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ガチャ43 暗闇の死闘

 扉を潜った先に広がっていたのは、小綺麗な病院の中みたいな場所だった。受付カウンターや待合い席はないから完全に病院というわけではないみたいだが、だだっぴろい玄関口に真っ白な内装という部分が病院のようだという印象を抱かせた。

 端末で確認してみると、ここは魔法生物研究所というフロアらしい。なるほど、研究所か。実際に入って見たことはないが、名前の響きと建物の内装はそうミスマッチでもなく、ある種の納得があった。


 ざっと見回した感じでは、左右と正面に通路があるのと、二階に通じる階段が目に入る。魔物の姿はなく、マトゥアがとくに反応を見せないことから周辺には実際にいないのだと思う。


「お~! すっげえ!」


 天井を見上げてキラキラと目を輝かせるマトゥア。元いた世界がどれほどの文明レベルだったのかはマトゥアも知らないらしいが、本人は基本的に森の中で生きていたため、こういう俺の世界に似た近代的な建造物を目にしたことはなかったのだろう。


「興奮するのはわかるけど、警戒も頼むぞ~」

「わかってるって!」


 力強く答えるマトゥアだが、視線をあちこちにさまよわせているので全く説得力がない。一応、俺も普段より警戒するようにしておいた方が良さそうだ。


「ピーちゃん、もしも敵を見つけたら鳴いてくれ」

「チュン!」


 雀特有の鳴き声で答えつつ、敬礼するように片翼をあげたピーちゃんはバタバタと羽ばたき始めた。飛びながら警戒するのかと思ったが、どうやら方向転換したかったらしい。後ろ向きに俺の肩の上に乗り直したのだ。

 雀に人間の言葉が理解できるのかという不安もあったが、この動作を見るに完全に理解しているように思える。というか、理解するだけでなくそれをポーズで示し、なおかつ詳しい指示をされるまでもなく後方警戒を始めるとか、少々賢すぎないか? ガチャで出てくるだけはあるということか。


 ひとまず右側の通路に向かって歩き出してから、数分もしないうちにいくつもの扉が並んでいる場所を見つけた。扉は通路の壁に取り付けられている。病室や教室のようなイメージと言えば良いだろうか。

 このフロアは魔法生物研究所だから、おそらくこの扉の先は研究室なのだと思う。魔法生物研究所の研究室なら、当然研究されている魔法生物がいるはず。


「たぶん、このドアを開けたら魔物が出てくるぞ」

「ほんとか!? なんでわかったんだ? 魔物の気配はしないぞ?」

「セオリーなんだよ」


 横にスライドするタイプのドアだったので、マトゥアが身体ごとドアを引き、俺が正面で敵の攻撃に備えることにした。しかしいざ開けてみると中に敵の姿はなく、真っ暗で中身が何も見えない大きなカプセルのようなものが三つ並んでいた。

 ドアを開けても敵が出てこなかった為、マトゥアがジト目で俺を見ているが、絶対とは言ってない。それに、こういうパターンも想定はしていた。


「うわー嫌な予感しかしないわ」


 十中八九あの中身が魔法生物とやらだろう。部屋の中に踏み入ると出てくるのだろうか?

 外から見た限りだと、広さは研究室という割に広い。机や椅子なんかはなく、機材もカプセルとそれに繋がっているゴチャゴチャした機械以外見あたらない。どう見ても戦うために用意された空間だ。


「入るぞ。マトゥアは一旦外で待機しててくれ」


 ある程度広いとは言っても、やはり室内では動きが制限されてしまう。魔物が出てきたら通路に逃げて、広い場所で戦った方が都合がいい。そうすると、最初から二人で部屋に入るのはお互いの邪魔でしかない。だからまずは俺だけで入る。マトゥアは嫌がったが、ピーちゃんも無理矢理預けた。どうせ逃げるなら最初から外に居た方が良い。


 部屋の中をキョロキョロと見渡しながら、じりじりと少しずつ中に入っていく。ゴキブリが逃げ込んだ部屋に踏み入ろうとする時のような気分だ。あいつらってなんであんなに生理的嫌悪感を感じるんだろうね。

 少しずつ進んでいた俺が、完全に部屋の中に踏み入った瞬間目にも留まらぬ速さで部屋のドアが閉まった。本当に反応する猶予なんてこれっぽっちもなかった。強く叩きつけられたような音に一瞬ビクリと身体が硬直するが、続けて聞こえた派手にガラスの割れる音で我に返る。


「そういう感じだ」


 後ろ手にドアが開かないか試してみるがびくともしない。冷や汗が頬を伝う。

 戦闘部屋が完全に隔離されるタイプのフロアだったということか。二人一緒に入れば二人とも入れたのか、それとも最初から絶対に分断される部屋だったのか、試してみないとわからないな。次は二人と一匹で一緒に入ってみることにしよう。

 もっとも、ここを生き延びなければ次はないわけだが。


「……」


 粉砕されたカプセルの中から、真っ黒い人型の影のような魔物がのそりのそりとゾンビのような鈍重さで現れた。数は全部で九体。カプセル一つにつき三体入っていたわけだ。

 数は驚異だが、たしかにこの遅さじゃ部屋を隔離しないと遠距離でちまちま削るだけで勝ててしまう。真っ当な戦いになるようなフィールドを用意したわけだ。管理者はどっちの味方なんだか。


「撃滅の奇跡・一刀」


 上半身と下半身を両断するように、光刃を横薙に振り切った。近づかれる前に一掃出来ればよかったのだが、消滅した魔物は0。とうとう雑魚敵でも一撃で倒せなくなってきたか。


