれとったけど大丈夫やったん?」
「ああ。血の一滴も出てないぞ」
「ははーん、冷血漢は身体も冷たい鋼で作られてたっちゅーことや。通りで人の心がないわけやな! なはははは!」
「んなわけあるか」
「あいたっ! 警察! 警察呼んでや!」
高笑いするデブ猫をデコピンで黙らせつつ、坑道狸に噛まれた場所をよく観察する。
坑道狸に噛まれた時、たしかに痛みがあった。しかし、あれは軽く殴られたような鈍い痛みのようだった。鋭い牙に強靱な顎を持っている野生生物に噛みつかれた経験はないが、普通肉が裂けて抉れるわけで、程度はもちろんのこと痛みの種類も違うはずだ。
身体を見てみても傷跡はないし、更に言えばジャージすら破れていない。このジャージには防具としての役割でもあったのだろうか?
考え得る可能性としては、服にも防御力があり耐久度が定められている。それから痛覚がカットされているとか。これがゲームなんだとすれば、リアルな痛みを感じて戦えなくなるなんてつまらなすぎるからな。
「バイオレンスなご主人を持つと大変やで……。それはそうと、ポーションは飲まなくてええんか?」
「別に傷を負ったわけでもないしな」
「HPは減ってるやろ?」
「……そう、か」
ゲーム的に考えて、攻撃を受けて無傷なんてことはありえない。なぜ気づかなかった。
スマホでステータスを確認してみると、たしかにHPが減っている。これまでいつみても満タンだったHPが、ほんの少しとは言え減っている。
HPとはなんだ? 普通に考えるなら、生命力のことだ。この値が0になったらゲームオーバー。そこで死ぬ。それがゲームの常識。
だが、本当にそうか? 単に俺の命の残量を表しているだけなのか? 俺はあんな大して痛くもない攻撃を食らい続けたら、いずれ死ぬのか?
いや、違う。発想が逆なんだ。あのちょっと痛いだけの僅かなダメージで死ぬわけじゃない。今、HPが潤沢にあるからこそ、坑道狸の攻撃は痛くなかったんだ。
恐らく、HPはバリアだ。それも常に一定のではなく、数字が大きければ大きいほど痛みや身体的損傷を防いでくれる。もし、HPがほとんどない状態で坑道狸に噛まれたら、凄まじい痛みと共に俺の身体から片足がなくなるのだろう。そうなったら、人は簡単に死ぬ。さっきは大したこともなかった攻撃で、俺は死ぬ。
「親切なシステムだな」
「なんや急に? 何の話や?」
「いや、HPがな。随分優しい仕組みだと思ってさ」
HPによるバリアがなければ、そもそも俺はさっき死んでいたかも知れない。HPがなくなったら死ぬ、なんてことは当たり前の話で、今更そんなことで足が竦んだりはしない。むしろ、もっと早く気が付くべきだったとさえ思う。HPの管理にさえ気をつけていれば、最早坑道狸など敵ではない。
HPを切らせて骨を断つ。
それからは一度として苦戦することなく、俺は次の階層へ移動した。
思い込みが激しいですね