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ガチャ03 命とガチャの天秤

 望んだ結果を得られなかったことに一頻りガッカリした後、俺は招き猫とやらのカードに目を通すことにした。


 カードの一番上には招き猫と書かれており、その下に小さく使い魔と書かれている。これは恐らくカードの分類だろう。手に入れたものは一度カードとして手に入り、このカードを使用することで実際にそのカードの示すものが現れるようだ。

 招き猫の分類がスキルではないことに疑問を感じ、一度画面をレアガチャの説明まで戻してみると、そこにはスキル、使い魔、装備、道具等、様々な物が排出されると記されていた。

 よく見てみれば、ガチャの名前もスキルポイントガチャと書いてあり、スキルガチャとは書いていない。


 詐欺だろ! これ!


 実際問題まずいんじゃないかこれは。200ポイントで最低でもRスキルが手に入ると考えていたが、消耗品が出てくる可能性もあったわけだ。もしそうなっていたら継続的な戦闘力の向上が出来なくなって詰んでいたかもしれない。

 招き猫の詳細を見てみると、どうやら使い魔は自分のパーティーに組み込めるようなので戦力アップという面では当たりのようだ。


 ホッと一安心をしつつ、続けて招き猫のカードを確認する。

 名前と分類の下には正方形の枠があり、そこに招き猫と思われるデブ猫がデフォルメされて描かれている。さらにその下にも正方形の枠があり、そこには招き猫の持つスキルが書かれていた。


 福招き。幸運を呼び込む。1日1回の使用制限あり。

 夜目。暗闇の中でもよく見える。

 察知。鋭敏な感覚で敵を察知する。


 招き猫という名前から福のありそうな使い魔だとは思っていたが、スキルもまさしくと言った感じだ。

 しかも、夜目に察知と猫っぽい能力もしっかりと兼ね備えている。

 戦闘能力はこれだけでは不明だが、スカウト的な役割を任せるにはうってつけだ。単純にRスキルを手に入れるよりも、これはあたりだったのではないだろうか?


 それに、なによりこれは……。ふむ……。


 俺に残されたスキルポイントは、後200。レアガチャを引くために必要なポイントも200。おお! 偶然にもぴったりだ!

 さらにこの招き猫の持つスキル、福招き。これを使えば、URを引けるのではないか……? 少なくともSRは引けるのでは……? これは、幸運の女神様が俺に囁いているのでは? ハルトよ、引きなさいと……。


 いや、いやいや! だが待て! 今の俺には戦闘能力がない! 招き猫がどこまで戦えるかもわからない現状で、残りのポイントをガチャに使えるか!?

 そう、まずは確認しなければ。


 招き猫のカードが表示されている画面の端っこにある、顕現という文字のボタンを俺は押した。銀色に輝きだしたカードが画面を飛び出し、地面の上で猫の形に変わっていく。完全に猫の形となり、輝きが収まると、そこには白黒茶色の一般的ね招き猫カラーの三毛猫が座っていた。


「まいど、よろしゅーな。ご主人」

「喋るの!?」

「そりゃ喋るがな。わいは使い魔やで? 猫で使い魔と言や喋って当然やがな」

「そりゃ黒猫とかならそうだろうけど……」


 流暢な日本語でぺちゃくちゃと喋り倒すデブ三毛猫の姿は奇妙と言うほかない。こう、魔女の使い魔、みたいな感じじゃないんだ。そもそも何の方言なのかよくわからない喋り方からして胡散臭さがハンパない。


 ま、まあ良い。使い魔が喋ったり変な方言だったりは予想外だったが、むしろ意志の疎通が出来るという点では喜ばしいことだ。

 早速俺は疑問をぶつけてみることにした。


「招き猫。おまえは俺のパーティーに加わるわけだけど、戦えるのか?」

「あー、無理や無理。そういう期待は勘弁や。わいに出来んのは索敵と福招き、それだけや。レベルが上がりゃー戦闘はからっきしやけん、そこんとこ気ぃつけてや」


 ソファに寝転がってテレビを見る親父のようなふてぶてしい姿勢で、ケツをかきながらデブ猫はかったるそうに言った。


「……そうか。いや、まあ、まあいい。それより猫、福招きとやらはどのくらいの効果があるんだ?」

「気休め程度やがな。そんな目に見えて変わったりはせーへんから期待もほどほどでたのんますわ。ま、くじ引きがちーっとは当たりやすくなるかもしれへんわな」


 ふっ、と鼻で笑ってついでに鼻くそをほじり出すデブ猫。あの手でどうやって鼻くそをほじっているのか非常に気になるところだが、今は一旦置いておこう。


 何なのあのデブ猫? あれ猫なの? 猫がするような後ろ足で顔をかいたり、前足をペロペロ舐めたり、そういう動作を一切しないんだけど? オッサン? 中にオッサンが入ってんの?


