ガチャ32 獣王マトゥア
扉を開いた先に続いていたのは、新しいフロア、ではなく石畳の部屋だった。各フロアをクリアする度に休憩ポイントが用意されてるのかもしれない。
部屋の中央には妙なパネルが設置されていた。
「チュトちゃん、あれはなんだ?」
パネルを指さして聞いてみたが、チュトちゃんからの返事はない。
おかしいな。いつもなら聞かれるまでもなく解説を始めるというのに、妙に静かだ。っていうか、チュトちゃんはどこに行った?
後ろを振り返っても、部屋の中を見回してみても、チュトちゃんはどこにもいなかった。てっきり後ろからついてきているものだと思っていたが、いない。
「チュトちゃーん! いないのかー?」
俺の呼びかけに、可愛らしい声は返ってこない。
そういえば、暴れ坑道狸はチュートリアルのボスだった。ボス戦が終わってチュートリアルも終わったから、チュトちゃんは帰ってしまったということだろうか。
チュトちゃんはそんなこと一言も言ってなかったが……。
「いつまでもチュトちゃんに頼りっぱなしってのもよくないよな。うん」
そうだ。本当なら、ここまでは一人で来るはずだったと思えば何も問題はない。きっと先人たちは、チュトちゃんに頼ることなくここまで進み、そしてここから先も進んでいったはずだ。
俺ばかりが甘えてちゃいけない。俺は大人だ。1から10まで全部導いて貰わなくても、俺は自分の力で進んでいける。
「ありがとう、チュトちゃん……。小憎たらしいやつだったけど、居なくなったら少しだけ寂しいよ」
チュトちゃんとの別れに踏ん切りをつけて、俺はパネルと向き合った。これが何なのか教えてくれる人はいない。だから俺が自分の手で慎重に調べなくては。
パネルにはボタンとかは付いてなく、どうやらタッチパネルのようだった。怪しいが、押さないことにはなにも始まらないのでそっとタッチしてみる。
「パーティーのマッチングを開始しますか?」
どこからかわからないが、そんな機会音声が流れた。
マッチングか。ってことは、ここからは一人じゃなくて誰かとパーティーを組んで進むこともできるということだ。わざわざここに置いてあるからには、ここから先はより厳しい戦いになるのだろう。
一人で戦わなければいけないような理由もない。俺は迷うことなくYesをタップした。
「マッチングしています。少々お待ちください」
出来れば後衛の魔法使いとかに来てほしいな。奇跡は俺が使えるし、前衛も俺がいる。別に魔法使いじゃなくてもいいが、役割がかぶらないような人と組みたいものだ。
そういえばこれ、気が合わなかったらチェンジは出来るのか?
「マッチングが完了しました。ルームを統合します」
いきなり目の前に、獣耳のアクセサリを付けた少年が現れた。俺の胸に届くか届かないかというくらいの身長で、未開の蛮族のような露出度の高い服装をしている。コスプレか? いや、そういう装備なのか?
それにしても早いな。マッチングっていうのはたぶん今同じようにマッチング中の人同士を組ませるんだと思うが、だとしたらこんなに早くマッチングするくらい人が居たってことになる。一体何人が選ばれてるんだ。
「おまえ! 人間か!? 人間だな!」
「あ、ああ。俺は人間だよ」
目を見開いて驚愕を露わし、ぷるぷると震え出す少年。たしかに、チュトちゃん以外の普通の人間とここで会うのは俺も初めてだ。見たところまだ中学生くらいみたいだし、さぞや怖かったのだろう。
正直戦力を期待してマッチングをしたので、少々ガッカリしてしまったが、この少年をチェンジするというわけにもいかないだろう。
大人は子供を守るものだ。この先は俺がこの子を守りながら進む必要があるか。
「人間は魔族の敵! おまえ、倒す!」
どうやら見当違いだったらしい。
俺を睨みつける目にはこれでもかというくらい敵意を宿している。なんだ、俺は答えを間違えたのか? 魔族ってなんだよ?
