ガチャ29 メイン盾
スマホは便利だが、便利すぎるのも考えものだ。スマホ依存症なる言葉があるように、家族で外出しているにも関わらず皆がスマホいじっているような光景もよく見かける。
SNSやスマホアプリをやっているらしいのだが、小さな子供や赤ん坊がぐずっているにも関わらず無視してスマホを使っているような親を見て、ああはなりたくないと思ったものだ。
手を出さなければ依存することもない。スマホ自体は持っているが、俺はSNSやゲームを入れていなかった。
しかしなぜか今、俺のスマホはRPGのような画面が表示されていた。なんでも、これを使って管理者の力とやらを手に入れるのだそうだ。
妖精曰く、管理者の力は直感的にわかりやすい方法で分け与えられるように設計されたらしい。RPGのキャラメイクのように見えるのは、それが管理者にとってわかりやすい方法だったからだということだろう。
優子が真を妊娠してからはすっかりゲーム離れしてしまっていたため、最近のゲームシステムにはあまり馴染みがない。友人や後輩からソシャゲにはガチャという悪魔のシステムが存在することは聞いているが、それに手を出したこともない。
「プレイヤーさんはどんな戦い方がご希望なのですか?」
「どんなって言われてもな……」
そもそも戦ったことなんてないからどういう風に戦うかなんてわかるはずもない。
イメージだけで考えるなら、盾と剣を持って堅実に戦うような感じが良いのだろうか?
槍だの弓だのと言った武器も考えはしたが、たぶんまともに扱うことはできないだろう。剣なら使えるのかと言われると微妙なところだが、棒きれを振り回す感覚でいけそうという希望的観測をしている。
ただ、その考え通りに剣を使えたとしても、俺は剣で攻撃をいなすとかそういう技術の伴うことは出来そうもない。だからとりあえず身を守る盾も必要かと考えた。
「堅実な感じなのですね。じゃー筋力と頑強の優先度を高くするといいのです。装備をかためて耐久マシマシ方向に伸ばすなら敏捷は優先度低くて大丈夫なのです」
「魔法とかって使えるのか? 攻撃とか回復とか」
昔やってたゲームの感覚だと、前衛とか後衛みたいに役割が分担されてて、色んなことが出来るようになるのはレベルが上がったり転職したりしてからなのかと思う。
死なないために純粋な肉体の強化に繋がるステ振りが最優先だ。ただ、こんなファンタジーに巻き込まれたのだから、出来るならばそんな特殊な力も使ってみたいという思いもあった。
「使えるのですよ。ただ、魔法系統のスキルには治療や回復はないのです。どちらも使いたいなら奇跡系統のスキルがおすすめなのです。奇跡系統のスキルは精神のステータスが影響するから、精神も優先度高めなのです。それと、奇跡系統のスキルを取得すると魔法と呪術系統のスキルが取得出来なくなるのです。魔力はMPにも影響するけど、魔法系統スキルを取れない場合優先度はあまり高くないのです」
「お、おう……」
別に早口というわけじゃなかったが、その情報量に少し圧倒された。チュートリアルのために派遣されて来たというのは伊達じゃないらしい。最初のやかましくうざったい態度がなければもうちょっと印象も違ったかもしれない。
自分で傷の治療が出来るというのは生存率に大きく関わる。俺の目的は敵を派手に蹴散らすことではなく、生きて家族の元に帰ることだ。だから、必要なのは魔法じゃなくて奇跡系統のスキルとやらだ。
妖精のアドバイスに従って、筋力、頑強、精神を優先度高めに、敏捷と魔力を優先度低めに設定する。
「武器を選ぶのです! 安い盾なら後で買えるから片手武器でも大丈夫なのです!」
次の武器選択はざっと流し読みして結局青銅の片手剣を選んだ。盾は買えるらしいし、当初の予定を崩す理由もない。
「最重要のスキル選択タイムなのです! よ~く吟味して選ぶのです! ちなみにチュトちゃんはガチャをオススメするのです!」
