ガチャ26 俺自身がSRになっていた
「投擲必中」
黒いベルトを全身に巻き付けた変態を追いかけながら、拾った手頃な大きさの石を投げつける。俺には野球選手のように狙ったところに物を投げられるようなコントロール力はないが、そこはスキルが補助してくれる。
Rスキル、投擲必中。十連ガチャで引き当てたスキルで、レアリティR以下のアイテム、装備を投擲した場合必ず対象に命中する。例え巨大な壁に阻まれていようと、何百メートル距離があろうともおかまいなしに、必ず命中する。
木々の合間をすりぬけるように走る変態の背中に、結構な勢いで石が命中した。というか、貫通した。
しかし、石が貫通したはずの変態の身体には穴は空いてない。貫通したと言うより、すりぬけたんだろう。
そもそも最初の一撃で倒せなかったことからも考えるに、距離感を麻痺させる何か、テンプレ的に考えるなら幻とかを見せられてるのかもしれない。
「抗魔の聖眼」
Rスキル、抗魔の聖眼。精神に作用する状態異常を打ち消す聖眼を発動すると、走り去ろうとしていた変態の姿が消えて、俺に対して手を振っている変態が出現した。最初から逃げるつもりなどなかったのだろう。
抗魔の聖眼はMPの消費が激しいため常時発動し続けるのは厳しい。1秒ごとにオンオフを切り替えて本体を見逃さないように戦うか。
「幻影魔法をあっさり突破されるとは思わなかったよ。君、一体いくつスキル持ってるんだい?」
「さあな」
俺の視線で幻覚が破られたことに気づいた変態は、手を振るのをやめて気さくに話しかけてきた。
こいつが何者なのかはわからないが、プレイヤーっぽい男をあそこまで痛めつけていた以上敵であることは疑いようがないだろう。同郷っぽい少女も居たしな。
っていうかこいつ、永久パターン対策だろ。
「お前みたいな喋る変態とは戦ったことあるけどさ、その時に一つわかったよ」
「へえ? 真っ当に戦って勝ったのかい? 君、凄いね」
真っ当にではなかったけどな。
今の俺は神剣を持ってない。変態の追跡をするのに邪魔だったから途中で放棄した。
だから踏み込みは、より鋭く、より速い。
「お前らの話は聞くだけ無駄だ」
接近と同時に抗魔の聖眼を継続発動。視界にブレはなし。今、目の前にいるこいつが本体だ。
「回帰」
変態は俺の強さの大半が神剣によるものだと知らない。もちろん神剣の見た目から素晴らしい一品であることは理解していただろうが、俺本体を全く警戒しないわけにはいかなかった。
だから、無手で突っ込んだ俺の攻撃を回避しようと動く。最小限の動きで俺の手の届く範囲を離脱して、反撃しようとする。下手に知能があるばかりに、動作が洗練される。
無駄のない回避は、しかしリーチを読み間違えれば致命的なミスとなる。完全に回避されるはずだった俺の攻撃は、突如手元に現れた神剣の分だけ範囲が広がり、読み誤った変態の腹をかっさばく。
「ぐっ!?」
致命的なダメージを受けた変態は、最後っ屁とばかりに俺の左腕に深い傷を付けた。驚くべきことに、HPのバリアを貫通して直接肉が抉られている。
「なるほどね。その剣が君の一番の武器だったのか。レベルは60~70くらいかな? 素で戦ったらちょうど互角くらいかもね。次に会う時を楽しみにしているよ」
まだ何かしてくるかと、反射的に後方に下がって剣を構えた俺だったが、変態は最後まで楽しそうに笑いながら消えていった。
前に戦った奴も、細かくは違うが話の通じないやつだった。あの余裕からしておそらく本当に死んだわけじゃないんだろう。次に会うときを、か。出きればもう会いたくないものだ。
「つーか、どこだここ?」
ポーションを飲みつつ周囲を見た感じ、たぶん森。だとしたら、女神が言っていた徘徊の森というフロアかもしれない。
何はともあれ、まずはさっきの場所に戻ってあの二人に聞いてみるのが手っ取り早いか。
いきなり助けて下さいなんて言われて困惑したが、あの場面で迷わずそう言えるということは、あの少女なら何か知っているはずだ。
来た道は完全にわからなくなっていたので、スマホを取り出してマップを起動しようした。
そこで違和感に気が付いた。
「ん!?」
俺の手が眩い光を放っている。いや、手だけじゃない! 全身が光り輝いて、どんどん周囲が見えなくなる。
それは次の階層へ移動する際の光の奔流によく似ていた。
「な、なんなんだ!?」
光が収まると、そこは見覚えのある峡谷だった。断崖絶壁に挟まれ、緩やかな流れの川があり、川に沿って僅かな足場がある。俺はその僅かな足場の上にいつの間にか居た。
ここは俺があの森に行くまで居た場所で、奈落の迷宮第五十一階層、つまり女神に連れてこられた最初のマップだ。フロアで言うと、竜の峡谷第一階層ということになる。
たしかに元々俺はここに居たのだから、またここに戻ってきたのはおかしな話じゃない。でもなんだって急にあんな森に行くことになったんだ? あの変態を倒したら帰ってきたみたいだから、そういうクエストみたいな何かか?
……あ。もしかして、助っ人機能か!?
