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ガチャ50 黒い巨人VS…

 準備を終えてボス戦へと続く扉をくぐった俺たちを迎えたのは、魔法生物研究所のボスではなく、研究所そのものだった。

 真っ白な長方形の建物で、窓の配置などから全4階の建物であることがわかる。内装もそうだったが、外観も病院さながらだ。


 今までは次の階層への扉をくぐる度に研究所の中を1階ずつ上がっていた。第四階層が最上階であり、ボス戦は屋上で行われるものと考えていたが予想は外れてしまったらしい。俺たちは研究所の外に転移させらえたのだ。

 研究所の周囲は森で囲まれている。恐らく、徘徊の森の中にこの研究所があったのだろう。


「敵がいねえぞ!?」


 キョロキョロとあたりを見回して叫ぶマトゥア。俺にはわからないが、マトゥアは臭いや気配である程度魔物を探知することが出来る。マトゥアがいないというのなら、この近辺にボスはいないのだろう。

 一応、樹精霊や粘性泥獣など、マトゥアの探知に引っかからない例外的な魔物も居るが、これまでのボス戦の仕様を考えると雑魚が潜んでいるとは考えにくい。

 もしかしたら、今回のボスは暗殺を得意とするような、マトゥアでも探知できない可能性もあるか?


 ボス戦である筈なのにボスがいないという異常事態のせいで、思考が迷宮の中をさまよい続ける。

 ただ、そんな無益な時間も長くは続かなかった。


「っなんだ!?」

「離れるぞ!」


 地面の揺れとともに凄まじい轟音が鳴り響き、魔法生物研究上が崩壊し始めた。

 内部の柱が壊されたとか、爆発されたとか、そんな壊れ方じゃない。崩壊の原因は目の前にあり、なぜ俺たちが研究所の外に転移させられたのかようやくわかった。


 その黒い巨人は研究所の中から現れた。まるで、影擬きが凝縮されたみたいに確かな実体を持ち、そのまま巨大化させられたかのようだ。

 事実、その通りなのだろう。研究所は内側から押し破られるように崩壊していった。それは、この黒い巨人が研究所内で巨大化したことを明確に指し示している。


 これが魔法生物研究所のボス。さしずめ、影巨人と言ったところか。大樹猿も大きかったが、それを遙かに上回る巨大さだ。


「…………」


 黒い巨人は雄叫びをあげない。ただ無機質に、自身の敵を発見し、手をゆっくりと振り上げた。


「俺が相手だああああああ!! ディフェンダー! エナジーバリア!」


 あまりのスケールに圧倒されていた俺たちだが、巨人の行動が攻撃の予備動作であることに気がついた瞬間、それぞれ動き出した。

 鈍重に見える動きはその大きさゆえの錯覚である可能性が高い。マトゥアやピーちゃんであれば避けられるかもしれないが、敏捷の低い俺には恐らく無理だ。

 だったら最初からターゲットを固定させて、全力で受け止めた方が良い。そうすればマトゥアやピーちゃんも回避に向ける意識を少なく出来るはず。


「ガードオオオオオオ!」


 振り下ろされた拳がエナジーバリアに接触する瞬間にガードを発動。衝撃とダメージを半減し、ギリギリ巨人の拳を受け止めることに成功する。ただし、エナジーバリアは完全に破壊されており、巨人の拳を受け止めているのは小さな盾だった。


「シールドバッシュ!」


 ミミックに使った時のように、エナジーバリアからシールドバッシュに繋げたかったが、肝心のバリアが壊れているため小さな盾で無理矢理拳をそらすように弾く。体格の差がありすぎて巨人の腕を弾き飛ばして押し返すことは出来なかった。


「治療の奇跡」


 拳を受け止めた際、ガードで半減は出来ていたが、それでもかなりのダメージが入った。端末を確認したわけじゃないから具体的な数字はわからないが、両足が故障するレベルのダメージだ。幸い治療の奇跡で治せる範囲だったが、状況はかなり悪くなった。


 エナジーバリアとガードは一定時間使えなくなった。このままでは二回目の攻撃を防ぐ手段がない。


「死ねおらあああ!」

「チュンチュン!」


 俺が黒い巨人に攻撃されている間、マトゥアたちもボーッとしていたわけではない。

 マトゥアは大緋火扇鷲と暴れ熊の力を使って猛攻撃を仕掛けているし、ピーちゃんもファイアーボールを使った後は突撃を繰り返している。

 だが、どちらも有効打を与えているようには見えない。大樹猿を倒したときのように毒を使うのはどうかとも考えたが、この黒い巨人に毒が効くようには思えない。こいつは明らかに普通の生き物じゃない。


「くそっ……!」


 マトゥアたちの戦闘に数瞬意識が向いていたうちに、もう一本の腕が振り上げられていた。ご丁寧に、今度は拳を握らず、虫を叩き潰す時のように大きく手を広げている。一撃目はこちらにスキルを使わせるための誘いだったのかもしれない。防ぐ手段が無くなったところに、範囲の広い攻撃。合理的でかついやらしい。避けるのは無理だ。


 スキルを二つ使った上であれほどのダメージだった以上、真っ当に受けきることは出来ない。

 俺は自分の盾術を信じて、バックステップと同時に盾を斜め上に構えた。もしも、接触部分が手のひらの中央ではなく指先ならば、方向をそらす位は出来るかも知れない。運が良ければ、指と指の隙間にすっぽり入るかも知れない。可能性は0じゃない。


