ガチャ30 快進撃
石畳の部屋の扉を開くと、そこは坑道だった。
「ここは始まりの坑道なのです! まずは雑魚魔物とのタイマンのチュートリアルなのです! あっ! チュトちゃんの可愛らしい声にひかれて魔物がやってきたのです! 早速実戦なのです!」
もう黙っててくれないかなあ。
心の準備をする間もなく現れたのは、狸の魔物だった。奇妙な鳴き声をあげながら向かってくる狸を剣で切りつけると、狸は痛そうに悲鳴をあげて地面に倒れ込んだ。
「プレイヤーさんの攻撃力では一撃で倒せないのです! 追撃なのです! 止めを刺すのです! 惨めな畜生を踏みこえていくのです!」
「悪魔か」
いや言ってることは間違ってないんだけど、言い方とかがあまりにも物騒だった。
のたうち回る狸に剣を突き刺すと、一瞬びくびくと痙攣してから動かなくなった。そして体が光の粒子になって消滅していく。
「これが侵略者か……」
「こいつらは雑魚なのです! まだよわっちいプレイヤーさんのために管理者が段階的に隔離しているのです! 戦う感覚を掴むのですよ!」
戦う感覚を掴むと言われても、狸は想像以上に弱かった。それから2回ほど狸と戦ったが、結局1戦目とほとんど変わらない展開が続き、練習にはならなかった。
「レベルアップしたみたいなのです! 階層ごとに設定されたレベルに達すると次の階層に進めるのです! この階層にもう用はないのです! こんな雑魚しかないところはさっさと出て行くのです!」
出現した扉を開くと、光の奔流に呑み込まれ、始まりの坑道第二階層に移動していた。
さっきのレベルアップでスキルポイントが手に入ったはずだが、この調子ならまだ新しいスキルを取得する必要はなさそうだ。
「第二階層は多対一の戦いのチュートリアルなのですよ! どうせ雑魚だから狸の攻撃は無視していいのですよ!」
妖精のアドバイス通り、狸から受ける攻撃は完全に無視して一匹ずつ倒してみたのだが、たしかに狸の攻撃は大して痛くもないし正直第一階層と大して変わらないレベルだ。
ただ、これだと本来の多対一で戦うというチュートリアルの意味がないんじゃないだろうか。
「最初はお試しなのです! プレイヤーさんがビビって腰が引けると面倒だったから攻撃を受けても大したことないと実地で教えただけなのです! 次からはうまく攻撃を受けないように戦うのです!」
同時に襲い来る2匹の狸に対して、攻撃を受けないように立ち回るのは苦労した。狸は中型犬くらいのサイズのため、攻撃は基本的に下半身に集中する。そうすると、剣で攻撃するのはまだいいが、盾がうまく機能しないのだ。俺が今持ってる木の丸盾は、手首から肘の半分くらい覆うサイズであり、これで下半身への攻撃を防ごうとする腕をかなり下げなくてはいけない。はっきり言ってかなり戦いづらい。
妖精の思惑通り、攻撃を受けても対して痛くないしダメージもそんなに大きくないことを知っているから、無理な体勢でも緊張することなくある程度攻撃をさばけるようにはなった。しかしこの戦い方はいずれ見直さねばならないだろう。もっと大きな盾があれば一番いいんだが、現状では買えそうにない。
納得いく戦い方は見つけられないまま何度目かの戦いを終えると、扉が出現したので第三階層に移動した。
「第三階層からは魔物が武装しているのです! ここからはひと味違うのです! 気をつけるのです!」
妖精の言うとおり、遭遇した魔物は武器を装備していた。狸が2匹に人型狸が1匹。武装しているは狸人の方だ。
魔物としてのは格は狸人の方が狸より上で、装備がある分攻撃力なんかも高いのだろう。しかし、狸人の攻撃は身長差も相まって、ちょうど胸から腰にかけての間にくるため、盾で受けて崩すという動作が圧倒的に狸よりもやりやすかった。
その狸にしても、俺を発見すると狸人を置き去りにして接近してくるため、狸を先に処理して狸人を相手にゆっくり練習することが出来た。
狸人は狸と違い、一撃で戦闘を放棄したりはしない。だから攻撃は、敵の戦闘能力を奪うことを目的にする。
たとえば手。武器を持つ手を傷つければ、狸人はあっさりと武器を手放す。そうなればあとはリーチの差を活かして削ればおしまいだ。近づかれても盾で殴り飛ばすことでまた距離が生まれる。
あるいは眼。片方でも潰せれば大混乱で武器を振り回し、あっという間に疲弊してまともに戦えなくなる。
それ以外にも、体のどこを刻めばより痛みを与えられるのか、行動が鈍るかのを確認しながら、1匹1匹実験するように戦った。
「引くのです……。このプレイヤーさんは残酷なのです……。悪魔なのです……」
「いやチュトちゃんにだけは言われたくないんだけど」
俺は勝つために仕方なくやっているだけであって、喜々として目潰しするのです! とかヤジを送ってくる妖精とは違うのだ。
「冗談はおいておくのです。それより、新しいスキルは取らなくていいのですか?」
「んー、そうだな……」
第四階層への扉はすでに出現しており、行こうと思えばすぐにでも行けるのだが、スキルを取得するべきか否か。
自分でも思っていた以上に戦えてるせいか、今のところ追加でスキルを取る必要性は感じない。しかし、チュートリアル妖精がわざわざ口出ししてきたということは、次の階層に行く前に戦力を上げておいた方がいいということだろうか?
