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ガチャ25 歩き出した二人

 徘徊の森第五階層、森の中を円状に切り抜いたように広がる場所に、巨大な猿が座っていた。あれが徘徊の森のボス、大樹猿。たしかに、木々に連なって擬態していれば、樹そのものに見えるかもしれない。それくらいに大きい。


 大樹猿はフロアに現れた私たちに気が付くと、後ろ足で器用に立ち上がりドラミングを始めた。

 いや、それゴリラがやるやつでしょ。大きいからって猿とゴリラは違うでしょうに。


「ファイアボール!」

「アースランス!」

「エアスラッシュ!」



 お得意のLv1攻撃魔法三連発。

 ファイアボールは今までよりもずっと大きく、エアスラッシュは滅茶苦茶速く、アースランスはとても鋭く、それぞれ強化された魔法が大樹猿に突き刺さる。


 魔法はスキルレベルが上がったからって、効果が変わるようなことはない。新しい魔法を覚えるだけで、既存の魔法はそのままだ。でも、レベルアップを重ねて魔力を上げていけば、その分効果は高くなる。

 加えて、今の私には魔法使いのクラスと大魔法使いの大杖がある。この二つの要素が、魔法使いとしての私を大きく飛躍させてくれた。


魔法使い

・特定のスキルを取得するための必要ポイントが2割減少する。

・特定のスキルの習熟が僅かに早くなる。

・特定のスキルの効果が僅かに上昇する。


大魔法使いの大杖

・魔力F

・魔法攻撃力D

・短縮詠唱


 クオウを助ける一心でガチャを引いた時はこんなものいらないと思ったけど、改めてみてみるとどっちも凄い性能だった。


 魔法使いのクラス。レアリティはRで、分類はクラス。つまり魔法使いっていう職業になったってことだ。RPGやソシャゲなら職業の概念があっても何もおかしくない。それがガチャでしか手に入らないっていうのは悪辣だと思うけど、その分効果は折り紙付き。

 魔法を主軸にして戦うなら鬼に金棒と言っても過言ではないんじゃないかな。私が鬼と呼べるほど強いかは置いておくにしても、これほど私の戦闘スタイルと相性の良いクラスは他にないと思う。ちなみに、特定のスキルっていうのは魔法使いの場合魔法スキル全般になるみたい。


 大魔法使いの大杖。レアリティはRで分類は装備。元々私が持ってた木の大杖の完全上位互換。私の本来の魔力はF+で、これを装備すると一気にDまで跳ね上がる。内部の処理がどうなってるのかはわからないけどその差は歴然。

 さらに短縮詠唱。これはクールタイムを半減させるスキルで、一つの戦闘での火力を実質的に2倍に引き上げるようなもの。魔法攻撃力Dの補正も合わさって、とにかく私はとんでもない火力の魔法使いになった。


 クラスはこれからの探索をじわじわ有利にしていくタイプだから今の段階では恩恵を感じづらい。大器晩成ってやつかな。

 逆に大杖は、今はとんでもないアドバンテージをもたらしてくれるけど、いずれはもっと良い装備にしないいけない時がくる。


 でも、この序盤ではやっぱり装備の方がありがたい。


 装備はレアリティが上がるごとに値段が跳ね上がる。R装備はショップで売ってるから、ガチャから出たらハズレと思うかもしれないけど、序盤はむしろ逆なんだ。

 値段が高い分高レアリティの装備は性能も良い。大魔法使いの大杖なんてまさにその典型で、店売りのを買おうとしたら50万dでも足りない。

 以前勇者のカードを売ればR装備を揃えられるって考えたけど、あれはR装備の中でも下限のものならって話だ。同じレアリティでも上と下を見たらとんでもない差がある。


「ガガガガ! ギャアア!」


 魔法の直撃を受けて大樹猿が悲鳴にも似た奇声をあげる。

 今の三発で随分ひるんだみたい。暴れ坑道狸の時はこんなに簡単にはいかなかったから、やっぱり良い装備のおかげだね。


「援護を頼む!」


 私の魔法に追従するように大樹猿に接近したクオウが、切りかかりながら叫んだ。

 私はそれが嬉しくて、大杖を握る両手につい力が入る。


 ボス部屋に入る前、クオウから渡された中級ポーションで私の左手は再生した。クオウが言うには、いずれ自分のお金が貯まったら中級ポーションを勝ってくれるつもりだったらしい。

 悪魔が倒されたことで臨時収入があったから、それを前倒しにしたそうだ。


 やっぱりクオウは優しいやつだ。なんだかんだ言って、私のことも考えてくれてたんだ。


「アースハンド!」


 クオウから距離を取ろうとした大樹猿を、地面から伸びた土の手が捕まえる。以前は一本だけだったけど、今回は四本。それぞれ両手両足を掴んで話さない。


「一刀両断!」


 クオウの持つ両手剣が青白い光を発して大樹猿の左後足に叩きつけられた。横なぎに振るわれた剣は、HPのバリアを貫通してざっくりと大きな傷を付けた。


 一刀両断。Rのアクティブスキルで、攻撃力に大きな補正がかかる。片手剣とか斧みたいな、刃の付いてる武器なら何でも発動する。ただし、刃の長い武器ほど攻撃力への補正が大きいらしい。

