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ガチャ35 餌付け

「大人しくレベルをあげてスキルを取れってことなんだろうさ」

「うがー! それがよくわかんねえんだよー!」


 マトゥアはこれまで、獣身変化の力と自分の肉体を磨き上げることで戦ってきた。とくに獣身変化によって得られる獣のごときしなやかな速さはマトゥアの大きな武器だった。

 動き回ることで敵を翻弄し、隙を見せたところで一撃を入れる。いわゆる回避主体の前衛なのだ。


 俺の視点から言えば、もっと敏捷を伸ばすスキルとか、回避に関係するスキルとかを取得すればいいんじゃないかと思うが、なにせマトゥアは字が読めない。スキル一覧を見ても、そのスキルがどういう効果を持っているかわからないのだ。

 だったら俺が代わりに読み上げて手伝ってやろうと思ったのだが、人間に助けは乞わないと断られてしまった。


「それに、これで強くなるのはなんかずるいだろ!」

「ずるい、のか?」


 俺みたいに戦う力なんて持ってなかった身としては、むしろこのシステムで強くならなければ戦えないのだから、ずるいというより使って当たり前という感覚だ。

 マトゥアのように最初から戦う力を持っていると、感じ方も違ってくるんだろうか。


「でもさ、俺は遠慮なく強化していくから、そうすると俺と君の強さはどんどんかけ離れていくんだけど、それはいいの?」

「ぐ、ぐぬぬ~! ふん! 気が向いたら手伝わせてやってもいいぞ!」


 スキルを取得することの必要性はマトゥア自身理解しているのだろう。しかし気持ちが理性に追いついてない。こういうところは子供っぽいんだなと、少し安心した。


「じゃあ、気長に待つとするよ」


 強化したくないならしなくても構わない。どっちにしろマトゥアのことは守るつもりだったのだから。







 まだ次の階層への扉は出現していないが、すっかり日も落ちて暗闇に包まれてしまったため、今日の探索は終わりにした。マトゥアは僅かな月の光でも十分に活動できるらしいが、俺には到底無理だ。東京の夜空よりは星明かりが綺麗なのかもしれないが、人工的な灯りがない分総合的な明るさは比べものにならない。

 正直、火を焚いていなければほとんど何も見えないだろう。


 暗闇を照らす月を見上げてふと考える。なんでダンジョンの中なのに空や月があるのだろうか。昼間は太陽もでていたし、地球にいるのと変わらないように錯覚する。管理者パワーはこんなことを簡単に出来てしまうのだろうか。


 考え事をしながら野営道具や簡易結界箱を用意していると、マトゥアが不思議そうに俺を見ていることに気が付いた。


「なにしてんだ?」

「何って、飯と寝る準備だよ」

「飯なんてこれを使えばすぐ出てくるし、眠るのなんて樹の上でいいだろ?」


 マトゥアはそう言ってスマホを操作したかと思うと、ブロック上の栄養食みたいなのをくわえて木登りを始めた。どうやら樹の上でくつろぎながら食事をしているようだ。


 普通のお兄さんである俺は樹の上で快適に眠れないんだよなぁ。


 というか、マトゥアは文字が読めないはずだが、どうやってあの食糧を出したんだ? それだけはチュトちゃんに教えて貰ったのか? 文字を読めなくてもリストの並びと特定手順さえ覚えれば、ショップを利用することは出来るからありえるな。


 それと、マトゥアがとりだした食糧は見覚えがある。たぶんあれは、ダンジョンブロックだ。かなり安く販売されてる上に摂取に時間がかからず、一つでかなり腹が満たされ栄養価も高いらしい。栄養価の部分はパッケージに書かれていただけだからどこまで本当かはわからないが、とにかくそんな感じの食糧だ。ただ、ひとつだけ大きな問題があって、全く味がしない。よほど金銭的に追いつめられていなければ誰があんなもん食べるんだというレベルだ。まだ何も知らなかった時に名前にひかれて購入したことを後悔したくらいだ。


 どうしてマトゥアはわざわざあんなものを食べているのだろうか。かなり手慣れた様子で購入していたし、あれを食べるのが初めてということはないだろう。まさか、チュトちゃんから食糧の買い方をあれしか教わっていない?