この妖精は解説は丁寧で有益だがそれ以外にも色々といらんことをしゃべりまくるかいまいち判断がしづらい。
「次のチュートリアルは狸人が複数出てくるのです。さらにスキルを使うのです。状況を変えられるようなアクティブスキルが必要かもしれないのです。でも必要ではないかもしれないのです。それはプレイヤーさん次第なのです」
「ざっくりしてるな……」
まあでも、ここは妖精を信じるとするか。本当に全く必要なければ口出しなんてしてこないだろうし。
幸いにもポイントは250ポイントあるため、取得したかったスキルがに手が届く。
Rスキル、撃滅の奇跡Lv1。そもそも俺が奇跡系統のスキルを選んだのは、攻撃と回復のどちらも出来るという話だったからだ。しかし奇跡系統のスキルは攻撃関連のスキルが非常に少なく、一番ポイントが安いのでもこの撃滅の奇跡だった。
説明には、聖なる奇跡で敵を討つ、としか書かれてなく、具体的にどんなスキルなのかは不明。妖精に聞いたところ、レベルがあがるごとに使える技は増えるが、Lv1の時はビームが出るそうだ。
もう一度言おう、ビームが出るそうだ。
「では第四階層に行くのです」
第四階層は非常にマップが広い階層だった。今まではさくさくと魔物に遭遇していたのだが、この第四階層では未だに一度も魔物と遭遇していない。すでにこの階層で探索を始めてから1時間近く経過しているのに。
「今後はこういう階層も出てくるのです! 第四階層はだだっ広い階層を探索するチュートリアルでもあるのです! でもそれより魔物がスキルを使うことの方がよほど重要なのです! スキルは強力なのです! ここで朽ち果てたプレイヤーさんも少なくはないのです!」
「え、いや、ちょっと待て」
「噂をすればなんとやらなのです! 団体さんがこんにちわなのですよ!」
一部聞き捨てならない発言があった、魔物との遭遇によって問いつめている場合じゃなくなった。
現れた魔物は狸人3匹。妖精の話が事実なら、こいつらに殺されたプレイヤーもいるってことだ。ここまで順調に進んでいたからどこか気が抜けていたかもしれない。
油断しちゃダメだ。ゲームみたいだけど、俺は今実際に命がけで戦ってるんだ。
「撃滅の奇跡」
当初は第三階層で鍛えた腕前がどこまで通用するかを試そうと思っていたが、やめた。
距離があるうちに遠距離攻撃で出来る限りダメージを与える。相手の実力を試すのは、タイマンになってからで十分だ。
何もなかった俺の正面あたりに急に光が集まりだし、ある程度の大きさになったところで一條の光として狸人へ撃ち込まれた。
直撃を受けた狸人は、体に小さな穴が空いたあとに爆散して消滅した。
「えぇ……」
いや、強力なのはいいことなんだが、なにこのバイオ兵器みたいなスキル。使用者の人体に害はないんだよな? 俺大丈夫だよな?
戸惑う俺だったが、残り2匹の狸人は待ってくれない。仲間が無惨に殺されたにも関わらず、一直線に俺に向かって走ってくる。相変わらず知能レベルの低そうな狸だ。
1匹目の狸人の攻撃をステップで交わし、2匹目の狸人の攻撃を盾で崩そうと身構える。しかしそこで気が付いた。上段から振り下ろされる剣の刃が赤黒く輝いていることに。
回避は間に合わない。本来なら力任せに弾き飛ばして体勢を崩し、斬り伏せようと考えていたのだが、咄嗟に受け流すように盾の角度を変える。
「くっ!」
狸人と俺で純粋な力比べをした場合、勝つのは俺だ。しかし、その一撃は今まで受けてきたどの攻撃よりも重たかった。真っ正面から受けとめなかったにも関わらず、腕が痺れる。
「回復の奇跡!」
腕の痺れがどういった種類のものか確認している暇はなかった。咄嗟に、使わないよりもマシだと思って使ったそれは、大当たりだった。
輝きと共に痺れがなくなった俺は、スキルの反動で体勢を崩している狸人の眼球を抉った。
そこからはもうひどかった。暴れ回る狸人の剣はもう1匹の狸人に直撃し、怒った狸人同士で戦い始めたのだ。俺は最後に残った方の狸人を狩り、それで戦いは終了した。
危なかった。撃滅の奇跡で数を減らしていなかったら、回復の奇跡を使う猶予はなかったかもしれない。あるいは使えたとしても、反撃までは出来なかっただろう。
「MPがごっそり減ったな」
ステータスを確認してみたら、だいたい1/3ほど減っていた。
撃滅の奇跡と回復の奇跡、どちらでこんなに消耗したのかはわからないが、今みたいな戦い方を繰り返すのは少し厳しいか。
「よくやったのですよ! 第一関門突破なのです!」
「奇跡頼りだったからMPが切れたら終わりだぞ?」
「MPはマナポを買えばいいのです! 大した出費じゃないのです! それも含めて第一関門突破なのです! そんなこともわからないなんてプレイヤーさんはバカなのです! やーい! バーカバーカ!」
舌を出してあっかんべをする妖精。いちいち煽るなうざったい。
MPを最大まで回復させたとして今の戦い方が出来るのは3回。次はもう少しうまく戦えるだろうし、3回も戦えばマナポを買ってもお釣りがくる。
というかそもそも、わかっていればかわせるはずだ。盾で崩すという戦い方に拘ったせいで食らったようなものだし、うまくやれれば回復の奇跡は使わなくても済むだろう。
妖精の言うとおり、この第一関門は突破した、と見て良さそうだ。
第四階層の死亡率は大体30%くらいなのです!
戦いとは無縁のプレイヤーさんもいるからしょうがないのです!




