ガチャ37 胃袋を掴む
徘徊の森第三階層。この階層から新たに出現するようになった木精霊という魔物には、今までの戦い方が通用しなかった。
なぜかというと、単純にマトゥアの感覚でこの木精霊を捉えることが出来ないのだ。
木や草で構成された身体は森の匂いと同一で、嗅覚では気づけない。さらに普段はほとんど動かずその辺の植物に紛れているため視覚や聴覚、気配で見つけるのも難しい。
本当に気が付いたらそこに居たという感じで事故のように戦闘が始まるのだ。
「――――」
「ディフェンダー!」
遭遇と同時にほとんど聞き取れないかすれたような声で詠唱する木精霊。その詠唱が聞こえて初めて俺とマトゥアは魔物がいることに気が付いた。
木精霊から鋭く尖った枝が高速でいくつも射出され、俺の盾をガリガリと削る。お金に余裕が出来てきたから大きめの鉄盾に買い換えたというのに、あっという間に傷だらけだ。
木精霊の使う魔法、ニードルブランチは当たり判定が複数に分かれており、ガードを使っても半減できるのは最初の一撃だけだ。対してディフェンダーならば、ダメージをカットすることは出来ないが、根本的な防御力を引き上げて総合的なダメージを抑えられる。
最初の時はいきなりのことで反応できず枝が刺さったりもしたが、こいつとの戦いにも慣れてきたおかげで対応の仕方はわかってる。
「暴れ熊!」
俺が攻撃を受けている間に木精霊に接近していたマトゥアの右腕が、小さな身体に不釣り合いなくらい大きな熊の腕に変化し、思い切り振り抜かれる。
今まで戦ってみた感じ、この木精霊には斬撃が通りづらい。物理攻撃に限るなら、大きな質量でふっとばしてバラバラにしてやるのが一番いい。
「撃滅の奇跡」
「――――」
戦闘が始まったのにつられてその場に潜んでいた他の木精霊が動き出す。だが、その魔法が発動するよりも速く光が撃ち抜いた。
物理攻撃の効果はいまいちだが、相変わらず撃滅の奇跡は素晴らしい威力だ。元々は治療メインで奇跡系統のスキルを取っていたのに、すっかり攻撃にばかり使っている。まあ、治療スキルを使う機会が少ないのは良いことだ。
「こっちだノロマ!」
「――――」
木精霊がこちらの言語を理解しているかはわからないが、挑発のスキルを使うときは言葉でも煽るようにしている。気分的な面での理由もあるが、メインはマトゥアに挑発を使ったということを伝えるためだ。絶対にマトゥアが狙われなくなるというわけではないが、多少は動き安さも違うだろう。
木精霊の詠唱が終わるのと同時に地面から植物の根っこが飛び出てきて俺を縛り付ける。一定時間が経過するといきなり脆くなるが、食らった直後にこの根っこを引きちぎるのは今の俺には出来ない。
「暴れ熊!」
俺が木精霊の攻撃を引きつけている間に、一度腕を元に戻したマトゥアが木精霊に接近して再度腕を変化させて殴りつけた。元の世界からの技術だからなのかわからないが、マトゥアの獣身変化にはクールタイムがない。あの強力克つ多彩なスキルを連発出来るというのは羨ましい限りだ。
魔法の使用者がいなくなったことで根っこは拘束力を失い自然とほどけていく。俺は武器を納めてから軽く身体を払った。
「お疲れ。よく頑張ったな」
「言われたとおりやったぞ! 早く食い物よこせ!」
「待て待て、そう焦るなって」
頭を撫でようとしたら素早く払いのけられて飯を要求された。こうなるようにし向けたのは俺だが、なんだか動物を餌付けしているみたいで罪悪感というか、なんとも言えない気持ちになる。
ことの発端は、この階層で今までの戦い方が通用しなくなったことだった。
まず敏捷の低い俺が出会い頭に拘束され身動きが取れなくなり、続けてニードルブランチで滅多刺しにされた。この時点でかなりやばかったのだが、撃滅の奇跡・一刀と再生の奇跡を使うことでなんとか戦線復帰。
急いでマトゥアに加勢しようとすると、マトゥアも拘束されてボロボロにされそうになっているところだった。
あの時は本当に危なかった。連携もクソもなくなんとか死ぬ気で戦ってことなきを得たが、一歩間違えれば終わっていた。
