ガチャ48 大緋火扇鷲
一瞬、痛みがなくなった理由は肩代わりの効果が切れたからなのかと思ったが、どうやらそういうわけではなさそうだ。
マトゥアは炎に包まれている自分の両腕を見つめて不思議そうに見つめてはいるが、熱そうにしている様子はない。火達磨ではあるが、火に焼かれているわけではないのか、それとも火に耐性のある獣の力を使ってるのかもしれない。
「それ、熱くないのか?」
「暖かいんだ。全然熱くねえ」
「チュンチュン!」
髪の毛が炎のように揺らめいているマトゥアの頭の上に乗り、ピーちゃんは感謝しろと言いたげに足踏みしている。マトゥアがそれを鬱陶しそうに払うと、ピーちゃんはチュンチュンと文句を言いながら俺の肩に帰ってきた。
マトゥアが火達磨になったのはピーちゃんの魔法によるものだが、普通の魔法でこんなことになるものなのか?
もしかしたら仲間には効かないのかもしれないと思い、マトゥアの頭の上に手を置こうとしたが、普通に熱かったから引っ込めた。ピーちゃんは火耐性があるから平気なのかもしれないが、なんでマトゥアは平気なんだ。
「あ! なんか見覚えあると思ったけど思い出したぞ! 前に俺が食った大緋火扇鷲の力だこれ!」
「大緋火扇鷲? なんか凄そうな名前だな」
「そりゃあ凄かったぞ。まだ魔王軍の四天王に入る前、新しい力を手に入れるために挑んだ強力な魔獣だからな! 全身が炎に包まれてて、それが一気に大きくなって襲ってくるんだ! しかも飛んで動き回るしな! なんとかボロボロになって勝ったけど、結局力は使えなかったな」
「でも、今回は使えたと……」
これもスキルを強化した影響と言うことか。ただでさえ強力なスキルだというのに、まだ使える力が増えるとは。もしかすると、マトゥアの獣身変化にレア度を付けるならURなのかもしれない。俺はSRスキルを持ってないから断言は出来ないが、RからSRに上がるだけでここまで強力になるとは思えない。
「うおおおおおお! 俺はまだまだ強くなれるってことか!」
「もしかしたら、今までは使えなかった力で他にも使えるようになってるかもしれないな」
ただ、今回大緋火扇鷲の力が使えるようになったのはピーちゃんの火魔法が切っ掛けを作ったように感じる。特別な条件が必要ないのなら、マトゥアが粘液に包まれたあの時に発動していてもおかしくはないはずだ。
っと、マトゥアのインパクトで忘れてたけど、そういえばあの粘液は何だったんだ?
「粘性泥獣、か」
端末を確認すると、粘性泥獣の核という素材が手に入っていた。今までこんな魔物を倒した覚えはないし、十中八九これがさっきの粘液の正体だろう。
随分とご大層な名前だが、わかりやすく言うならスライムということで良いはずだ。あの国民的ゲームでは最弱クラスだというのに、随分と厄介な魔物として登場してくれたな。
「マトゥア、なんであんな状況になってたんだ?」
「この部屋薬品くせえし全然気配もなかったから気づかなかったんだよ!」
「いや、見つけられなかったことを責めてんじゃなくて、あいつはどっから出てきたんだ?」
「上だよ、上! 天井に張り付いてやがったんだ! クソ!」
マトゥアのイライラに連動してるのか、炎が荒ぶっている。近くにいると飛び火しそうで危険なため一歩下がると、マトゥアも炎が派手に動き回っていることに気が付いたのか、全身の炎が消えていきいつものマトゥアに戻った。
「っ……? ほら、これでいいだろ」
「普通にオンオフ出来るのか」
「あったりめーだ! 見てろよ! どんどん新しい力を使えるようになってボコボコにしてやるからな!」
漫画なんかじゃ、新しく覚醒した力には暴走が付き物だ。炎を納められないとか、何かしらデメリットがあるのかもと思ったが、どうやら完全に掌握出来ているようだ。現実とフィクションは違うってことか。
一瞬顔をしかめたのは、俺が一歩下がったからかな。表面上はツンツンしているが、最初に比べれば随分と信頼されてるように思うし、避けられたように思ったのかもしれない。