 凄まじい勢いで近づいてくる平手を凝視しながら覚悟を決める。

 ふと、直撃の寸前に巨人の額へ突撃するピーちゃんの姿が見えた。


 轟音。


 大質量が大地を叩く音がビリビリと鼓膜を振るわせ、大地の揺れが踏ん張りを阻害する。だが痛みはなかった。巻き上げられた土煙で視界は最悪だが、どうやら巨人の攻撃は僅かにそれて空ぶったようだ。


 さきほど、ピーちゃんの突撃の直後に平手の軌道がぶれた気がする。いや、間違いなく軌道は変わっていた。


 思えばおかしな話だった。徘徊の森のボスである大樹猿の攻撃は、ガード込みでそれなりに余裕を持って対応出来るものだった。恐らくガードを使わなくても、俺ならば即死するほどじゃなかったはずだ。


 対して、この黒い巨人の攻撃はどうか? ガードだけではなく、エナジーバリアを駆使した上で、それでも尋常ではないダメージを受けた。もちろんボスとしての格が大樹猿よりも上というのはあるだろうが、それはレベルアップしている俺とて同じこと。大樹猿と戦った時のままというわけではないんだ。


 あまりにも強すぎる。それこそ、なにか仕掛けがなければ攻略出来ないくらいに。


 ピーちゃんのさっきの一撃は良いヒントになった。普通の生物ではない黒い巨人は、別に頭部が弱点というわけではないと思っていた。事実、巨人の元となっているであろう影擬きは頭部が弱点ではなかった。

 にも関わらず、額に攻撃を受けて狙いがそれた。それはつまり、先入観で除外してしまっただけで、黒い巨人にとって頭部は致命的な弱点なのではないだろうか?

 それこそ、人と同じか、それ以上に。もしかしたら、単純な弱点とか、そういうレベルを遙かに越えた、「正解」がそこにあるのかもしれない。


 今考えれば不思議な話だ。ボス戦前にミミックに遭遇したこと。そしてドロップアイテムを入手したこと。全てがこのステージのギミックだったのではないかと思えてくる。


「GAAAAAAAAAAA!!」


 今、俺は敵を認識できていない。土煙に視界を阻まれて全く状況がわからない。だが、それは敵側からも同じはず。聞こえてきた雄叫びが何なのかはわからないが、今は一旦無視する。

 俺は大急ぎで端末を操作して、ミミックから手に入れたアイテム、真実の瞳を顕現化した。眼鏡の形をしたアイテムで、その効果は真実を映す。もしも俺の予想が正しければ、これは巨人を倒す上でとても重要な役割を果たしてくれるはずだ。


 眼鏡をかけ、土煙の中から飛び出す。挑発はまだ効果を発しているはずであり、巨人の追撃が来るものと思っていたが、状況はわけのわからないことになっていた。


 コウモリと猿を融合させたような魔物が空中で何かに腰掛けるように浮いており、その対面には、水面に浮かんでいるかのように力なく四肢を投げ出した少年が空を漂っていた。一瞬マトゥアかと思ったが、シルエットに獣耳がないから違う。細かい部分は遠すぎてよく見えない。


 一体なにが起こったんだ?


 真実の瞳のせいでわけのわからないものを見ているのかと思い、一度眼鏡を外すと、これまた理解しがたい光景が目に映る。


 魔物が浮いていた場所には黒い巨人の頭部があり、少年が漂っていた場所には得体の知れない大怪獣が居る。巨人は無言で、怪獣は雄叫びをあげながらお互いを殴り合っていて、敵対しているようだった。


「GAAAAAAAAA!!」


 さきほど聞こえてきた雄叫びは怪獣のものだったらしい。一体こいつはどこから現れたんだ? まさか2体目のボスか? それともこれがボス戦のギミックか? 巨人は強すぎると思ったが、この怪獣を利用して倒せということか?


 疑問は尽きないが、魔物と怪獣でつぶし合ってくれるなら丁度良い。一度マトゥアとピーちゃんと合流して、作戦を練ろう。


「チュンチュン!」


 今までどこに居たのか、ピーちゃんは探すまでもなく俺のところに戻ってきた。俺が無事だったことに安堵しているようだが、どこか様子がおかしい。まるで焦っているような……。


 まさか、マトゥアがやられたりしてないよな!?


「ピーちゃん、マトゥアは!?」

「チュチュンチューン!!」


 ピーちゃんは必死に鳴きながら翼で怪獣の方を指し示す。

 そんな、まさかマトゥアはあの怪獣に……!


「嘘だ……、マトゥアがそんなあっさり、やられるはず……」

「ヂュン!!」

「いたっ! 何すんだよピーちゃん!」

「ヂュン! ヂュン!」


 いつかの時のようにふざけてではなく、本気で何かを訴えかけるピーちゃん。マトゥアを守れなかった俺を責めているのかと思ったが、違う。ピーちゃんからは否定の意志を感じる。


 マトゥアはあの怪獣にやられたわけじゃない?


「チュンチュン!」


 ピーちゃんに示されて、怪獣のことをもう一度よく見てみる。何度見ても奇妙な怪獣だ。体毛は部位ごとにバラバラだし、形状も普通の獣とは思えないくらいに滅茶苦茶。まるで、様々な獣をつぎはぎして作ったかのような……っ!!


「まさか……、そんなことが……」


 たどり着いた答えが信じられないと、感情が否定する。だが、一度そうだと考えてしまえば、理性はどこまでもそれを肯定する。

 つぎはぎされた獣の身体、怪獣の中の少年、姿の見えないマトゥア。答えは一つしかない。


「あれが、あの怪獣がマトゥアなんだな……?」

「……チュン」


 震える声で尋ねた俺に、ピーちゃんは重々しく頷いた。

強化された能力に暴走はつきものなのです!

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