 それともあえて自分に苦行を課しているんだろうか。精神的な修行とか?


 わからん。わからんから、ここは一つ試してみるか。


 ショップで豚肉、油、塩胡椒、生姜、砂糖、料理酒、みりん、醤油を購入して生姜焼きを作る。米も炊こうかと思ったが時間がかかるから今回はなしだ。それに炊飯器なんかも使えないから飯盒を使うことになるが、あれの使い方をあんまりよく覚えてない。

 ……あ、よく見たらおにぎりが売ってるな。これでいいか。


 作り方は至って簡単。男の料理は豪快に適当だ。フライパンをカセットコンロにセットし暖めて油をひく。次に肉を焼いて、調味料を感覚で投入する。適度に焼いたら出来上がり!

 それからおにぎりの方は一度フライパンの汚れを拭き取ってから軽く炒める。生姜焼きは結構味濃いめになってるはずだから、おにぎりは変に味を付けない方が合わせて食べたとき美味しいはずだ。


 完成した生姜焼きの甘じょっぱい香りが鼻腔をくすぐり、腹の虫がぎゅるぎゅると激しく鳴き始めた。料理中にも結構匂いはしてたし、たぶんマトゥアも気づいてるはずだ。そのうち気になっておりてくるだろう。


「いただきます」


 俺が一人でむしゃむしゃと生姜焼きをつつきながらおにぎりにかぶりついていると、いつの間にか樹の上から降りてきたマトゥアが樹の陰に隠れてこちらを見ていた。凄くものほしそうな視線を感じるが、ひとまず無視して食事を続ける。作戦通り、匂いにつられて降りてきたらしい。

 作った料理の半分ほどを食べ終わったところで箸を置き、俺はわざとらしく大声で独り言を口にした。


「あー、久しぶりの料理だから作りすぎちゃったなー。でも捨てるの勿体ないし、どうしようかなー!」


 無論、嘘である。最初から二人分作っていたし、それは当然俺とマトゥアの分だ。しかし正直に二人分作ったと言っても、施しは受けないとか言って断りそうだし、マトゥアから食わせろと言ってくる可能性はもっと低い。

 だからあえて一芝居うって、マトゥアが自然に料理にありつけるようにしたのだ。

 俺の演技は少々棒だが、料理に随分と気を引かれてるマトゥアが気が付くことはないだろう。


 なるべくマトゥアに気づかれないようにチラチラと様子を見ながらそんなことを言っていると、マトゥアが凄いスピードでこちらに近づいてきた。視線は肉に釘付けだ。


「あれ、もしかしてマトゥアが食ってるくれるのか? そしたら助かるなー!」

「ま、まあ飯を捨てるのはダメだからな。しょうがないから俺が手伝ってやるよ」


 涎を垂らしながらそんなことを言い出したマトゥアが面白く、嫌なら自分で食べるけど、と意地悪を言いたくなったがさすがにやめた。変なことを言ったらへそを曲げて本当に食べなそうだし、元々マトゥアに食べさせようと思って作ったのだから、ここは変にからかわず食べて貰おう。


「うまいか?」

「ま、まあまあだな!」


 肉を手掴みして笑顔でガツガツと頬張りながらまあまあとは、素直じゃない奴だ。

 でもまあ、あんだけ美味そうに食ってるのを見ると作った側としてはなんだか嬉しい。

 優子も真もあんまり濃い味付け好きじゃないから、作ると優子には気をつかわせちゃうし、真はハッキリママのご飯の方が美味しいっていうからな。

 正直なのはいいことだがさすがにあの時は少し傷ついた……。いや、自分でも優子のご飯より美味しく作れたとは思ってないけど、それとこれとは違う複雑な男心なんだよ。


 やっぱ濃い味は男の子向けなのかね。もしも俺に息子がいたら、こんな風に料理を作って美味そうに食って貰うってこともあったのかもな……。

全然美味しそうなんて思ってないのです!!

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