「つーか、どうすんだよさっきのやつ?」
「ピーちゃんを索敵に回す」
「鳥を? ちっ、たしかにそれが一番か」
「チュン!」
渋々ではあるが納得したマトゥアと、ノリノリで敬礼するピーちゃん。マトゥアとしては、ピーちゃんに活躍の場を与えることが気にくわないようだが、逆にピーちゃんは自分の役割が出来たのが嬉しそうだ。
現状、ピーちゃんは俺のサポート役として戦闘に参加している。ピーちゃんが抜けると俺の負担が重くなるが、しかし絶対に無理というわけじゃない。だとすれば、乱戦の中息を潜めて隠れている粘性泥獣を見つけだすのはピーちゃんが適任だ。ピーちゃんは空を飛べるから天井に張り付かれていても見つけられるだろう。
粘性泥獣が天井にいないという可能性は考える必要がない。あの身体で早く動けるはずはなく、獲物に取り付くためには位置エネルギーが必ず必要になる。
ピーちゃんが天井を見張っていてくれれば俺たちは戦闘に集中できるし、見つけたらファイアボールで倒せることは今回の件でわかった。
それにしても、魔法生物研究所か。これからもまだこんな面白生物みたいな魔物が出てくると思うと気分も下がる。一度ネタが割れれば対策はさほど難しくないが、基本的に初見殺しなのだ。今までは運良く突破できているが、この先新しい魔物がまだ出てくるのなら油断は出来ない。
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その後、結局第三階層で新しい魔物と出会うことはなかった。粘性泥獣に関しては、そもそもピーちゃんが索敵をする必要すらなかった。
「大緋火扇鷲!」
第四階層の戦闘部屋に入った直後、マトゥアは大緋火扇鷲の力を使い全身から炎を噴き出して紅蓮の翼を生やす。
異世界でも生態系の上位に位置し、炎を操る特別な力を持った幻獣。それが大緋火扇鷲らしい。
マトゥアが翼を一振りすると、津波のように炎が襲いかかり、カプセルから出たばかりの影擬きと人工精霊を一撃で燃やし尽くした。そもそも火達磨になっている連中のどれがどれなのかもわからないため、たぶん粘性泥獣も一緒に燃えていることだろう。
消えかけの炎と光の粒子が混ざり合って、美しい風景を作り上げる。そしてそれらの輝きが完全に消失したあと、部屋の中に残されていたのは割れたカプセルの残骸と巨大な扉だった。
「何度見てもとんでもないな」
「どーだミサキ! 凄いだろ! 凄いだろー!」
「うん、凄い凄い」
「チュン……」
パチパチと拍手をしてやると、誇らしげに胸を張るマトゥア。もう何回目かわからないくらいこのやりとりをやっているせいか、褒め言葉も大分適当になっている。いや、最初はもうこれでもかと褒めたけど、こう何回もだと流石にな。
楽しそうなマトゥアとは正反対に、ピーちゃんは落ち込んだ様子で力なく鳴いていた。粘性泥獣を見つけるという役割への意気込みが大きかった分、その役割がそもそも必要なくなってしまったことへのガッカリ感も大きいのだろう。今はそっとしておくことしか出来ない。
「次行くぞ、っ……」
ドアに手をかけながら元気良く喋り始め、尻すぼみに声が小さくなったマトゥア。
「どうしたマトゥア、なんかあったか?」
もしかして、ドアが開かないのかも知れない。粘性泥獣が居る可能性に気が付いて素早く盾を掲げるが、とくに何も居ない。
「なんでもねーよ!」
さっきまでの上機嫌はどこへやら、不機嫌そうにドアを開いて出て行くマトゥア。この一瞬の間にそこまで機嫌が悪くなるようなことがあったろうか?
俺にも少年時代があったとはいえ、育ってきた環境も現在の状況も俺とマトゥアでは違いすぎる。俺にはわからない何かがあったのかもしれないが、俺は仲間として、マトゥアのことをもっと知りたいと思っている。
「チュンチュン!」
「そういうなって」
マトゥアの態度を咎めるピーちゃんを宥めつつ、俺はすぐにマトゥアの後を追った。
単体だと樹精霊よりは強いと思うのです!