「君は人間じゃないのかな?」
「俺は魔族だ! 食らえ人間!」
俺の質問に対して、少年は激高して飛びかかってきた。そのスピードは驚くほどに速い。目で追いきれないというわけではないが、目で追うのが精一杯。反射的に盾を構えて防御出来たのは偶然だった。
「キャインッ!」
「あ、ごめん!」
咄嗟のことだったので加減も出来ず、俺が構えた盾は少年をぶん殴るようにぶつかってしまった。俺は悪くないと思うが、事故でも子供を殴ってしまったという罪悪感で胃が痛い。
「うぅ~、俺は魔王軍四天王、獣王マトゥアだぞ! すごく強いし偉いんだぞ! 大人しくやられろ!」
「お兄さんにも事情があるんだ。大人しくやられることは出来ないよ。言葉が通じるんだし、まずは話し合おう」
魔王軍四天王? 獣王? ハッキリ言って病気なんじゃないかと疑ってしまうところだが、子供を頭ごなしに否定しても理解し合うことは出来ない。まずは大人が歩み寄ることで、少年に心を開いてもらう必要がある。
おそらくこの少年は重度の中二病で、自分がその魔王軍四天王なのだと思いこんでいるのだろう。衣装や小道具まで作り込んで、随分と熱心だ。そうした子供の熱量が詰まった行いは、たとえ理解できなくても否定したりしてはいけないのだ。
「人と魔族はわかりあえる。俺は君の敵じゃない」
「嘘だ! 魔王様は人間は酷いことをするって言ってたぞ! おまえは敵だ!」
「違う! 人間の中にも良い人間や悪い人間が居るんだ! 俺は君を傷つけたくない!」
「う、うぅ~!? なんなんだよおまえ!? 変なけはいだ! うそのけはいとほんとのけはいが混ざってる! う~、めんどうくさい! 弱い奴は強い奴の言うことを聞く! 勝った方が正しいんだ!」
少年は唐突に壁に向かって駆けだしたかと思うと、壁を蹴って天井まで飛び上がり、さらに天井を蹴って地面に着地し、また地面を蹴って壁に張り付き、どんどん高速でそれらの動作を繰り返し始めた。攻撃を見切られないために俺を翻弄しようとしているのだ。
説得は失敗してしまった。嘘の気配と本当の気配? もしかして彼は、嘘を見抜くスキルを持ってるのか? だとしたら申し訳ないことをしてしまった。下手に少年に合わせるのではなく、正直に理解は出来ないが否定しないことを話すべきだった。
むこうから襲いかかってくるとはいえ、相手は子供だ。なんとか傷つけないで無力化しなければいけない。
「ディフェンダー!」
ここまで来たということは、子供といえどもチュートリアルを突破してきたということだ。傷つけるつもりはないが、それでこっちがやられてしまっては本末転倒。スキルを使用して防御力を向上させる。
この年で命をかけた戦争に繰り出されるなんて、辛かっただろう、苦しかっただろう。まずは俺が落ち着かせてあげるのだ。
「落ち着いてくれ! 俺は敵じゃない!」
「だまれ!」
叫びを合図に、少年の動きが変わった。一瞬、視界から消えた少年は、俺の死角から鋭くとがった獣のような爪で首を狙ってきた。
だが、動きは見えなくても読めていて。高速で動くといっても、攻撃の瞬間にはある程度速度が緩む瞬間があるはずだ。真っ正面からではその緩みをつかれると考えれば、自然視線を切って死角から攻撃してくることは目に見えている。
だから俺は、あえて死角を作った。少年は不意を打って攻撃したのではなく、俺が誘導した場所から攻撃をしかけてきたのだ。
死角であることは事実で、接触ギリギリまで引きつけることはできない。俺は少年が視界から消えた時点で体勢を大きく傾け回避行動に移った。
結果はジャストで、決して避けられるはずのない攻撃を避けられた少年は隙だらけだった。この一撃ですべてが決まると思っていたのだろう。
俺は体勢を崩しながらも、伸ばされた少年の腕を掴んで背中から地面に叩きつけた。ちょっと痛いだろうけど我慢して貰おう。頭からいったわけじゃないから死にはしないし、少しくらいなら怪我をしても俺が治せる。
「がはっ!」
「俺の方が強いみたいだね」
「ぐっ、ぐぅぅ!」
うめき声をあげて俺を睨みつけながらも、少年が立ち上がる気配はない。……あれ? 思ったよりダメージ入っちゃった? 悪いことしちゃったな。俺の精神衛生上もよくないからなるべく穏便に済ませたかったのに……。
にしても強い方が正しいって、どんな蛮族だよ。いや、蛮族スタイルにマッチした考え方だとは思うけどさ、キャラ作りにしたって入り込みすぎじゃないか?
四天王のくせに雑魚なのです!!




