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ガチャ36 下剋上

 第二階層は正直何が変化したのかわからなかった。出てくる魔物は変わらないし、その樹猿の行動パターンにも変化がない。同時に遭遇する数だって相変わらず1~3匹だし、本当に第一階層となにも変わっていないように思える。


「あそこと、あっちにいる」

「撃滅の奇跡・一刀」


 魔物に変化が見られないのに対して、俺の方は大きな変化があった。これまでことあるごとに使っていた撃滅の奇跡がLv2になったのだ。これにより、撃ち出されるビームの持続時間が長い奇跡を使えるようになった。


 今までは一瞬で撃ち出されてしまっていたため、発射の瞬間僅かに動かすことで疑似的な斬撃として扱っていた。手元の振れ幅は小さくても、距離が増すごとに幅は大きくなっていくから、遠距離の相手には十分使える技術だった。

 対して新たに習得した一刀は、近距離でも十分斬撃として機能する。むしろ、持続時間の代わりに飛距離が減っているので、近~中距離用の技だといえる。


 2匹の樹猿はそれなりに離れて別々の樹の上にいたが、一刀ならまとめてなぎ払える。

 ハッキリ言って余裕だった。俺のやってることは他の構成でも十分替えが聞くだろうが、マトゥアの能力がこの階層と相性良すぎるんだ。

 たぶん変化があるとしたらあの猿たちの隠密性とかなんじゃないかと思うが、マトゥアは第一階層と一切変わりなく樹猿を探知するから、どれほどの変化があったのかわからない。


 子供だから大人が守る、なんて言った手前恥ずかしい限りだ。


「おまえのその光る奴、強いな」

「ん? ああ、撃滅の奇跡か? たしかに、強いけど消耗が激しいんだよな」

「連発は出来ないのか?」

「難しいな」


 マナポを飲めばいくらでも使えるが、戦闘中にマナポを取り出して飲むという動作が出来るかどうかという問題がある。連発できる前提で戦いを組み立てるのはよくない。


「ふーん、そっかそっか」

「なんだ、急に?」


 目を細めて俺を観察しながらジリジリと距離を詰め始めるマトゥア。ピリピリとひりつくような気配。ろくなことにならなそうだ。

 おろしていた盾を構えて、マトゥアに向ける。


「リベンジだぁ!」

「やっぱりそうきたか!」


 俺が構えた盾を蹴りつけて近くの樹に飛びつくマトゥア。そこからはセーフティエリアの時と同じように、樹を蹴って駆け回る。違いはその三次元的な動きの複雑さだ。狭い部屋の中ではどうしても行動が制限される。しかし屋外ならば行動パターンは無限に広がっていく。

 マトゥアの本領はゲリラ戦法やヒットアンドアウェイなんだろう。獣並の感覚で獲物を見つけ、対応させる暇を与えず速攻で攻撃する。倒し切れなければ即座に離脱して隠れ潜み、油断したところでまた攻撃を仕掛ける。

 この場でそこまで面倒なことはしないと思うから、たぶん隠れ潜んだりはしないだろうが、狙ってるのはヒットアンドアウェイか。撃滅の光が連発出来ないことを確認したのも、遠距離から一方的に攻撃されるのを防ぐためだろうしな。


 今までの言動から考えて、どうにもマトゥアは俺に負けたことを納得していないようだった。

 協力してこのダンジョンを攻略する気はあるんだろうが、たぶん上下関係を入れ替えたいんだろう。スキルのことを聞くのも、配下にした後命令すれば助力を乞ったことにはならないとか考えてそうだ。

 そのうち仕掛けてくるかもしれないとは思っていたが、まさか真っ正面から来るとは。正直というかバカというか、憎めないやつだ。


 撃滅の奇跡は連発出来ないとは言ったが、後一回くらいな普通に使える。しかし使えるからと言って使うわけにもいかない。この技は手加減ができない。下手に当たればマトゥアが即死してもおかしくない。HPのバリアがあるから大丈夫かもしれないが、不確かな要素に賭けたくはない。