 更に追加効果が一つある。というより、むしろこっちの効果の方がメインだ。それは、HPのバリアを貫通して相手にダメージを与えるということ。

 腐ってもボスである大樹猿にこんな序盤で大けがを負わせられたのは、その効果によるものだ。


 このスキルは、ボス戦前にクオウが新しく取得したスキル。クオウは今まで、スキルポイントを一切持ってなかった。なんでかっていうと、クオウのレベルは元々17あったからだ。

 元の世界で鍛えていたこともそうだけど、そもそも貴族は平民よりも圧倒的に強い身体を持ってるらしい。その強さが、このダンジョンでレベル17相当だと判断されて、今まで一切レベルアップをしてなかった。


 けど、あの悪魔を倒した時にようやくレベルがあがって、スキルポイントを250手に入れた。たぶんあの悪魔そのものが200分のスキルポイントなんだと思う。私の時も200多かったし。

 その余分にもらえたスキルポイントで取得したのが、一刀両断。


「ギャオオオオ!」


 痛みに身をよじり、土の手の拘束を力尽くで逃れた大樹猿が、広場を囲う森の中に逃げ込もうと走り出した。樹猿同様に擬態してからの奇襲を狙ってるんだろう。


「ファイアプリズン!」

「アースウォール!」


 ファイアプリズン。火魔法Lv2の魔法で、土や風の魔法が自分を守る魔法だったのに対し、この魔法は逆に相手を閉じこめる魔法。

 大樹猿を中心に円形の炎がたちあがり、行く手を阻む。さらに炎の壁の外側を土の壁で覆い、容易に脱出できない直火焼きの牢獄を作り上げる。

 本来アースウォールは長方形の板チョコみたいな壁を出す魔法だけど、魔力の上がった今ならこんな応用もできる。


 もうこの魔法は新しい魔法と言っても過言ではない。


 魔法と魔法を組み合わせることを、複合魔法と呼び、システムに認証された複合魔法は新たな一つの魔法として登録される。クオウの使う泥魔法も本来システムには登録されていない魔法で、元の世界でクオウが土と水の魔法を組み合わせて愛用していたことからいつの間にか登録されてたみたい。

 ただし、認証には明確なイメージや合理性、名付けが必要みたいで、まったく関連性のない複合魔法を登録することはできない。

 ちなみに、複合魔法についてはクオウのスキル一覧にある泥魔法の説明に含まれてた。


 複合魔法を新しい魔法として登録するメリットは、詠唱が短縮されることと、認証された魔法と元の魔法は別扱いだからクールタイムもそれぞれ別にあるってこと。

 私が今使った二つの魔法は、クールタイムが明けるまで当然使えない。だけど、この二つの魔法を組み合わせた複合魔法を新しい魔法として登録すれば、新しい魔法を使った後に連続でファイアプリズンとアースウォールを使うことができる。

 多少MPの燃費は悪くなるけど、状況次第で複合魔法と新魔法を使い分ければいいだけで、とにかく新しく魔法を登録しない理由なんてない。


 イメージはばっちり、合理性は微妙かもしれないけど、最後は名付け。

 閉じ込めて炎で殺すと言ったら、これが真っ先に思い付いた。 


「拷問魔法、ファラリスの雄牛!」


 ファイアプリズンの範囲を狭めて直接大樹猿を焼き始める。

 閉じ込めてるのは土だし牛の形でもないし、炎と土が逆のような気もするけど、細かいことは気にしない気にしない。


 どんどんと壁を叩く音が聞こえるけど、大丈夫。強化された私のアースウォールは何発かまでは耐えられる。

 ファイアプリズンだけだったらやっぱり閉じこめきれなかったな。


「スワンプ」


 スワンプ。泥魔法で、足下を泥沼に変えて敵を沈ませる。底なし沼になってるそれは、放置しておくだけでも窒息死させられるけど、泥沼化してる間ずっとMPを消費し続けるそうで、クオウがすぐに解除して足止めに使うのも納得だった。


 ただ、今回は解除せずそのまま泥沼化させ続ける。さっき私のアースハンドからあっさり抜け出したところを見るに、解除したらすぐに抜けられる。クオウもそれはわかってるんだ。


 脱出してくるよりも早く使われた泥沼化の魔法によって、大樹猿は足をとられて抜け出せなくなったのだろう。中を見ることはできないけど、今も出てこないってことはそういうことだと思う。


 それから十数秒が経過したところで、次の階層への扉が現れた。ついでにスマホを見てみると、レベルは20に上がってた。

 無事、倒せたみたいだ。


「やっぱりクオウが一緒に戦ってくれると違うなー」

「今回はほとんどムツムィの手柄だったような気がするが……」

「前衛が居るだけで安心感が違うんだって! ありがと!」

「……ああ、それはなによりだ」


 頬を赤く染めたクオウが、少し顔を逸らして小さくそう言った。


「あ、うん……」


 あ~もう! そういう反応されるとこっちまで変な気分になるじゃん! 今はそういうんじゃないって!


「ほ、ほら! とりあえず宝箱ないか確認して行こ! 休憩するにしてもセーフティエリアの方がいいじゃん!」

「そうだな。……そうしよう」


 今までよりはずっと歩み寄れて、理解しあえた私たちだけど、恋人同士ってどういうものなのかよくわからなくて、何だか少しだけ変な気分だった。


 でも、こんな気分なら悪くないって、そう思いながら、私たちは歩き出した。




二章 了

拷問魔法ですか。う~ん、採用!

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