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ガチャ40 頬の傷

最近急にアクセスが伸びてて不思議でしたが、どうやらランキングに乗れていたようです。

応援してくれる皆様のお陰ですね。

本当にありがとうございます。

今後も頑張っていきたいと思いますので、よろしくお願い致します。

 木々を蹴りつけて跳弾する弾丸のように進むマトゥア。マトゥアが大樹猿に追いついたのは、追跡を初めてから1分弱経過したころだった。

 すでに大樹猿の身体から麻痺の状態異常は消えていたが、単純なスピードだけならマトゥアの方が速い。

 大樹猿は高速で近づいてくるマトゥアの存在に気づいていたが、まるで気にしていなかった。それはマトゥアが自分に対して致命的な決定打を有していないと考えているからだ。

 石と呼ぶにはあまりにも大きい、小さめの岩といえるほどの石を掴んだ大樹猿は、それを三咲が居る方向に向けて投げつける。近づけばまた痛烈な攻撃をされるかもしれないと考え、遠距離攻撃に切り替えたのだ。


 この大樹猿は、スキルの数は少ないしその効果も大したものではないが、頭が良い。まるで人間のように思考し行動するため、行動パターンを読んで攻略することなど到底出来ない。

 プレイヤーを圧倒する身体能力と人間並みの知能持つ魔物。それが第十階層ボス、大樹猿。

 プレイヤーには開示されていない情報だが、魔法に弱いという弱点を持っているため、編成次第では簡単に討つこともできる。しかしマトゥアと三咲にとってはとにかく相性の悪い魔物だった。


「この猿! 俺を無視するなぁ!」


 生き残って戦闘を継続することを考えるなら、むしろ自分が狙われない方が良いに決まっているが、眼中にないほどナメられているということと、暫定的であるとはいえ主人を攻撃されているということがマトゥアの神経を逆撫でした。


「赤毒外鰯!」


 マトゥアは投石を終えた直後の大樹猿に向かって跳躍し、獣身変化を切り替えて爪の先に毒液を分泌する。そのまま、戦闘が始まった時と同じようにすれ違いざまに爪を突き立てる。

 今度は火花が飛び散って弾かれるようなこともなく、鋭い爪は深々と大樹猿の左腕に突き刺さったが、それはマトゥアの想定よりも深く食い込んでいた。大樹猿が腕に力を入れたことで、爪が抜けなくなってしまったのだ。


「やばっ――」


 大樹猿は笑うことなく羽虫を潰すようにマトゥアごと腕を叩いたが、マトゥアは無傷。実際にはダメージを受けているが、それは全て三咲が肩代わりしているため、マトゥアへのダメージは0。


 叩かれた衝撃で筋肉による拘束から逃れたマトゥアは、相変わらず凄い魔法だと関心しつつ、次の手をどうするか考え、即座に判断した。


 毒というものは与えれば与えるほどその身体を蝕んでいく。三咲からは一撃入れたら戻ってくるようにと言われていたが、自分の有用性を示すためにマトゥアは戦闘の継続を選択した。


 たぶんまだ、さんびゃくびょうは経ってないと考えて。


「矢兎! 赤毒外鰯!」


 ちょこまかと大樹猿の周囲を跳び回り、ちまちまと攻撃を加えていくマトゥア。二回目以降は深く突き立てすぎるというミスもなく、順調に傷の数を増やしていたが、順調過ぎたせいか自分に迫る巨大な手のひらの存在に気がつくのが一歩遅れてしまった。


 叩き潰したはずの小さな人間がまだ生きており、しかも小さいとはいえ自分の身体に多くの傷をつけている。それでもしばらくは三咲への攻撃を優先していた大樹猿だったが、とうとう攻撃の対象をマトゥアに切り替えた。

 マトゥアはヘイトを稼ぎすぎた。そして、自分は無敵だという認識が無意識的にマトゥアの警戒を甘くした。だから気がつかなかった。


 さらにマトゥアにとって運が悪かったのは、肩代わりの300秒がちょうど終わるところだったいうことだ。大樹猿の手がマトゥアに直撃する時、そのダメージは直接マトゥアの身に降りかかることになる。マトゥアのHPではその攻撃を受けきれず、挽き肉のようにすりつぶされて終わってしまう。


 運に見放され、己の油断によって窮地に陥ったマトゥアだが、それでもマトゥアの死に場所はここではなかった。


「ちまちま石っころ投げてきてんじゃねえぞエテ公があああ! 痛くも痒くもねえんだよ雑魚があああ!」


 森中に響きわたっているのではないかと思えるほどの怒声。その声が響いた瞬間、大樹猿の手はピタリと止まり、その目に怒りの炎が灯された。

 それまではサンダーボルトを恐れて遠距離攻撃に徹していた大樹猿が、何かに追い立てられるように走り出した。


 目まぐるしくかわる状況に一瞬呆けてしまったマトゥアだったが、それが三咲の挑発というスキルであり、それに釣られて大樹猿が三咲のところへ向かったことに気がついて急いで走り出した。






 細かく動き回って常に自分の体が巨木に隠れるように意識する。どうやってこちらの位置を掴んでいるのかは知らないが、どうにも大樹猿は俺の居る場所をかなり正確に把握しているらしい。