 使うなら、確実に当たらないように、されど当てようと思えば確実に当てられる状況で、負けを認めさせるために使う。


 というか、そもそも勝つ必要はあるのか? 最初は状況を確認するためにマトゥアを無力化することが目的だった。お互いの情報をある程度知っている今、別に負けたところで問題はないような気がする。


 ……いや、ダメだな。マトゥアと俺では価値観や考え方が違う。俺が絶対に許容できないことをマトゥアがしでかそうとした時、ここで負けたら止めることができない。その時にまた戦うことになる。

 これは俺のエゴだが、主導権は俺が握っていなきゃダメだ。


「ディフェンダー!」


 防御力をあげてマトゥアの攻撃に備える。また死角を作ればそこから襲いかかってくるか? 同じ手に二度引っかかることを期待するのはやめておいた方がいいか。


 スピードもそうだが、そこら中に生えている樹が障害になってマトゥアのことは見失ってしまっている。

 ここは、新しく習得したスキルが役にたってくれることを祈るとするか。


「おらおらどうした! ぶるっちまって引っ込んだのか!? かかってこいよ!」


 マトゥアと一緒に戦うことが決まってから習得したスキル、挑発。本来は魔物のヘイトを集めるスキルだが、うまく決まれば相手を怒らせて冷静さを失わせることもできる。そもそも魔物ではないマトゥアに通用するかというのがお祈りポイントだが……。


「矢兎!」


 突如聞こえてきたマトゥアの叫びと共に、弾丸のようなスピードで何かが通り過ぎていった。

 遅れて痛みに気が付く。剣を持つ右腕に浅い傷がついていた。まるで鋭い爪で引っかかれたかのような痕だ。

 今のはマトゥアだったということか? 全く反応できなかった。速さの緩みが全くない。それにディフェンダーを使った状態でこれだと、長引いたらやばい。


 続けてもう一度、樹を強く蹴りつける音が聞こえた直後、マトゥアが高速で通り過ぎていく。今度は背中だった。だが、今度は鎧に阻まれて俺の体に傷はついていない。

 マトゥアとパーティーを組んでからはマナポの消費量が減ったため、ようやく防具を買えるだけの余裕ができた。とはいえ、全身一式には手が届かないため、まずは頭や胴体など重要な部位を守る鎧を買っている。


 それにしてもとんでもなく速い攻撃だ。意識していればギリギリ認識はできるが、それに盾を合わせるなんて出来るのか?

 これまでの戦いで何度か、この矢兎という獣の力を使い高速で移動するマトゥアを見てきたから、その素早さは理解しているつもりだった。しかし実際に自分がその速さに翻弄されるとなると、はたから見ていた時とはわけが違う。思っていた以上に、速い。


 あまりにも速すぎるからか直線的な攻撃しか出来ないみたいだが、どこから来るかわからなければそんなの関係ない。


 視界では追いきれない。だからマトゥアの位置を音で探る。獣身変化は発動にキーワードを要するが、一度変化させた後は元に戻さない限り力を使い続けられる。声で位置を探ることは難しい。聞くべきは木々を蹴りつける踏み込みの音。


 音が聞こえた瞬間に、盾を!


 再び重低音が聞こえた方向と自分の直線上に無理矢理盾を滑りこませる。とても踏ん張れない無理な体勢だが、盾に当たりさえすればいい!