ソシャゲには自分で編成したパーティーの他に、一枠だけ他のプレイヤーのパーティーリーダーを助っ人に加えられる場合がある。もしかして、俺はさっきの二人組に助っ人として呼ばれていたんじゃないか?
こうしちゃいられねえ! 早くフレンド登録をしなくては! あと俺も助っ人を呼ぶぞ!
この助っ人システムには、戦力面以外にもう一つ嬉しい要素が含まれていることが多い。それは、フレンド登録した相手の助っ人になったり逆に助っ人になって貰ったりした場合、お互いにフレンドポイントというものを貰えるというシステムだ。
フレンドポイントが何に使えるかというのはゲームによるが、傾向として一番多いのはガチャ!(当社比)
つまりこの助っ人システムを活用すればスキルポイントがなくてもガチャが引けるかもしれないのだ!
「血沸き肉躍るぜ!」
「ってこらー! まずはわいの安否を確認せんかいドアホウ!」
血眼になってスマホをいじっていたら、何か柔らかい、されど弾力のあるぷにぷにとしたもので頭を叩かれた。
おお、忘れてた。
「猫! 無事だったか! 俺はもう心配で心配で!」
「嘘つくなやオンドリャァ! こっちは大変やったんやぞ!」
毛を逆立てて激怒するデブ猫。
心配だったのは事実だが、一瞬猫のことを忘れてスマホに夢中になってしまったのもまた事実であるため、仕方なくお小言を聞いてやった。
なんでも猫は、俺が森に移動させられたと同時に何もないセーフティエリアに隔離されたらしい。そこでなんとまたあの厚かましい女神様が現れ、何が起こっているのかを説明してくれたそうだ。
「なるほどねぇ」
なんでも運営は新しいシステムとして助っ人用のショートサモンという呪文カードを開発したらしいのだが、運用テストをするにあたってコスト削減のためにプレイヤーを使ってみることにしたらしい。
呪文カードは宝箱の他ガチャやボスドロップで手に入れることが出来、そこに描かれている人物が一度だけパーティーに加入して戦闘に参加してくれるという仕様なのだそうだ。
で、その助っ人を誰にするかってところで、助っ人ならやっぱり強くなくちゃね、という話になって、唯一運営にぶっこわれ認定されている武器を持った俺に白羽の矢がたったというわけだ。
森に呼ばれた状況が切羽詰まっていたのも、変態を倒したことで戻ってきたのも、そういう仕様だったからということか。
「ちなみに俺のレアリティは?」
「SRらしいで」
ほうほう、SRねぇ。
まあ一戦でなくなるってことを考えたら流石にURには出来ないよな。かと言って、ぶっこわれ認定された武器を持ってる助っ人をほいほい呼ばれても面白くないから排出率的にRにはしたくなかった。だからSR。たぶんそんなところだろう。
ああ、しかしなんてことだ。別に助っ人システムが新たに導入されたわけではないのか……。フレンド登録とかも出来ないみたいだし、期待して損した気分だ。
ガチャ、ガチャを回したい。
「それで、助っ人に行ってどうやったん?」
「少しだけ面倒な敵がいたけど大して問題はなかったよ」
あ、そういえばあいつ倒して経験値入ってないかな……っ!?
「な、なんじゃこりゃあああ!?」
「んにゃ!? な、なんや!?」
急に大声を上げたせいで、猫がビクッと体を揺らして近づいてきた。
しかし、申し訳ないが今の俺には猫に構っている余裕はない。
「れ、レベルが……」
「レベルが?」
「レベルが一気に10も上がっているだとおおお!?」
「な、なんやてえええええ!? って、大げさすぎやないか。なにかと思ったやないかい」
猫はそんなことかと舌打ちして離れていったが、そんなことで済ませて良い話じゃない。
なぜだ? なんであの変態はあんな経験値を持ってたんだ? この階層で倒した変態はここまで経験値を持ってなかった。階層の差から考えてもこっちの方が経験値は上のはずだよな……?
「そうか!」
パーティーメンバーが経験値を増やすスキルを持っていたとすれば、ありえるのか。経験値はパーティーで均等割りだから、一時的に加入した俺にもその恩恵があった。
いや、だとしても倍率おかしくないか? パーティーメンバーがあの少女と満身創痍の男だけだったとして、3人で割るんだぞ。その上で67レベルの俺が10もレベルアップするってことは、10倍や20倍じゃきかないはずだ。
50くらいか倍? それともまさか、100倍?
「うわああああ! こっちでこそ役に立つスキルじゃねえかあ!」
低階層でそんなスキルがあっても、あっという間にレベルキャップに引っかかってほとんど使い物にならないだろう。
今、俺は低レベルのまま高階層に連れてこられたせいで全然次の階層に進めていない。レベルキャップに届かないのだ。毎日魔物を狩ってレベルを上げているのだが、長居するなと言わんばかりに変態が出てきたりしやがるし、本当に困っている。
もっとあのパーティーに呼び出して貰えればレベル102なんてあっという間なのに。
「ああ、レアリティNなら……、UNなら……。せめてRならぁ……!」
また呼び出して貰えるかもしれないって言うのに!
「ま、地道にやっていこうや!」
親指をぐっと立ててニヒルに笑う猫。猫がどうやって親指を立てているんだ……。
クソ! それもこれも猫に伝言を残していった女神のせいだ!
まさか、俺自身がSRになっていたなんて!
SRが妥当です