今までがうまくいきすぎていたのが良くなかった。それから何だかんだ言って俺がマトゥアをなるべく戦いに組み込みたくないと思っていたのも原因だろう。
事前に緊急時の対処法や連携をしっかり話し合って決めておけば、マトゥアが一人飛び出て集中砲火を浴びるようなこともなかった。マトゥアが戦うということを認めていたのに、マトゥアを組み込んだ戦術を組み立てなかった俺のミスだ。
子供を戦わせるなんてとんでもないという思いはあるが、今は自分のちっぽけなこだわりは捨てなければならない。
ようやく覚悟を決めた俺は、マトゥアと話し合って色々と戦い方を考えた。
しかし、いざ実戦になった時にマトゥアはまるで作戦通りに動こうとしなかった。第一階層、第二階層では大人しく言うことを聞いていたというのに、なぜいきなり反抗期に突入したのか。
理由は不明だが、作戦通りに動かないと俺はもちろんマトゥアも危ない。
そこで、作戦通りに戦えたらその都度ご褒美をやることにした。どうやらスマホのショップには、デフォルトで売っているもの以外に元の世界で自分が使ったことがあるもの、食べたことがあるものなんかが売っているらしい。
野生暮らしの長かったマトゥアのショップはデフォルトの物以外非常に質素な感じで、自分で美味しいものの買い食が出来ないのだ。
効果は抜群だった。生意気なのは変わらないが、ちゃんと作戦通り戦ってくれるようになったからよしとした。
「ほら、労働の対価だ」
購入したのはコンビニで売ってる焼きそばパンだ。あんまり高い物を頻繁に買ってるとすぐにお金がなくなるし俺の装備も買えないから、基本はお菓子とかパンとかの安いものをご褒美として与えている。
命をかけた労働の対価がそんな安物だったら俺なら怒るが、まあそもそも別に雇用してるわけじゃない。労働の対価というのは言葉のあやってやつだ。
「お~! なんだこれ!? 細長いのが挟まってるぞ!?」
「挟まってるのが焼きそばって食べ物で……、まあとりあえず食べてみなよ」
キラキラと目を輝かせて様々な角度から焼きそばパンを眺めるマトゥア。知らない食べ物を与えた時はいつもこんな感じで、本当に食べるのが好きなんだなと微笑ましくなる。
コンビニパンは何度か買っているため、危なげなく包装を破るマトゥア。最初はどうやってあけるのかわからず中身をぶちまけそうになっていたが、すっかり慣れたものだ。
「うまい! ずるいぞ! おまえの世界はうまいものばっかりだ!」
「そんなこと言われてもな……」
「もうなくなった! 次のをくれ!」
「今回の分はおしまいだい。もうすぐ昼ご飯だし、もう少し我慢しな」
「ぐうぅぅ~! リベンジだ! 俺が買ったらよこせ!」
「リベンジしたらご飯作らないって言ったよね」
「ず、ずるいぞ! あんな美味いものの味を覚えさせてからそんな要求をするなんて!」
「ずるくて結構」
「うがあああー! わかったよ! 言うこと聞けばいいんだろ!」
地団駄を踏んで悔しがるマトゥア。それでも美味しいご飯の誘惑にはあらがえないようで、不満そうにしながらも大人しくなった。
実は飯を作ってやって以来、マトゥアは毎日のように俺にリベンジマッチを挑むようになっていた。なんだかんだでちゃんと毎日ご飯は作っているというのに、なんなんだろうか。
なるべくマトゥアの意志は尊重してあげたいところだったが、さすがにああも連日戦いを挑まれると参ってしまう。マトゥアも本気じゃないのはわかるけど、俺だってなるべく傷つけないように戦わなければいけないのだ。
そこで、逆にこれ以上リベンジしてきたらもうご飯は作らないと宣言してみたのだが、これが思った以上に効いた。
最初は、ほどこしを受けるつもりなんてない! と反発したマトゥアだったが、実際に作らなかったら僅か1日で挑んでこなくなった。
胃袋を掴むって言うのはいつの時代どこの世界でも強いんだな。
コンビニパンで懐柔とは、ケチなプレイヤーさんなのですよ。