「ガード!」


 大きな何かが視界に入った瞬間ガードを発動。ダメージとノックバックを半減し


「シールドバッシュ!」


 続けて連鎖するように発動したスキルがマトゥアの身体を吹っ飛ばした。

 シールドバッシュ。ガードを発動した瞬間に間隙なく発動出来るスキルで、相手に強烈な衝撃を与えて吹き飛ばす。


「撃滅の奇跡」


 吹き飛ばされたマトゥアは樹に激突して停止したが、素早く起きあがって逃げ出そうとした。


 しかしマトゥアの足下を一条の光が撃ち抜いたことで、足を止めてこちらに振り向いた。

 その表情は前に見たのと同様に、とても不機嫌そうだ。


「当てようと思えば、当てられたからね?」

「わかってるよ! 今度も俺の負けだ! あーくそ! なんだよその力! ズルすぎだろ!」


 マトゥアは地団駄を踏んで悔しがる。


「だから、マトゥアも使えばいいんだって」

「うがー! これで勝ったと思うなよ!」


 さっき負けを認めてただろうに。







 第二階層の探索もあらかた終わり、扉が出現するころには夜になっていた。今日も野営の準備だ。


 今日の飯は何にしようかと考えていると、マトゥアがしょんぼりとした様子でダンジョンブロックを食べ始めた。

 いや、え? 昨日飯食わせたやったのになんでまたあんな美味しくないもの食べてるんだ? 待ってたら昨日みたいに残り物にありつけるかもしれないって考えないのか?


 ……あっ!


「もしかして俺の飯が食いたくて今日襲ってきたのか!?」

「なぁ!? ち、ちちち違う! そんなんじゃない! 負けたなんて納得してないだけだ!」


 恥ずかしそうに顔を真っ赤にして樹の上に逃げていくマトゥア。そうか、そういうことだったのか。


 俺は昨日、下手くそな演技で久々に料理を作ったから量を間違えたと言ってマトゥアに飯を食わせた。それをマトゥアは、今日はもう間違えないだろうからどうにかして俺の飯にありつけないかと考えたのだ。

 マトゥアが俺に勝てば、勝者の特権ということで俺に言うことを聞かせて飯を作らせることが出来るからな。

 そうか、だから今日だったのか。正直、初日にああいうことが起こってもおかしくはないと思ってたんだ。なんで今日なのか不思議だったが、謎が解けた。


 しかし困ったな。つい口に出してしまったが、これじゃあ俺が二人分作ってもマトゥアは食いづらいよな。バカなことをしてしまった。

 うーん、しかたない。引きこもり息子大作戦でいくか。


 鶏もも肉、にんにく、小麦粉と片栗粉を購入。油と塩胡椒と醤油は昨日の残りがあるからそれを使う。作るのは唐揚げだ。唐揚げは冷えても美味しいからな。

 まずは油を揚げ物用の鍋に入れて火を点ける。こだわりがある人は揚げ物の種類によって油を変えたりするらしいが、基本的に俺はサラダ油だ。

 続いて鶏もも肉を適度な大きさにカット。その後、フォークをざくざく突き刺して穴をあける。本当は1日くらいにんにく醤油に漬け込んで下味をつけるのだが、時間がない時はこうやって穴を空けて中に味が染みやすいようにする。実際効果があるのかは知らないが、やった方が美味しい気がするから俺はいつもやっている。

 穴を空けた鶏肉をボウルに移し、醤油とにんにくを入れてよーくもみ込む。それはもうこれでもかというくらいにもみ込む。

 次は衣だ。B5くらいのサイズのビニール袋に小麦粉と片栗粉を入れてよく混ざるように振る。中身が混ざったら、鶏肉をボウルから移してまた振る。鶏肉に満遍なく粉が付いたら、油が熱くなってることを確認して鍋に投入!

 油の温度をちゃんと上げておけば結構すぐにきつね色になるけど、表面しか火が通ってない可能性があるからじっくり、されど焦げないように見極めてお皿に移す。お皿にはクッキングシートをひいておこう!


 これで完成だ!


「マトゥア! ここにご飯置いておくから気が向いたら食べてくれ!」


 声をかけたあと、俺は急いで食事を終え、後かたづけは簡単に済ませて眠りにつくためテントに入った。

 ひきこもりというのは親が見ていない時に部屋の前にお供えされた飯を食べるらしい。恥ずかしかったとは言っても、俺が見ていなければ美味しいご飯の欲求には勝てないだろう。


 俺がテントの中で横になっていると、さっそく「うまっ、うまっ」という声が聞こえた。


 マトゥアや、出来れば俺も眠っていてやりたかったが、そんなに高速で眠れる超人ではないのだ。


 すまぬ。

下剋上が成功しても最早逆らえないと思うのです!

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