「ディフェンダー」


 この数を相手にガードはまともに使えると思わない方が良さそうだ。そもそも連中の手札も全くわかっていない状況で、どう動くべきか……。


「……っ!」


 敵の動きが鈍いのは幸いだ、なんて甘く見ていたが一つ気がついた。こいつら、ひとかたまりにならないで横一杯に広がり、俺が逃げる隙間をなくしている。

 部屋の中を逃げ回りながら戦うことも考えていたが、それは出来そうもない。網で追い立てられる魚のように、すでに俺は完全に包囲されており、その包囲網も少しずつ縮まり始めている。

 こいつらは鈍いが馬鹿じゃない。


 だが、敵がひとかたまりになっていないというのは不利なばかりじゃあない。それはつまり、同時に襲われる数が減るということだから。まずは一番端っこの影を最優先で倒して、包囲網を崩す。


 左手に構えた盾で隣の影を警戒しつつ、素早く踏み込んで左腕を切り飛ばす。撃滅の奇跡が思っていたよりも効いていたのか、HPのバリアによる抵抗は少しもなかった。

 手応えに違和感を感じながら、考えるのは後だと素早くバックステップをしようとして、間に合わなかった。俺が回避するよりも速く、目の前の腕を切り飛ばした影が一瞬ぶるりと震えたかと思うと、盛大に爆発して黒い靄をまき散らした。


「うおっ!?」


 自爆したのか!?

 痛みや衝撃はないが、後ずさりながら一瞬目を閉じてしまった。急いで目を開けて周囲を確認しようとしたが真っ暗でなにも見えない。なんだ? こいつらは自爆すると部屋を暗くする能力があるのか?


 こう暗くては相手の位置がわからない。だがそれは相手も同じはず、と思いたいがおそらく違う。あの魔物はどう見ても暗闇との親和性が高そうだった。この暗闇の中でも間違いなく俺の位置を把握しているはずだ。

 そもそも相手の使った自爆で部屋が暗くなったのだから、相手も自分と同じ条件になると考えるのは甘すぎる。


 俺には見えないが敵には見えている。その前提で戦わなければいけない。

 

「くっ! くそ! このぉ!」


 一応盾を構えて剣を振り回してはいるが、背後や側面からも攻撃を食らって衝撃を感じるし、剣には切った手応えが全然ない。今、やつらが何体残っているのか、俺のHPはどれくらいあるのか、何もわからない。

 端末を確認できればいいが、こうも囲まれていては剣と盾を手放すことなど出来ない。


 まずい、まずいまずいまずい!


 少しずつ痛みが強くなってきた。HPが減ってきている。このままでじゃじり貧で負ける! 死ぬ!?


「治療の奇跡ぃぃ!!」


 必死にスキルを発動すると、これまで感じていた痛みが引いていき、攻撃を受けて感じる痛みも小さくなった。

 HPに余裕ができたことを自覚して少しだけ頭が冷えた。自棄になったら駄目だ。見えていなくても、相手の習性を理解すれば戦えるはずだ。


 真っ暗闇の中で断続的に痛みを与えられ続けるという状況が、俺をパニックに陥らせていた。よく考えろ。痛みは魔物からの貴重な情報だ。痛みが与えられた場所には、魔物が居るということなのだから。


 攻撃を受けた方向に素早く盾を構え直して勢いよく走り出す。影の動きは鈍いから、攻撃した直後はまだその場所に必ずいるはずだ。

 多少広いとはいえ室内で走れば当然あっという間に壁にぶち当たるわけで、数秒とかからず壁と激突した俺は、手に伝わる僅かな感触からそこに影がいることを確信した。


「ガード、シールドバッシュ!」


 壁と盾の間で挟まれていた影は、シールドバッシュの衝撃で消滅してしまったのか、妙な手応えはなくなった。

 剣で切ったときはその感触があまりにも軽すぎてほとんど何も感じながったが、接触面が増えればさすがにわかる。たしかに連中は影のように薄っぺらい存在のようだが、それでも実体はあるんだ。


「おらあ! かかってこいやぁ!」


 俺は素早く反転して背を壁につけ、影を挑発した。最初は一人の戦いだから必要ないと思っていたが、どうにも連中は多少とはいえ考える頭があるらしいため、茹で蛸にして小賢しいことを考えられないようにしてやろう。

 背面を壁で守っていることも相まってか目論見は成功し、正面に構えた盾がガンガンと何度も殴られる。


「おらぁ!」


 声を張り上げて自分を鼓舞し、一度盾を全力で押し出してから剣を振り回す。相変わらず剣ではほとんど手応えを感じないが、確実に減らせているはずだ。その証拠に、受ける痛みの数は最初よりも明らかに少なくなっている。


 そしてどれほど戦っていただろうか。いつしか盾を叩く音は一つになり、その音も俺が剣を振るうとなくなっていた。


「はぁ……はぁ……」


 やっと終わった。危なかったが、ちゃんと勝てた。


 安心と疲労で立っていられなくなり、壁にもたれかかったままずるずると崩れ落ちた。部屋が暗いせいか、急に眠気に襲われ、意識が朦朧とする。

 緊張の糸が切れた、か……


「……! ……!」


 姿は見えないが、誰かの声が聞こえた。最近よく聞いているような、ああ、マトゥアの声だ。こんな暗闇の中でも俺のことを認識できるなんて、本当に凄いやつだ。


「……!」


 何かを言っているのはわかるけど、その意味が頭の中に入ってこない。もう意識を保っていられない。


 俺は最後の力を振り絞って、心配そうな声をあげているマトゥアに、今回の失敗を謝罪した。


「す……まん……」

状態異常への対策も重要なのですよ!

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