 メキメキと太い樹に石がめり込む音が何度となく聞こえ、時に木々の隙間をすり抜けて俺の盾にぶつかると耳鳴りのような高音が響く。

 回避行動を取りながら隙を見てマナポーションを飲み干す。まだある程度MPは残っているが、大樹猿が戻ってきたら使う暇はない。


 この戦闘で肩代わりを使ってからたった一度だけだったが、とんでもないダメージが俺を襲った。それだけマトゥアにとってやばい状況だったんだ。それを防げたのは本当によかった。

 よかったんだが、真面目に死ぬかと思った。肩代わりが切れたら即座に挑発を使えるよう端末を確認しつつ、樹に隠れたりガードしたりしていたのだが、ダメージが入った瞬間俺のHPが残り5%くらいまで減った。

 スマホと一緒に持っていたポーションを即座に飲み干してことなきを得たが、欠損判定が入ってたらどうしようもなかったな。


 おっと、肩代わりが切れた。


「ちまちま石っころ投げてきてんじゃねえぞエテ公があああ! 痛くも痒くもねえんだよ雑魚があああ!」


 挑発を使ったら投石が止んだ。マトゥアのHPが減った様子もない。一度引っかかってるからまさかここまで効果があるとは思ってなかったが、どうやら大樹猿はぶち切れて再びここに戻ってこようとしているらしい。


 スマホをしまって腰にさげておいた剣を掴む。

 ここからが大詰めだ。マトゥアの毒が効いていることを信じよう。

 スキルのクールタイムは肩代わりと挑発以外全部終わってる。肩代わりにしたってもう終わる。さあ、仕切直しだ。


「グガアアアアーー!!」


 森の中からいきなり飛び出してきた大樹猿が、興奮状態で迫る。だが、どこから来るかは木々のしなる音でわかっていた。


「ガード!」


 振り下ろされた拳に対して、一歩前に出てガードを発動させる。目眩ましが目的なら、最初から地面を叩く為に俺の手前を狙っているはずだ。だからその攻撃に、あえて自分から合わせに行く。


「シールドバッシュ!」


 上からの拳を受け止めるのは凄まじい衝撃だったが、ガード込みで来るとわかっていれば全然耐えられる。腕とか超痛いけどな!

 間髪入れずに発動したシールドバッシュで大樹猿の腕を押し返す。まさか目眩ましが不発でその上押し返されるなんて思ってもいなかった大樹猿は大きく体を仰け反らして体勢を崩した。


 チャンスだ!


「マトゥア! ここを踏んで急所だ!」


 大樹猿に追従するように森から現れたマトゥアにそれだけ告げると、マトゥアは俺の意図をしっかりと理解したようで、矢兎を維持したまま大樹猿の後ろから股下を潜り抜け、俺が正面に構えてる盾を思い切り蹴りつけた。


「撃槍犀!!」


 一瞬の切り替え。俺を蹴ることで突進の方向を180°変更させたマトゥアは、その勢いのまま鋭く長い槍を大樹猿の急所、すなわち男性器に突きつけた。

 一瞬、ガリガリと堅いなにかを削るような音がして火花が飛び散ったが、抵抗は一瞬で終わり、大樹猿急所は貫かれた。


「ギギャアアアアアーー!! ガアアアアアーー!!」


 っ! まずい!


「肩代わり!」


 この世の終わりのような声をあげて暴れ回る大樹猿に、離脱が遅れたマトゥアが吹き飛ばされる。だが見たところマトゥアに怪我はない。


「ゴハッ!」


 代わりに俺が盛大に血を吐くほどのダメージを受けたが、大丈夫。凄い痛いし苦しいけど、死んでなければどうにでもなる。


「再生の、奇跡」


 痛みが消えて身体に力が漲る。勝てる。俺たちは勝てる!


「撃滅の奇跡・一刀!」


 大樹猿が動き回るせいで狙いを付けられないため、範囲攻撃で無理矢理当てる。

 放たれた光の刃は大樹猿右足と右腕を切断したが、それでも絶命には至らない。しかし大樹猿は大分大人しくなった。動き回るほどの元気がないのだろう。


 なんとなくわかる。次で終わりだ。


「マトゥア、頼めるか?」

「わ、わかった……」


 ……なんだ? いつも生意気なくらい元気、というか実際生意気なんだが、今のマトゥアの返事は妙に歯切れが悪い。何かあったのか?


 気になるが、それは戦いが終わったら考えよう。今はとにかく、確実に勝つまで気が抜けない。


「暴れ熊」


 攻撃を受ける可能性の低い右側からマトゥアが急所に暴れ熊をたたき込むと、それが最後の一撃となり大樹猿は徐々に光の粒子となっていく。


 やっと、終わったか……。最後は、思ったよりあっさりだったな。

 気を抜いて頬の汗を拭うと、滲んだ赤色が手に付いた。いつのまにか怪我をしてたみたいだ。


「なあ、おまえさ、その……」


 消えていく大樹猿を背に、振り返ったマトゥアはばつが悪そうに頬を掻く。何か言いたいことがあったのだと思うが、その人間離れした容姿と相まったまるで幻想を描いた絵画のような光景を見て、俺は一瞬言葉を失っていた。見入ってしまっていたのだ。


「おい、聞いてんのか?」

「あ、ああ聞いてるよ。どうしたんだ?」

「……別に、なんでもねえよ!」


 さっきまでの大人しさはどこへやら、急に怒鳴り声をあげたマトゥアは、なにやら不貞腐れた様子で大樹猿の死骸に向き直った。


 ……どうも、選択肢を間違えてしまったみたいだ。

獣の爪はするどいのです!

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