 いや……、いやいや。デブ猫の生態も大いに気になるところだが、今はそれも置いておこう。


 ここまでで重要なことが三つわかった。

 一つ、デブ猫に戦闘能力がないということ。やはり俺自身の強化は必須だ。

 二つ、この攻略とやらがソロを前提に設計されていないこと。たまたまデブ猫に戦闘能力はなかったが、パーティーという仕組みがある以上複数人で協力して攻略するのが前提なのだろう。ステ振りを間違えたとまでは言わないが、取り急ぎ回復職を仲間にしたいところだ。

 三つ、福招きがガチャに有効そうなこと。デブ猫は気休め程度と言ったが、ガチャというのは1%以下の数字を引き寄せる運が必要とされる。気休め程度でも非常に重要な要素となり得るのだ。


 俺の強化と、ガチャ。

 今、俺の中でその二つが天秤に乗せられ激しく上下している。

 俺の強化には、命がかかっている。ここでスキルを取らず、強化せずに始めたからといって、即座に命を落とすわけではないかもしれない。しかし、これから先スキルポイントがどの程度手にはいるかもわからない。ここを逃すことで、俺はこれからもスキルなしで攻略に挑まなければいけないかもしれない。それは確実に俺を危険な状況に追い込むだろう。

 しかし、そう考える一方で恐らくスキルポイントはこの先もある程度手に入るだろうとも考えている。少なくとも、600ポイントは。このやけに具体的な数字の根拠は、SRスキルだ。SRスキルの取得に必要なポイントは1000ポイント。初期の400ポイントを残していても、追加で600ポイントは必要になる。手に入らないスキルにポイントを設定しているとは考えにくい。ガチャ等でしか手に入らないならURスキルのようにすればいいのだから。つまり、SRスキルはこの先真っ当に1000ポイント支払って手に入れることが可能であり、であれば最低でも600ポイントは手に入るということだ。


 600ポイントも手にはいるなら手持ちの200ポイントをガチャに使うことに何の問題があるだろうか? いやない。


 ガチャが乗っていた天秤にデブ猫が飛び乗り、命の方はすっ飛んでいった。


「デブ猫、福招きを使ってくれ」

「いやデブ猫て、思ってても普通は口にせんでその言葉。まったくひどいご主人の使い魔になってしもーたみたいやなー。福よ来い来い福よ来いー」


 文句を言いながらも右手をあげてくいくいと上下に動かす。商店街なんかでよく見る招き猫の動きそのままだ。

 すると、数秒ほど経過したところでデブ猫が桃色の靄に包まれ始めた。その靄は本当に唐突に発生したので、まるでデブ猫から発生しているようにも見える。


「キタ! キタデー! ご主人!」


 眠たそうにしていたデブ猫が唐突に目を見開き牙を剥いて叫び出す。ちょっと怖い。


「よし!」


 運があがったなんていうのは感覚的にわかることではないが、招き猫がこういうのであればそうなのであろう。

 俺は自分の使い魔を一切疑うことなく、もう一度レアガチャの画面を開いてガチャガチャの取っ手を連打した。それはもう鬼気迫る勢いで連打した。

 福招きの効果は一時的なものであり、一生続いたりはしない。そんな数秒で切れたりはしないだろうが、万が一にも効果が切れてしまってからでは意味がない。普段であれば深呼吸をして気持ちを整えて神に祈りながら回すところだが、今回はその時間すらも惜しかった。


 取っ手がぐるぐると周り、ガチャガチャの中のカプセルが動くアニメーションが再生される。

 カプセルが出てくるまでの時間は、ほんの数秒のはずだが、俺には一分にも一時間にも感じられた。

 ばくばくと心臓は脈打ち、呼吸が乱れる。こんなにも興奮するガチャはいつぶりだろうか。自分の命を天秤に乗せて回すガチャがこんなにも気持ちいいなんて知らなかった。


 もしもここから帰れたら、もう借金を躊躇うことはないだろうな……。


 危ない思想に囚われたのも束の間、コロリと排出されたカプセルを見て俺は目を見開いた。

 スマホを持った左手を握りしめて、天に掲げる。


「虹色だああああああっっっーーーーー!!」


 ガッツポーズの頂点から漏れ出る輝きは、七色に光っていた。

靄に包まれたのは猫ちゃんなんですね~

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