「ガチャ?」
ページの下の方を見てみると、たしかにガチャという表記があった。どうやらノーマルガチャとレアガチャがあるようで、ノーマルはN、UN、Rが排出され、レアはR、SR、URが排出されるようだ。レアリティは左から右に行くに連れて高くなる。
運が良ければ本来必要なポイントよりもずっとお得に高レアリティのスキルが手にはいるが、運が悪ければ欲しくもないものが手に入る。要するにただの運試しだ。
「この選択次第で生きるか死ぬかが決まるってのに、ガチャなんて引く訳ないだろ」
「ガチャの良いところはレアリティだけじゃないのです! 使い魔とかクラスとか、ガチャでしか手に入らないものが盛り沢山なのです! チュトちゃんはプレイヤーさんが希望を胸にガチャを回して絶望した姿を見るのが大好きなのです! ガチャを回すのです!」
「悪魔か」
妖精の言うとおりガチャにはメリットも大きいのだろう。だが俺は賭け事はしない。俺の目指す理想の大人は、賭けなんてしないからだ。
俺はガチャの画面を閉じて入念にスキル一覧を読み込み、妖精からのアドバイスを受けながら取得するスキルを決めた。
・治療の奇跡Lv1
HPを回復する。多少の傷を癒す。
・再生の奇跡Lv1
HPを僅かに回復する。欠損の状態異常を治す。
・回復の奇跡Lv1
疲労を回復する。毒、麻痺の状態異常を治す。
・剣術Lv1
剣の扱いをうまくする。
・盾術Lv1
盾の扱いをうまくする。
・苦痛耐性Lv1
痛み、苦しみに対する耐性を得る。
他にも取得したいスキルはあったが、ポイントはこれからも手に入ると妖精から聞いたので、まずは基礎を固めることにした。
最後にショップで木の丸盾を購入して準備は終わりだ。
「やっと準備が終わったのです! プレイヤーさんはいちいち悩みすぎなのです! さくっと決めて欲しいのです!」
「おたくと違ってこっちは命かかってんだ。そんな気楽に行くか」
「まるでチュトちゃんは命がかかっていないかのような言い方なのです! これにはチュトちゃんもおこなのです!」
「え、じゃあ命かかってんの?」
「かかってるのです! でもチュトちゃんには残機があるのです! だから実質無敵なのです!」
「おたくさあ……」
そもそも残機ってなんだよ。どういう生き物なんだよ。
なーんか流されてここまでやっちゃったけど、色々と怪しいんだよな。
わかりやすくするため、なんて言ってたけどシステムとかゲームそのまんまだし、おまけにチュートリアル、プレイヤー、HP、MP、残機とゲームっぽい用語のオンパレードだ。
もしかして、もしかしてだけど、侵略者がどうこうってゲームのシナリオだったりするのか?
俺はなんか超技術のゲームに巻き込まれてるだけで、別に実際は命がけの戦いじゃない、なんてことはないかな?
「なあ、妖精さんよぉ」
「チュトちゃんと呼ぶのです!」
「チュトちゃんよぉ、今更だけど侵略者がどうこうって本当なのか? 俺騙されてないか? 力を分け与えるとか、こんな遠回りなことしなくてもすぱっと解決出来るんじゃないのか?」
「本当なのです! 管理者には管理者の都合があるのです! そんな失礼なことを言うともう手を貸してあげないのです! 無様に死に晒すのです!」
「……悪かったよ」
実際のところ、真実がどうであれ今の俺には妖精の助けが必要だ。管理者とやらが本当に世界を守ってるのか、それとも遊んでるだけなのか知らないが、俺の生殺与奪が握られているのはどっちにしても変わらない。
だったら、家族を守るために戦っていると思った方がマシか。
「行こうぜ。世界を守るために」
「ひえ~、なのです! 急にこっぱずかしい台詞を吐き始めたのです!
こっちが恥ずかしくなるからやめてほしいのです! 鳥肌が立ったのです!」
この妖精、さっきからひどくないか?
チュトちゃんに産毛はないのです!




